らりるれろ
ゆーま
第1話
「だいたい1年ぶりくらいか、るー」
高層ビル群の一角で男はそう呟いた。
時刻は深夜であり、あたりに人気はまるでなかった。ちょうど月明かりに照らされた先には見知らぬ男が1人ビルの屋上をうろついていた。
「そう、ちょうどそれくらいかしら。それにしてもあいつも能力者かしらね。久々に微弱な共鳴を感じたから急いでここに来てみたけど。何か実験でもしてるみたい。それとも私たちをおびき寄せる餌としての役割かしら。まぁ、どちらにしろここに来てしまった時点で釣られたことには変わらないか。とはいえ1年前に組織、いや、水無月朱音は確かにこの手で止めをさしたはずだけど」
るー、と呼ばれた女は、一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐにするどい視線を空に向けた。
「しかし、あれからもう1年か、水無月朱音、能力名『運命の歯車』まぁフォーチュンリングと呼んだ方がしっくりくるか、やつが起こした計画は確かに潰したはずだ。もっとも片割れの『不協和音』ことディスコードサウンドは結局居場所がわからず行方不明のままだったがな。とはいえ片割れだけでは計画は実行できないはずだし、基本的には単独行動を好むあいつが組織を立て直したというのは考えにくいな。頭をつぶしても組織は復活するものだが、フォーチュンリングなしではそれも考えにくいか。
・・・あまり考えたくないが別の誰かという可能性が強いな」
「別ねぇ。正直あんまり会いたくないかなぁ。あと悪いんだけど朱音を能力名で呼ぶのはやめてよね」
るーは少しだけ語尾を強めながらそう言った。
「そうだったな、すまん、悪かった。しかし計画を潰した後はお互い別々の道を歩んでいたはずだったが、共鳴に気がついて来てみたら、まさかまたお前と再会するとはな。まるで見えない運命の歯車が今日動き出したって感じだな」
男はそこまで言うと、るーに同意を求めるように一度沈黙を保った。
るーは少しだけ間をおいてから口を開いた。
「そうかしら?しょせんは偶然でしょ。それに偶然はいくつ重なっても偶然よ。運命だのなんだのってのは所詮後付けにすぎない。それにこんな私たちにはそもそも運命という名の未来なんて最初から存在しないもの」
るーは冷めた口調で男の主張を真っ向から否定した。
「未来がないか。まぁそこは同意だな。お前の現実主義的なところはあいかわらずだがな」
「あー、そうそう久し振りすぎて忘れてたわ、おっさんが筋金入りの運命論者だってこと。矛盾よね、それって」
るーにおっさんと呼ばれた男は苦笑いを浮かべながら軽く笑ったが、その面影からはそれほど歳を取っているようには見えなかった。るーと呼ばれた女と同様20代くらいの若さだ。笑いながら男もそのまま視線を同じく空にあわせ、るーには聞こえない小声で呟いた。
「せっかくまた会えたんだから運命ぐらい信じてもいいんじゃないか」
ビルの屋上をうろついている男は、だらしなくよだれをたらし、虚空を見つめていた。何か独り言を言っているが、るー達のところには聞こえない。
男はしばらくするとあたりを見回した始めた。一瞬視線が、るー達と交差すると天に向かって雄叫びをあげた。瞬間男が光につつまれ両手には短剣が握られていた。
「あいつ俺と同じ思念器タイプか。だが見たところ本人の意識が思念器に取り込まれてるみたいだな。まるで能力が生まれたばかりみたいだが、さすがにそんなはずはないか。思念器の意識が強すぎるのか、それともそこまで俺と同じか。どっちにしろやっかいだな。こっちもそろそろ戦闘態勢に入るか。ところで、るー、お前の能力は大丈夫なんだろうな?」
「うーん、正直自分でもよくわかんない。この1年は平和そのもの、だって私普通にOLしてるし」
少し眉間にしわをよせて、むぅというちょっと困った表情を浮かべ、るーは言葉を返した。
「OL?お前が??いやいや、こんな時に冗談はやめてくれよ。お前なら要人暗殺か何かだろ」
「おっさん、あいつの前に、この場で私が殺るわよ!OLはほんとよって、なにその要人暗殺って、いつの時代よ、この時代にそんなこと出来るわけないでしょ!まぁひどい話ばっかりだけど、今度話すわ」
「へぇ、そりゃあ楽しみだ。俺のくそつまらん人生のちょっとしたスパイスになりそうだ」男は自嘲気味にくくっと笑った。
そんなやりとりをしている内に、2本の短剣を構えた男はゆっくりと獲物を追いつめるようにビルの階段を降りてきていた。
「おっさんの方こそ大丈夫なんでしょうね?明日の朝には仲良く遺体が2体並んでいるなんて、私いやよ」
「いや~、実は俺もまじめなサラリーマン生活で、最近ちょっと腹も出てきて・・・」
あちゃ~という表情を浮かべながらも一瞬だけ、にやっと、るーは微笑んだ。
「相変わらずだね、変わってなくてけっこうけっこう。
まぁ、最初の敵は雑魚と相場が決まっているんだからちゃちゃっと片づけちゃいましょう」
それじゃあいつもの合い言葉!!!
「らりるれろ」
(ううっ、毎回思うんだけどこれ俺言う必要あるの?)
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