第2話

「らりるれろ」

そう告げると2人の体が光につつまれた。

光が消えた後、男の手には年代を感じさせる古い銃が握られていた。

「久しぶりだな、ベルク、いや相棒と呼んだ方がしっくりくるか」

「ほう、その名で呼ばれるのも久しいな。まぁどっちでも好きにせい、しょせん元は無銘だ。七雲、お主こそ達者だったか?」

「まぁな。久しぶりに力を貸してくれるか?」

「ふむ、嬢ちゃんも一緒か、まぁいいだろう。つもる話もあるが、既に儂自身の共鳴が始まっているな。敵が近いか」


「ぬこ!!!」

突然るーが叫んだ


「おい、るー、どうした?急に叫んで。もう時間がないぞ。いいかげん臨戦態勢を・・・」

七雲が、るーの方に振り向いた。

「いや、いやいや、これ見ればわかるでしょ。ぬこだよ、ぬこ!」

七雲は深いため息をついて答えた。

「いや、ぬこじゃなくて猫だろ、それ」


るーは半分涙目になりながら

「いやっ、つっこむところはそこじゃない。私の思念獣が猫だ。これじゃあ戦えないじゃないか」


「はっはっはっはっは、嬢はあいかわらず力の制御が苦手じゃな。こいつは愉快愉快!仕方がない七雲我らだけでやるぞ」

ベルクは豪快に笑った。

「いやっ、お前俺らだけでやるって、自分自身の制約のこと忘れてないか?」

七雲はいらだちを隠せず思わず声をあらげた。

「忘れてはおらんぞ。さあいくぞ、戦いの合図だ!」

ベルクはそう言い放つと無理矢理七雲の手に握られている自身の銃口を空に向け、銃声を1発響かせた。


「相棒・・・いいかげんにその戦いを始める前に無駄弾を撃つのをやめろって何回も言って」

七雲が最後まで言い終わる前にベルクが自らの言葉でさえぎった。

「七雲、戦とは流儀であり、己の美学でもある。お主にこれを曲げる権利なぞないぞ」

「それはわかっているがこれで残り5発だぞ!るーなしでどう戦うんだ!」

「おっと、そうじゃった、そうじゃった。お嬢は悪いがどこかに隠れておいてくれんかの?隠れるのはいいがその眼で我々の久々の初陣とくと見ておくのじゃぞ」

ベルクはかっかっかーと笑いながら改めて七雲に告げた。

「さあ、七雲お遊びの時間はこれでおしまいじゃ、これより戦を始める!」

一瞬黒い銃口がにぶく輝いたように見えた。



時間は少し前に戻り、るー達が出会う数日前のとある会議室

「藤堂様、本日の会議お疲れさまでした。本日の予定はこれですべて終了となります」

女性は、はきはきとした口調で上座に1人腰掛けている男に話しかけた。


男はゆっくりと立ち上がり窓際から眼下を見下ろしながら呟いた。

「どうして、世界は滅びないと思う、綾音君」

神崎綾音は、質問の主、藤堂正太郎から突然意図しない質問が飛び、言葉に詰まってしまう。

「藤堂様、なぜ・・・突然そのようなことを?」

「綾音君、世界を滅ぼすことなんて本当は簡単なことなんだよ。それこそ世界が本気を出せばね。まぁおそらくこの世界が本気を出すなんてことは制度上ありえないことだが」

やはり神崎綾音はなにが言いたいのか理解ができずおそるおそる尋ねた。

「滅びるというのは、その、核戦争やテロによってですか?」


「いや。核戦争やテロなんかでは世界は滅びないよ。核戦争ならせいぜい人口が半分、テロなら人口が数百人減るだけだ。それでは世界を滅ぼすなんて夢物語にすぎないかな」

藤堂正太郎は優しい口調で神崎綾音に説明をした。

その藤堂正太郎のあまりにも優しい口調と話の内容とがかけ離れすぎていて逆に神崎綾音は恐ろしくなった。数ヶ月前から藤堂正太郎の秘書としてお世話をしてきたが、このようなことを口にするのは初めてだったからだ。

「ああ、綾音君ごめんごめん、最近そんな小説にこっててね、なんとなく聞いてみただけだよ。驚かしてごめん」

藤堂正太郎はそう言うといつもの笑みを綾音に向けた。

「そ、そうなんですね。小説の話ですか。よかった。私ちょっとびっくりしちゃいました」

神崎綾音はそういうと安堵のため息をついた。

「あっ、私お茶のおかわりをお持ちいたしますね」

神崎綾音はそう言うと会議室から出ていった。



藤堂正太郎、彼は20代の若さでここN地区を拠点とした巨大企業藤堂グループのトップであるCEOの要職についている。

藤堂グループはN地区だけでなく世界の政治・経済・軍事産業にまで影響が及んでいる巨大企業にまで成長したが、元はただの製薬会社だった。この製薬会社で研究員として働いていた藤堂正太郎がある日いきなり経営陣に迎えられ、強引なM&Aを繰り返したった1年という短い期間で驚くべき成長をとげた。強引なM&Aを繰り返したにも関わらずその手法に敵対的買収が用いられなかったことで逆に黒い噂が流れたこともあった。もっともその噂を流すべきメディア自体も買収され、静かにしかし着実に成長は進んでいる。


「世界を滅ぼすか。本当にいいんだろうか?」

藤堂の自問に答える者はここにはいなかった。

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