冬
あれから3か月。栞は年末年始にかけてさらに忙しくなるため、ゆっくりできるのはこれが最後だろう。立ち止まると体が冷えるので、野川公園全体をめぐることに決めた。
栞はまずイチョウの木々の間を歩いた。12月上旬だからまだ金色の葉がついている。風が吹き、葉が一斉に落葉する様は圧巻だ。太陽が隠れ時折寒風が吹き肌寒いが、金色の絨毯が暖かみを演出してくれているおかげで気が紛れる。
その後、日が出てきて体が温まったのでベンチに腰を下ろした。栞はレンに会えるのではないかと少し期待していたのだが、いなかった。そしてバッグから手帳を取り出した。予定を確認するためだ。せっかくゆったりとした休暇を楽しもうと思っても、仕事に追われ頭から離れないのだ。それに最近では仕事に完全に慣れてしまった。
栞は小さいころから子役として脚光を浴びていたが、子役になったのは親の意志だ。とは言ってもやりがいはあった。世間から天才と評されることも多かった。将来は大女優になるなんて夢も掲げていた。今も昔と比べれば劣るが仕事はたくさんある。親からは今が稼ぎ時だからと言われ、必死になって役者の仕事を続けてきた。でも慣れてしまったのだ。昔は感じたやりがいも今はほぼない。自分は特別な存在だと自負していたがその自覚ももはやない。よく有名人になるのが夢だという人がいるが、忠告したい気分だ。有名になったところで、それが普通になってしまうのだと。慣れてしまえばつまらなくなってしまうのだと。
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