第4話

「はぁはぁはぁ」

共依存を解かれた七雲は苦しさのあまり倒れたまま肺から空気を絞り出すだけで精一杯の状態だった。


「おっさん、大丈夫か?」

どこかに隠れていた、るーがいつの間にか横に来ていた。大丈夫か?と声をかけたわりには、さして心配をしているようには見えない。


「ベルクのおっさんも以外にやるねぇ」

「嬢ちゃんにお褒めにあずかるとはこの上のない栄誉だな」


七雲はベルクの言葉にぴくっと眉間にしわをよせ

「おい・・・相棒、お前の宿主は俺だってことは忘れるなよ」

「七雲、わかっておる。お前はその状態で何をつまらない嫉妬をしているのだ、修行が足りんぞ、修行が」


それを聞いた七雲は顔を赤くして

「な、なに・・・おれが嫉妬だと、ごほっ、ごほっ」

「ああ、もういいもういい、悪い冗談だ少し黙って休んでおれ」


「いざとなったらこのぬこで一緒に戦おうかと思ってたけど、その必要はなかったみたいだね」

「ははっ、お嬢も冗談が好きだな。思念獣タイプはその力ゆえ宿主といわば一心同体。その猫がやられたらお嬢もただではすまんぐらい承知しておろう」

ベルクは途中から真剣に怒っているようだったが

「まぁね。冗談冗談」

るーは、いたずらっぽく舌を出し、笑って返した。


「さて、七雲そろそろ落ち着いたか?あの男一体何者か急いで調べるぞ。さすがにこれだけ暴れたらそろそろ誰かが来てもおかしくない。我らが見つかるのはさすがにまずかろう」

「わかった」

七雲は短くそう言うと意識を失って倒れている男の持ち物を調べ始めた。

「男の身元がわかるものは何も持ってないが、名刺があるな。名前は根本周平、会社名は藤堂サイバーセキュリティシステム、職名はSEをやっているみたいだな」

「藤堂グループ!」

るーが横から言葉をはさんだ。

「知っているのか?」

七雲がるーにそう聞くと

「いやっ、逆におっさん、藤堂グループを知らないって、お前ほんとに働いてるのか?藤堂グループっていったら世界規模の超巨大企業で、知らない社会人なんていないだろ、普通・・・そうかわかった!おっさん、怒らないからホントのこと言いなさい。自分はプー太郎だって。大丈夫私は以外と慈悲深いし、心の準備は出来てるから」

るーは少しだけ哀れんだ目をして七雲を見つめた。

「おい、こらっ、そんな哀れんだ目で俺を見るな。なんで藤堂グループを知らないってだけでそうなるんだ。俺はちゃんとしたサラリーマンだ。まぁたしかに・・・うだつは上がらないが」

「ほらみろ、藤堂グループを知らないサラリーマンのうだつが上がる訳ない。もうおっさんしっかりしてくれよ。こっちが恥ずかしいだろう」


「すまん」

七雲は恥ずかしさのあまりしゅんとして思わず謝ってしまった。

ここでベルクが助け船を出した。

「まぁもう今日はここまでにしておこう。得られた情報は名刺からだけだが、おそらく藤堂グループとやらが関わっていることだけは確かなようだな。いったん解散して後日改めるとしようか」


ベルクは銃タイプからリングタイプに形を変え七雲の指に収まった。

「七雲、これでお主とは思念を通じていつでも会話が可能だ。嬢ちゃんもその猫はもうすぐ消えるが次は頼むぞ。根本といったか、この男はこのままで大丈夫だろう。思念器が破壊されて、晴れて一般人に戻れたんだからな。では散!」



(ああ、いつもの夢か)

るーはまどろむ意識の中でいつも見る夢をいつものように見ていた。


そこは世間からは閉鎖された病棟が舞台となっていた。当時一部の子供達の間であるウイルスが流行りだしていた。そのウイルスの名称は関係者の間でTSウイルスと呼ばれていたが、なぜ一部なのか原因及び感染経路等すべてが不明だった。それゆえ一般病棟は使用されず、冒頭の閉鎖病棟で封じ込めが行われた。封じ込めを行った成果なのか、それとも他の要因なのかは分からなかったが、感染源はT地区のみで、そのほかの地区には一切患者が出なかった。結果いわゆる風土病の一種としてこのTSウイルスは片づけられようとしていた。

感染した子供達に共通する症状は主に高熱のみだが、その高熱ゆえに体力のない子供が1人また1人と病室から姿を消していった。さらにTSウイルスに冒された子供達の中の一部の子供達には特異な症状が現れていた。それは毎晩頭の中で不思議な声が聞こえるというものだった。だが関係者達は声が聞こえるのは高熱のためにうなされたためだと推測し、この特異な症状については特に調査を行わなかった。


しかし後日生き延びた子供達の間ではある噂が流れた。このTSウイルスから生還できたのはこの特異な症状を訴えた自分たちだけだったのではないか、そして自分たちにある種の特殊能力が備わったことを。

子供達の間ではその能力はVisionと呼ばれたがその能力を人前で使用しないことはいつのまにか子供達の間で暗黙の了解となっていた。

このことは大人には知られてはいけない。おそらく自衛の本能がそうさせたのだろうか。それとも自分たちが違う何かに変わってしまった恐怖に耐えられなかったのだろうか。おそらくその両方だろう。


るーもその不思議な声が聞こえた患者の1人だった。しかしるーには何を言われているのか理解できなかった。

(世界を・・・お前の・・・・・・力・・・・・)


がばっ、るーはいつもそこで睡眠状態から跳ね起きる。

「はぁっ、はぁ」

起きた、るーの手にはじっとりと汗をかいていた。

「いつもここで終わる。この先があるはずなのに、どうしても思い出せない。私の力?いったいこの力で何をすればいいっていうの?どうして私が・・・いや違う私だけじゃない、おっさんだって、他のみんなだって・・・」

るーは目に涙を浮かべある人のことを思い返していた

(朱音はこの先を見たのだろうか?そして・・・そして私はいったい何者なんだろうか)

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