第2話 仕組まれたハプニング
「ここにはわたしたち4人しかいないわよ。」
知ってます! 俺も確認したかね。
まだ初夏にも差し掛かっていないにも関わらずだらだらと汗が流れてきた。
「アツシががアオちゃんに……なんてことはないわよね?」
小首を傾げながらその美貌を惜しみ無く使い満点の笑顔で問いかけてきた。
しかしその顔には有無を言わせない圧力が添えられていた。
「アイツが彼女がほしいなんて言い出したからアオなら大丈夫だと思いまして……」
リカの尋常ではない威圧に屈してしまい経緯を話した。
「先輩、本気で怒りますよ。」
「ごめんなさい。」
「わたしにだって好きな人くらいいるんです!」
あ~……これにはホントに罪悪感が芽生えた。
そして俺は最後にホントにすまなかったと言いアオの頭を1度ポンと叩いて講義室を後にしようとした。
だが………ガシッと俺は腕を捕まれた。
「そっちは片付いたようだから次はこちらの話をしましょうか。」
「先輩、今逃げようとしませんでした?」
チッ!!
上手くまとめてからのエスケープ作戦が失敗したことに思わず毒づいてしまった。
もうここまで来たら形振りなんて構ってはいられずアツシを生け贄に捧げる決意を固めた。
「確かに俺はあいつの意思にしたがってアオを傷つけるようなことをした。でも俺は従犯であって真犯人はアイツなんだ。」
許せ、アツシ。骨ならちゃんと拾ってやる。
「そうなの?」
「そうなんですか?」
2人の腕をつかむ力が弱りその瞬間に腕を引き抜き心を鬼にして立ち去ろうとしたが今度は上着の襟を捕まれた。
「今さら逃げられると思うなよ。」
あ~…うん。今度はアツシさんが立ちふさがりますか。
上等です!受けて立ちましょう!
決意を固めアツシと相対する。
主導権はやらん!最初から最後まで一気に押しきってやる!
「言ってたじゃないか?彼女がくらい欲しいって。」
「まぁ……それは……」
「だろ?だから俺がお膳立てしてやったんじゃないか。」
「それでアオちゃんなんて思うはずないだろ。」
「はぁ~…俺の交友関係の広さを考えてみろ。これが精一杯だ。」
俺は大げさにやれやれと肩をすくめて見せた。
そこで天恵が降り注いだ。
「いや…スマン。やっぱ付き合うなら気心の知れた幼馴染のリカの方がよかったか?」
俺の一言に3人がピクリと反応を示した。
これは俺の予想だがリカはアツシに気がありアオもアツシに気がある。
アツシは……よくわからんがなんとかなるだろう。
名付けて『アツシ爆発しろ』作戦
俺は一気に畳み掛けて場を混乱させてやろうと次の言葉を紡ごうとした。
「それはない。」
「あり得ないわね。」
「先輩バカですか?」
………あれ? ちがうんか~い!
「え……アツシとリカって幼馴染なんだろ?」
「………リョウって異性の幼馴染とかいたか?」
アツシが少し考えて今一意味のわからない質問をしてきた。
「いや、異性どころか同性でもいなかったぞ。」
「「「あ~……」」」
なにそのシンクロ。
「リョウ、確かに世の中にはそういうカップルがいるのは俺だって知っているぞ。でもそれって世の中の何%だ?」
「………………」
ヤベぇ……なにも言い返せねぇ。
「わたしにもいましたけど異性としてよりなんでも話せる友達って感じでしたね。」
アオさんが追撃を加えてきた!
「まぁ、リョウの場合はその手の小説に毒されてるところがあるからな。ちゃんとリアルの女の子も見ないとな。」
ここに来てアツシに想定以上の反撃をくらってしまった。
そして悲しいかな、俺には反撃するための手札を持ち合わせていない。でもここでなにか言わなければ反撃の手立てを失ってしまう。
「いや、でもリカって顔もいいしスタイルだっていいしアツシとお似合いだろ?」
「アオちゃんも言ってわよね。わたしにもその……好きな人くらいいるのよ。」
少し顔を伏せて若干高揚させながら呟くようにリカは言った。
やだ!なにこの子メッチャカワイイ!
