第24話「大切なもの」

「心」の修行を終えた5人はロッジで着替え、森の中のグラウンドのような場所に連れて来られた。


瑠偉「まず、戦場での戦いで最も使うのが特殊能力エボリティではなくて、打撃技なんだ!特殊能力エボリティ神経伝達物質エムピミンを大量に使うし、一度対策を練られたら通用しない場合がある!だから打撃技を多用するのがセオリーなんだ!」


達也「へー!今まではいきなり特殊能力エボリティを使ってたぜ!」


瑠偉「特殊能力エボリティはコンビネーションに混ぜると有効的だ!例えばジャブが入ると相手に隙ができるから、その後結構簡単に特殊能力エボリティを当てる事ができる!達也君!試しにやって見るか!」


瑠偉は達也に構えたさせた。


瑠偉「油断するなよ!」


そういうと瑠偉の超高速ジャブが達也の顎を捉え、達也はバランスを崩した。


達也「{疾すぎぃ!}」


瑠偉は明確な殺意を出してこう唱えた。


瑠偉「最大出力!コロージョン!!」


瑠偉は体勢を立て直そうとする達也の顔に右手を伸ばした。


達也「{────死ぬ!!}」


達也は人生で初めて死を予感した。

瑠偉の手がコマ送りに自分の顔へ近づて来るのがわかった。


すると瑠偉は寸止めした。


達也は恐怖の余り声が出ず、そのまま硬直している。


瑠偉「ははっ、冗談だよ!ちょっとやり過ぎたかな!」


他の4人もかなり緊張したが、一気にほぐれた。


清十郎「{さすが開能高校最強の人だ。達也がまるでサンドバックのようにやられるがままだったな…}」


瑠偉「最も基本のジャブからの特殊能力エボリティ!今日はこれを習得してもらう!特殊能力エボリティが使えない人はジャブからのコンビネーションを習得してもらうから!」


4人「はいっ!」


達也「……はい」


達也はようやく放心状態が解けたようだ。


◆◆◆

数時間後


すっかり辺りも薄暗くなっていた。


瑠偉「今日のプログラムは以上だ!明日は朝から「体」を習得してもらう!」


そういうと瑠偉は地図を広げた。


瑠偉「今いるのは山のふもとのロッジだ!ここからロードバイクで100kmくらい山道を走ると川がある!その川をカヤックで川上りすると崖が見えるから100m程よじ登ってその頂上を目指してくれ!」


清十郎「かなり高強度なトレーニングですね!ロードバイクで脚力、カヤックで腕力、崖上りで背筋や体幹が鍛えれるという訳か!」


瑠偉「その通り!これらは世界一過酷なウルトラマラソンでも取り入れられている種目なんだ。体力はもちろん、精神力も試される!この合宿の醍醐味と言ってもいい!あと、このトレーニングは他にも君たちにとって大切なものを教えてくれるよ!」


達也「大切なものって?」


瑠偉「それはやってみてからのお楽しみさ!それじゃあお腹も空いて来たし、今からみんなでカレーを作ろう!」


5人「はい!」


こうして6人は束の間の休息を取った。


◆◆◆

次の日の朝


6人はヘルメットをつけてロードバイクにまたがっている。


瑠偉「みんな準備は万全かい?」


5人「はい!」


そういうと瑠偉はロードバイクで走り出した。


瑠偉「今日1日俺がリードするけど、俺は一切助けない!何かあったら自分達で解決するんだ!」


達也「特殊能力エボリティは使っていいのか?」


瑠偉「もちろん!」


達也「やったぜ!」


◆◆◆

数時間後


6人は川までやってきた。瑠偉と達也以外は肩で息をするぐらい消耗していた。


新「はぁ、はぁ、みんな大丈夫か?」


達也「俺はへっちゃらだけど、女の子は大丈夫か?」


琴音「はぁ、はぁ、少し休憩すれば…なんとか…♪」


慶子「私とかなりきついけど、やだ行けそう!」


瑠偉「準備ができた人からカヌーだ!時間が無いからあまりだらだらもしてられない!」


清十郎「達也!新!相談がある!」


清十郎が達也と新に耳打ちした。


達也「OK!任せてくれ!」


清十郎は何かアイデアを達也と新に伝えたようだ!


