第4話 拘束と羞恥心


 拘束から部室への強制連行そしてパイプ椅子に拘束。




 俺これから拷問でもされるのかなぁとかこのロープどこからでてきたのかなぁとか疑問に思うことは多々あるが……


「アツシとアオはまず持っている金属バットを離しやがれ!」

「先輩、これで頭殴ったらどんな音するんですか?」

「知るか!そんなことしたことねぇよ!」

「おいおい、それでも元野球部かよ。」

「野球関係ないだろ!頭殴るなんて普通はしねぇんだよ!」

「ではここは理系らしく実験といきましょう。」

「お!いいねぇ。」


 この2人はダメだ。目がマジだ。


「リ…リカ……頼む…」


 すがるようにリカに助けを求めた。


「大丈夫よ、リョウ。人間はそんな簡単には死なないわ。」


 もうこいつらはダメだ。頭のネジが何本か飛んでやがる。


「先輩、助かりたいですか?」


 唐突にきたアオからの助け船に首を縦に何度もふった。


「それじゃ、わたしの質問にちゃんと答えて下さいね。」


 再び首を縦に何度もふった。


「よかったです。問1わたしの胸は大きいですか?」

「もちろんです!」


 元気よく答えると目の前をバットが高速で通過した。


 オシッコちびりそう………


「せ、ん、ぱ、い。わたしはちゃんと答えて下さいっていったんですよ?日本語理解してます?」

「………ペッタンコです。」


 元気なく答えると目の前を再びバットが高速で通過した。


 マジでやめて!ホントにチビる!


「なんて言えば正解なんだよ!?」

「嘘を言われてもムカつきますしホントのこと言われてもムカつきますし……」

「理不尽!!」

「ま、冗談はこれくらいにしておきましょう。」

「冗談でなんでこんな思いしないといけないんだ……」


 涙がでてきたが拘束されているので拭くことさえできない。


「ではいきますよ。」

「心の準備くらいさせて!」

「どうして2度も犯罪に手を染めたんですか?」

「お願いだから俺の言葉聞いて!」

「10(ブン!)…9(ブン!)…8(ブン!)…」

「答えるからカウントダウンと素振りをやめろ!」


 今日一番の笑顔でわかりましたと言い動きを止めた。


 部室であったことをマキさんにも証言してもらいながらなんとか説明した。


 そして始まったのが説教タイム


「はぁ…なんとなく理解はできました。それでも出ていくこと位できましたよね。」

「はい……」

「バカなことによく回る頭を少しはいい方向に使ってください。」

「はい……」

「反省してますか?」

「はい……」

「マキさんの胸にみとれてましたか?」

「はい……」



 ………ん?最後おかしくなかったか?俺なんて答えた?



 空気がまたおかしくなったことが下を向いていても肌でわかる……というよりも顔を上げることができない。せっかく涙が止まったのに今度は冷や汗が止まらない。


「そんなに死にたいなら早く言って下さいよ。今すぐ殺してあげますね。」



 アカン……こいつ完全に人を殺る目になってやがる。

 どうにかしないとマジで殺される!


「なんでも言うこと聞くから殺さないで!」


 もう四の五の言っている状況でないことくらいは理解している。

 だってスタンド使いが世紀末覇者にジョブチェンジしてんだもん!



 相変わらずの貧弱脳では起死回生の案など浮かぶはずもなく対価を支払うという方法しかでてこない。


「………なんでも?」

「なんでも!!」


 アオの動きが止まり代わりにシンキングタイムが始まった。

 判決を待つ被告人もこんな気持ちなんだろうかと不安げにアオを見つめ続けた。


「いいでしょう。それで手を打ちましょう。ただし破ったら夜道には気をつけて下さい。」

「アイ・マム!」


 よかった……って、全然よくねぇよ!なんもしてないのになんでこんなことになったんだよ!


 思ってはいてもそんなことを言えるわけもなく敗北感しか残らずやるせない気持ちで一杯になった。


「もういいだろ。これはずしてくれよ。」

「まだですよ。」

「なんでだよ!!」

「だってまだアツシ先輩がいますから。」



 …………どうして俺ってこんなに忘れっぽいんだろう。


「おっ!やっと俺の番か。」

「俺が悪かったよ!許してください!」


 すでに心が折れてしまった俺は開戦前から白旗を上げ全面降伏した。


「………まだなんも言ってないぞ?それともやましいことでもあるのか?」

「ありません!」

「ホントか?」

「嘘です!」


 俺が早々に白状したことにはちゃんと理由がある。


 アツシの後ろのリカがすごく悪い笑みを浮かべていたのに俺が嘘だと言った瞬間に露骨につまらなそうな顔になった。


 今の俺にできる最善はリカをこれ以上関与させないことだ。俺をイジルことに喜びを感じるサディストの参戦だけは断固させん!


