インクベーティスト

第16話「挫折」

2071年　2月　開能中学　教室　3年B組　休み時間

ヤンキーA「おいっ、月見（つきみ）誉（ほまれ）って奴はどいつだ？」

草薙の舎弟であるヤンキー2人組が教室に入ってきて、声を上げている。

生徒A「おい、月見（つきみ）〜！可愛い後輩が呼んでるぞ！」

ヤンキーB「誰が可愛い後輩だコラっ？殺すぞっ！」

ヤンキーBが1人の生徒を恫喝（どうかつ）する。

月見（つきみ）「何？」

このロン毛で長身の男、月見（つきみ）誉（ほまれ）は中学3年のエボリティ格闘術で成績でトップを取っている。

ヤンキーB「陛（His） 下（majesty）がお呼びだ！俺らについてこいっ！」

月見（つきみ）「嫌だ」

ヤンキーA「てめぇ、舐（な）めてるとぶっ飛ばすぞ？」

ヤンキーAが月見（つきみ）の襟（えり）を両手で掴（つか）んだ。

月見がヤンキーAを睨（にら）むと、ヤンキーAの体に異変が起きた。

ヤンキーA「何だ！？何も見えない…」

突如視力を失ったヤンキーAは思わず手を離した。

ヤンキーB「てめぇ！！何したっ！…えっ！？」

月見がヤンキーBに目線をやると、ヤンキーBも突然視力を失った。

月見「草薙（そいつ）にお前が来いって言ってくれない？」

ヤンキーA「わ…わかった、言うから目を元に戻してくれ…」

ヤンキーAは急に弱腰になり始めた。

月見「ふんっ」

そういうと月見（つきみ）は自分の席へと戻っていった。するとヤンキー2人の視力が戻った！

ヤンキーA「てめぇ！覚えとけよ！陛（His） 下（majesty）がお前をボコボコにするからな！」

月見「…」

月見がヤンキー2人を視線を向けると2人は走って教室を飛び出した。

◆◆◆

教室　2年C組

ヤンキー2人が自分の教室に戻り、起きたことを草薙（くさなぎ）説明した。

草薙（くさなぎ）「てめぇら、手ぶらで帰ってくるなり、言い訳をかますとはいい度胸だな」

ヤンキーA「滅相（めっそう）もございません！陛（Your） 下（majesty）……ぐはっ」

ヤンキーAは自分の影に殴られた。

草薙（くさなぎ）「視力を奪う特殊能力（エボリティ）…面白い！俺が攻略してやるっ！そして開能中学最強はこの俺だっ！」

舎弟5人「Yes! 陛（Your） 下（majesty）!!」

◆◆◆

再び教室　3年B組

ヤンキーA「あいつが月見（つきみ）です！」

草薙（くさなぎ）「2年の草薙（くさなぎ）だっ！貴様っ！俺と勝負しろっ！」

月見（つきみ）「嫌だ」

草薙「てめぇ、俺を誰だと思ってやがる…」

草薙が殺意を向けた。

月見「｛こいつ…、教室で闘る気か？｝」

草薙が月見の足元を指（ゆび）刺（さ）した。そしてクイット上に向けた。

しかし何も起こらない。

草薙「｛何も起こらない…だと！？｝」

草薙は月見の影を起こすつもりだったが不発に終わり、狼狽（うろた）えている。

月見「お前はこのクラスの休み時間をぶち壊そうとした、その罪は重い…今日の放課後、体育館裏へ来い」

草薙（くさなぎ）「きっ、貴様！！俺に何をした！！くそっ！放課後お前をぶっ殺す！！」

◆◆◆

放課後　体育館裏

草薙（くさなぎ）、月見（つきみ）、そして草薙の舎弟5人が立っている。

月見「そこの舎弟達とお前の6人同時でかかってきてもいいぜ？」

草薙「貴様っ！！俺がタイマンで負けるとでも言うのかっ！？どこまでも侮辱しやがって……」

草薙は殺意を剥（む）き出しにした。そして月見（つきみ）の足元を指差して、上にクイッと持ち上げた。

すると月見の影が立ち上がった。

月見「｛影ね…なかなか良い特殊能力（エボリティ）だ｝」

月見と影は殴りあった。

月見「｛全く俺と同じ動き…そして…｝」

月見は特殊能力（エボリティ）で聴力を失った。

月見「｛やはりな、自分の特殊能力（エボリティ）までコピーしてる…試してみるか｝」

月見は最大出力で影を殴った。

すると影は弾（はじ）けるように消えた。

草薙「何っ！？」

月見「お前の特殊能力（エボリティ）がわかった…そして…もう使えない」

月見の特殊能力（エボリティ）は「奪感（だっかん）」。相手の6感のどれかを使用不能にする。

※インクベーティストは視覚、聴覚、嗅覚、感覚、味覚の他に神経伝達物質（エムピミン）を伝える第6感を持っている。

今、草薙は第6感が使用不能とされ、影が使えない。

草薙「貴様ぁ、俺に何をしたぁあ！！」

月見「秘密」

草薙「特殊能力（エボリティ）が使えない俺が弱いとでも思ったか〜っ！！」

そういうと草薙は月見に殴りかかった。

草薙の動きはかなりのキレを見せていた。

月見「なかなかだな、だが…」　　

月見のリバーブロウが、草彅（くさなぎ）の肝臓を押し込んだ。

草薙「うっ…！」

月見「神経伝達物質（エムピミン）を使えないお前は、俺の相手じゃない」

月見は跪（ひざまづ）いている草薙（くさなぎ）の顔面に思いっきり前蹴りをかました。

草薙（くさなぎ）は5m近く飛ばされ、大量の鼻血出している。おそらくは鼻の骨が折れている。

月見（つきみ）「今度教室に来たらこの程度じゃすまさない」

そう言い残すと月見は振り返り、帰ろうとした？

草薙「ごへっ…、絶対、お前を殺すっ！！お…覚えておけ！！」

月見「｛あれだけやられて闘争心が折れていない…コイツ、化けるかもな…｝」

草薙（くさなぎ）　五十音（いそね）13歳、人生初の敗北であった。