だがその程度で俺は騙されないぞ!お前のアツシを見るときは必ず乙女の目をしている。
まぁ、アツシの気持ちなんて知らんがな!!
しかし困った。(十中八九)嘘とはいえ3人共に否定されてしまえば爆発作戦は失敗と言わざるを得ない。
どうにか現状を打破できないものかと考える。そして思わぬところから助け船が出た。
「まぁ、リョウも反省してそうだしこれくらいでいいんじゃないか?」
アツシが2人に肩をすくめて言う。
おぉ、アツシが神に見える!
「してるかしら?」
「してます?」
お前ら神様になんてこと言ってんだ!お前らがそんな態度をとるならこちらにも考えはあるぞ!
「猛省してます。ごめんなさい。」
リアル土下座で誠意を示した。
「嘘っぽいわね。」
「嘘ですね。」
「俺どうしたらいいの!?」
アツシが俺たちのやり取りを見て必死に笑いを堪えていた。
「クククッ……面白いもん見れたしそろそろ行かないか?もう二人も今日の講義はないんだろ?」
二人は
俺はといえば完全敗北を受け3人の後をトボトボとついていった。
講義棟を抜けるとカフェテラス・売店・食堂が併設されたエリアがありその先に第一体育館がある。それに付随するような形で部室棟が建てられている。
なにやら前の3人は楽しそうにお喋りに花を咲かせているが俺は先程のダメージが抜けておらずはなしを振られても適当に相づちをうってやり過ごした。
普段ならなんてことない道中もやはり気分が優れないと長く感じるもんだと黄昏ていた。
今日はもう帰ろうかと考えているとちょうどカフェテラスに差し掛かった。
「わたしたちはちょっと休んでから行くからアツシとリョウは先に行っていて。」
チャンス到来!ここで俺も華麗にエスケープを決めておうちに……
「りょーかい。先に行っとく。」
「ちょ…待て…今日はやっぱ俺…」
「今日はなにもないんだろ?早く行こうぜー。」
アツシに半ば拉致される形で連れていかれエスケープ失敗のお知らせが告げられた。
2人と別れ部室棟に着くとアツシがちょっとお花を摘みに行くというビックイベントが到来。
最後の最後で神様は俺を見捨てなかった!
あとはこの扉が閉まれば……というところでアツシが何かを投げてきた。
俺は慌ててそれをキャッチした。
「先に行っといて。」
「おま………」
俺が文句の一つでも言ってやろうとしたが無情にも扉は閉まってしまった。
やっぱり神様っていないんだなぁ…
そして手にしたものを確認すると部室の鍵だった。
マジかぁ…
ため息を一つついて仕方なく2階にある部室に向かう。トアノブを捻ってみるが鍵がかかっており俺が一番乗りできたようだ。
うちのサークルは2回生が鍵を管理する様になっている。理由は3回生・4回生は就活やインターン、研究等で忙しくなるからというものだ。
当然シャトルやラケットは部室に保管しているため部室が使えなければ必然サークル活動が行えない。
だから俺が鍵を手にしてしまった時点で1度は部室に行かなければ今日は誰も部室を使うことができなくなってしまう。
さすがに俺もそこまでヘイトを稼ぎたくない。
これは大人にでも当てはまると思うのだが一番乗りというのはなかなかに心が踊る瞬間でもある。そう思うと少し気分が晴れやかになった。
先ほど手にした鍵を使い解錠し意気揚々と部室に入ると時が止まった。
「…………」
「…………」
紫色をした上下お揃いのシンプルながら品のある下着しか身に纏っていないマキさんと目があった。
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