選抜選開始


『さぁ、やってまいりましたぁ! 第三十四回、一学年による首席選抜選! 実況はわたくし、七瀬 智がお送りいたします!』


『『『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』』』


 溢れんばかりの歓声が場内に響き渡る。

 ここ、都市学園にある競技場では、一学年生徒及び、各学年の生徒、学園関係者が詰め込んでいた。観客席はほぼ満員。皆、このゲームを見届けんとこの競技場に集まっている。


『そして、解説には都市学園生徒会長ーーーー妙上院 藍様をお呼びしております!』


『ふふっ、皆さんおはようございます』


 高らかな競技場最上階の実況席で、かの生徒会長は上品に笑った。


『『『きゃーーーーーーーっ!!!』』』

『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』』』


 その凛とした声の所為か、場内からは黄色い歓声が男女問わず溢れ返った。

 この歓声だけで、都市学園のトップである彼女の人気が凄まじい事が伺える。


『毎年恒例であるこの選抜選、一学年の首席たる人物は一体誰になるのかっ!? 誰しも注目して然るべき!』


 そして、中央グラウンドに大きなホログラムが投影される。


『今回、一次試験通過グループの首席である三名には予め公平にランダムで選ばれた教室にスタンバイしてもらっております! ですので、今回も中央モニターにて観戦、並びに分かりやすく実況解説踏まえて選抜選の様子をお送りいたします!』


 ホログラムには大きな椅子に腰掛ける三人の生徒。

 些か豪華すぎるその椅子は、言うなれば玉座ーーーーなるほど、キングに相応しい椅子だ。


 そんな中、この競技場にはもちろん次席たる彼女も見に来ていた。

 幼なじみの勇姿を見届ける為、想い人のかっこいい姿を脳裏に焼き付ける為、天才と思った少年がどこまで通用するのかを見定める為。

 思いの丈は複雑に絡み合っている。


「葵くん……」


 投影された画面には、不遜に座る彼の姿。

 こんな状況でも臆していないところとか、緊張していないところが彼らしい。


「大丈夫……大丈夫だよね……」


 皐月は、観客席でその姿を見つめる。


「これ、葵くんの得意分野だもん……絶対に勝てるよね……」


 彼に想いが届かないのは分かっているが、それでも皐月は不安交じりの声援を彼に送らずにはいられなかった。



『それでは、開始前にこの御三方の会話を聞いてみましょう! あ、ちなみにゲームが始まった瞬間、会話は遮断されますので悪しからずーーーーそれでは、火花散らす首席達をーーーーどうぞっ!』



 ♦♦♦



『全く……私達、見世物なんかじゃないって言うのに……』


 スピーカーからため息をつきそうな程の声が聞こえてくる。


「いいじゃないか、どうせ後で「どうだった!?」みたいに質問攻めにされるよりかはマシだろ?」


 黒い玉座に鎮座する少年ーーーー東條葵は緊張もない声音でその声に返した。

 手元には端末の変わりにタブレット。机は回収したのか、教室にはこの玉座ただ一つと言う異様な光景になっている。


『それはそうだけど……はぁ、始まる前から疲れちゃいそうだわ』


『いいではありませんか。ギャラリーが見ているーーーーそう思えば、少しばかりやる気が出ませんか?』


 だがしかし、異様な光景はもう一つ。


(これ……どうやって出来てんだろ?)


 目の前にあるはチェスでよく見かけるポーン8体にキングが1体。

 身の丈以上あるそれは、恐らくこのゲームに使われるものなのだろう。


「俺はやる気より寒気だよ……何ここ? 暖房つけて欲しいんだけど?」


 四月というのに、葵の部屋には冬の香りは未だに残っているようだ。地球温暖化の所為で四季がズレ始めているのかもしれない。


『あら? 東條さんのお部屋は寒いのですか?』


『あぁ……思わず思考が鈍ってしまいそうだよ。ーーーーこの会話を聞いている運営局の人……暖房入れてくれねぇかなー?』


 切実な要求。寒がりな葵によって、肌寒いこの室内は集中が途切れてしまいそうなほど。


 だから! 彼に! 暖かい環境を! ちなみに暖房を!


「ーーーーそう言えば、夏目と鷺森のとこは大丈夫か? 寒くない?」


『ふふっ、お気遣いありがとうございます東條さん』


『こっちも問題ないわ。


 葵の心配に、二人は問題ないと告げる。


『……もしかして、私が負けたら寒さを言い訳にするって思ったから聞いてきたの?』


「純粋な心配だ、返せコラ」


 訝しむような口調に、葵の心配はかなぐり捨てられてしまった。

 なんと報われない男なのか?


『東條さんはそのような事は考えませんよ。優しい人ですから』


「あぁ……優し。天使のようだぁ……」


 葵の心配が報われた瞬間であった。


『なんか私が悪者みたいになってる……ほ、本当は心配してくれてるって分かってたわよ!?』


 スピーカー越しに聞こえるツンデレ音。

 なるほど、一部の男子からは絶大な人気を誇りそうだ。


「……まぁ、お前達が大丈夫ならそれでいいーーーー何せ、せっかくのゲームだ。どうせなら最高のコンディション、正々堂々、本気で勝負したいだろ?」


『ふふっ……あはっ! ーーーーはいっ! 私を楽しませて下さい東條さん!』


『ふんっ! やってやるわ……その上で、あんたに吠え面かかせてやるんだからーーーー』



 ♦♦♦



『皆さんの気合いも充分……と言う事で、いよいよ! 選抜選を開始したいと思います!』



(あぁ……東條さん、鷺森さん……私を楽しませて下さいっ! そして、その上でーーーー)


(私は、この勝負に負ける訳にはいかない。手強い相手かもしれないけどーーーー)




「「ーーーー勝つのは、この私(です)」」


 そんな思い思いの中、少年は一人……嗤う。



「困った……本当に……ははっ!」



 各グループ最高PT保有者。

 クラスを代表する最強の三人。

 その中、学年の代表の座を巡るべくーーーー







 三つ巴のゲームが、今始まった。

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