第3話
「おい、相棒、これはさすがにやばいんじゃねえのか」
既に七雲は2発の弾丸を放ったが、男にはダメージらしいダメージを与えられていなかった。
「ふむ、どうやらあの短剣の主は、本体に意識がないのをいいことに体に思念の膜をはってダメージを防いでいるようじゃな。普通本体の思念を乗っ取ることは体へのダメージが大きすぎて滅多にやらないんじゃが」
「それじゃあお前の威力じゃあいつを倒せねえじゃないか。しかも残りは3発だ」
「さてさて、どうしたものかのう」
ベルクは思案をしているようだが、深刻さは感じずどこか楽しげであった。
「仕方ない、ここは我らも共依存を使うか」
「うへぇ」
七雲は心底いやな顔をして場違いな声をあげてしまった。
「それだけはいやだったが・・・他に方法はないのか?」
「残念じゃが、ないのう。相手は2本、残りは3発。それしかあるまい」
「1発余るじゃねえか。それは?」
「聞かずともわかっておろう。最後の1発は自決用と決まっておる。武士の最低限のたしなみじゃ」
「聞いた俺がばかだったが、相棒、お前刀じゃないんだから、こんな時にまでいいかげんって、うわっ」
七雲達が話をしている間に男は間合いをつめてきていた。力任せに短剣を振り回し、あたりの構造物を根こそぎ破壊していく。
七雲はいったん男から距離を取りつつ体制を立て直す。
「このままじゃさすがに無理か。仕方ない、相棒俺の体を貸してやる」
「七雲、恩にきるぞ。それではいくか、儂も嬢ちゃんにならって、ばびぶべぼ」
(うう、俺の口でそれを言わないでくれ)
「藤堂様、どうやら何者かがT地点にはなった餌にくいついたようです」
モニターがいくつも並んだ薄暗い部屋でやや事務的な物言いで神崎綾音は藤堂に告げた。数日前会議室で見せた表情とはかなり異なる印象を与えるが、今は藤堂の能力であるワールドリフレクションの支配下にあった。
(何者かって、そんなのきまっているじゃないか)
藤堂は心の中でほくそ笑んだ。
「そうか、どうやらすべての準備は間に合ったようだな。綾音、Dモニターを拡大してくれ」
モニターの映像には男女2人が映し出されていた
(ようやく見つけた)
「彼女の意志を継ぐのは僕だ。そうフォーチュンリングと呼ばれた水無月朱音の望みは世界の崩壊だった。彼女ならそれが出来たはずだった。それなのにお前達がそれを邪魔をしたから!」
藤堂は神崎綾音の存在を無視し興奮気味に話を続けた。
「ヒントはそこにある。さあゲームの始まりだ。魔王は僕だ。君たちの勝利条件は魔王を倒して世界を救うこと。僕の勝利条件は勇者を倒して世界を滅ぼすことだ」
「ああ、そうだ、そういえば答えを言うのを忘れてたな」
藤堂正太郎はやや冷静さを取り戻した口調で続けた。
「綾音、この間の質問のどうして世界は滅びないかだったね。簡単なはずなのに。その答えはここにあるんだ。誰も気がつかず世界が滅びたら、魔王はどうなってしまう。たった1人になってしまった世界にいったい何の意味がある。その孤独に魔王は耐えられなくなってしまう。世界を滅ぼすにはそれを見届ける勇者が必要なんだ。それが条件なんだよ」
藤堂正太郎は完全に冷静さを取り戻しモニターを静かに見つめていた。
「ばびぶべぼ」
ベルクいわく真の戦の合図だそうだが、最初はこんなことは言わなかった。七雲には、るーのらりるれろを真似ただけにしか思えないし、二人とも何かの冗談をしたいとしか感じてない。
そんなことを考えながら、合図とともに七雲とベルクの表面が薄い光の膜で覆われ始め、七雲は静かに自らの意識を閉じた。
「共依存状態はあまり長くはもたんのでな、短剣の主よ、ちと悪いが遊びはなしじゃ。ふむ、とはいえやはりこの離れた距離ではさすがに無理か。多少強引だがこちらも接近戦に持ち込むとしよう」
ベルク、いやベルクに意識を預けた七雲は体型からは考えられない早さで短剣の男に対して間合いをつめた。
七雲が男の間合いに入ると同時に、男は短剣を振りかざした。
「ガキィン」
金属同士のぶつかる音がした。七雲はベルクのグリップの裏側で短剣の1本を受け止め、その短剣への反作用を利用し銃身を固定し、返す刀で引き金を引いた。
「ズギューン」「バリーン」
1発の銃声と同時に鈍い金属が割れる音があたりに響きわたった。
「まず1本目」
短剣の男は尋常でない殺気を感じ、形勢が悪いと悟りいったんうしろに飛び退った。
「ふむ、短剣の主よ、筋は悪くなかったな。しかし2つ大事なことを忘れておる、1つは儂が銃だということをな、そして2つ目はそこはまだ儂の間合いだということだ」
ベルクは短剣の男が着地した瞬間を冷静に見極め最後の1発を放った。男は体制を整えることが出来ずそのままベルクの放った弾丸は2本目を打ち抜いた。
「勝負あり、これにて共依存を解くぞ、七雲」
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