◆◆◆

カヌーを漕いで1時間後


清十郎「{川の流れに逆らってカヌーを漕ぐ事はこんなにも大変なのか…もう腕や胸の筋肉がパンパンだ!少しでも気を抜くと流される…}」


琴音「はぁ、はぉ、もう…ダメかもしれないです……♭」


慶子「はぁ、はぁ、私も…限界…」


琴音と慶子はかなりキツそうな顔をしている。


達也「よし!俺に任せろ!」


そういうと達也は琴音のカヤックと自分のカヤックを紐で結んだ!


清十郎「俺たちもやろう!」

清十郎と新もロープで慶子のカヤックと結んだ。


清十郎「後は俺と新が漕ぐから慶子は休んどいていいぞ!」


達也「琴音〜!もう寝ててもいいぞー!俺1人で余裕だから!」


琴音「まぁ〜♪ありがとう♫」


達也は琴音のカヤックを、新と清十郎は慶子のカヤックを牽引けんいんした。


6人は数時間かけて崖の下までたどり着いた。


◆◆◆

瑠偉「みんな疲労困憊ひろうこんぱいのようだけど、あと1種目頑張ろう!」


6人の前には100mの崖が立ちはだかった。


瑠偉「命綱をつけているから命の危険は無い!ただし!1回でも命綱を使った人は体力の限界とみなし、そこでリタイヤしてもらう!」


5人「………はい」


5人は疲労で返事もまともに返せない状態だったが、崖を登り始めた。


10m、20mとスローペースながらも慎重に登っていく6人。もちろん、会話なんてする余裕は無い。


80m付近に5人が到着した頃、慶子だけ60m付近を登っていた。


慶子「ダメだ、握力が無くなってきて手が震える…」


慶子の心が折れ、手を離そうとしたその時。


達也「距無脚!!」

※距無脚とは古武術に伝わる、一瞬で間合いを詰める技である。


達也は特殊能力エボリティを使って、慶子のそばに飛んできて、腕を掴んだ。


達也「ここまで来たんだ!一緒にゴールしようぜ!」


慶子「達也、ありがとう…でももう限界なの…」


慶子は泣きそうな声をあげながらそう言った。


達也「わかった。じゃあ最後の力を振り絞って俺に捕まれ!残り40mを飛んで見せる!」


慶子「大丈夫なの?」


達也「一か八かの賭けだ!リタイヤする時は一緒だ!」


慶子「達也…」


慶子は達也の背中に捕まり、ロープで固定した。


達也「俺のありったけの神経伝達物質エムピミンを使う…」


達也が神経を集中させる。


超集中で疲れすら感じ取れなくなった瞬間、達也は神経伝達物質エムピミンを爆発させた。


達也「最大出力!距無脚!!!」


達也は手と脚で目一杯、崖を蹴った。


すると凄まじい初速から見る見ると高度を上げ、90m近くの崖岩に掴んで止まった。


達也「くそっ!これが限界かっ!!」


すると先にゴールしていた。新と清十郎が90m付近まで戻ってきて、達也と慶子を支えた。


新「後は俺たちに任せろ!」


新と清十郎は達也と慶子をそれぞれ紐で固定して崖を登りきった。


5人は山頂でくたばっている。


瑠偉「すごいね君たち!よく頑張ったね!想像以上だよ!」


達也「はぉ、はぁ、明日、ぜってー筋肉痛だわ〜!」


瑠偉「大切なものはわかったかな?」


達也「…まぁ、なんとなくな!」


瑠偉「それはよかった」


このトレーニングにより、KSDFの団結力がより一層強くなった。

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