「それで何隠してるんだ?」

「道連れにしようとしました。」

「……どゆこと?」

「さっきも言ったが俺の覗き疑惑は完全に冤罪だ。疑わしきは罰せずというこの国の理念に対する冒涜と言ってもいい。だから……」

「御託はいいからさっさと結論を言え。」

「……アツシにも覗きの罪を被ってもらえれば俺に対する追求も和らぐかなぁ…と思いまして。」


「「「………」」」


 俺の独白を聞き終えた全員が無言で頭を抱えていた。



 ………解せぬ。


「それがもし成功してたらリョウの展開はどうなってたんだ?」


 アツシがこめかみを押さえながら聞いてきた。


「俺と同じ目にあってる!」


 元気よく答えた。


 おい!その人をバカにしたような目でこっち見んな!


「たぶんそれ成功してたら今よりヒドい目にあってたぞ。」

「なんで!?」

「俺がリョウに嵌められたって言ったら3人共俺を信じるぞ。」

「俺ってそんなに信用ないの!?」


 うんうんと頷いている女性陣を見て悲しくなってきた。もうでないと思っていた涙がまた溢れてきた。


「リョウって頭いいのに悪いこと考え出すととたんにポンコツになるからなぁ。」


 また女性陣がうんうんと頷いている。


「まぁ、ひねくれてるように振る舞ってるけど根が素直なんだろうけどな。」

「や、やめろ!それ以上言うな!」


 狼狽えている俺をしり目にアツシが女性陣に目配せをしていく。それを見て俺は嫌な予感がした。


 全員が俺を見るとニヤリと意味深な笑みを浮かべる。嫌な予感がさらに加速する。


「後はそうだな……考査前によく解らないところ自分のためだって言いながら教えてくれたことか。」

「そ、そんなこともあったなぁ。」


 そんなことも急に言われたらスゲー恥ずかしくなってきた。


 心を強く持って耐えるんだ俺!


「先輩ってすごく優しいですよね。バイト遅くなったら家まで絶対送ってくれるじゃないですか。」

「帰る方向が一緒だからたまたまだ。」

「2時間も早く終わってるときまであったのにですか?」

「………たまたまだ。」


 もうやめてくれ~!!


「カワイイところもあるわね。普段胸のことしか言わないのに全然視ないじゃない。」

「いつもチラチラ視てます!」

「今はじっくり見てもいいわよ♪」

「ごめんなさい!」

「いいの?」

「性格悪いぞ!」

「そんなことも言ってても絶対に邪険にしないでしょ。」

「………」


 もういっそのこと殺してくれ!


「わたしはね~。以外と頼りになるとこかな。」

「ありました?」

「たくさんあったよ。全部言おうか?」

「結構です!」

「オッケー、許可もでたし…凹んでる時によく励ましてくれたりしてたよね。分からないようにしてるのによく見付いてくれるよ。」

「詐欺師か!そういう意味で言ってねぇよ!やめろって言ってんだよ!」

「え~、まだまだあるのに……」


 ある意味今日一番のダメージを心に受けて悶え死にそうになった。


「そういうことだからリョウはあんまり悪いこと考えない方がいいな。」


 たぶんアツシは俺を責め立てる方法を熟知しているのだろう。このような自分の恥部を言われる方が確かに効果的だ。精神的なダメージならアオよりもはるかにでかい。


 俺は小型犬が威嚇するようにアツシを見た。


「まだ足りないか?」


 そんなことなど意にも介さず遥か高みからニヤニヤと微笑を浮かべながら聞いてきた。


「十分反省しました。」


 完全なる敗北宣言をもってようやく拘束から解放された。


 もうどこぞの某ボクシング漫画のように真っ白です!いい感じに色も抜けてきたしこのまま消えてしまいたい!



 でもせっかく来たのだから少しくらいは体を動かそう。そしたらこの気分も少しは晴れやかになるだろうとバックをもちあげた。


「着替えてくる。」

「行ってら~。」


 アツシの気の抜けた返事を背中に受けてトボトボと部室を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る