祝賀会

「ちゃんこ鍋〜♪ ちゃんこ鍋〜♪」


「松坂牛こそ、俺の晩飯にふさわしい〜♪」


 時は過ぎて現在葵の自室。


 晩飯時の夜七時にのこの時間に、葵に割り振られた部屋のテーブルには豪華な食事が並んでいた。


 この学生寮には全校生徒が住んでいる。

 にも関わらず、一人の部屋あたり1LDK程の広さがあることから、この寮の広さが大きい事が伺えた。


 男子寮と女性寮に別れているこの学園。時間内であれば、行き来できることが判明した為、当初「あれ? 皐月を俺の部屋に呼んでもいいの?」と不安になっていた葵も、こうして皐月を招き入れることが出来た。


「いやぁ〜! 私、この学園に入ってよかったよ! こんなご馳走、家じゃ絶対に食べられなかったからね!」


「その通りだぜ皐月はん! わい、こんなご馳走食べれるなんて嬉しすぎて涙が出そうやで!」


 興奮のあまり、何故かエセ関西弁になってしまった葵。涙の代わりにヨダレが出ていそうである。


「それじゃあ、早速ーーーー」


「「いただきまーす!!」」


 与えられた生活費の四分の一を使ってしまった二人は、我慢しきれず晩餐にありつく。


「うまうまー!」


「まいうー」


 それぞれ、高級料理を頬張りご満悦。

 流石十万以上の料理と言う事か。


「やっぱりちゃんこ鍋は美味しいね! お相撲さんになった気分だよ!」


「こらこら皐月さん。松坂投手も食べなさい。せっかくの高級ですぜ? 俺のお財布に大打撃を与えた物ですぜ?」


「食べる食べる〜♪」


 ちゃんこ鍋と言う何時でも食べれそうな料理ではなく、滅多に味わえない松坂を進める葵。


 目の前には、プレートに焼かれた松坂が寝転がっている。


「松坂じゅわ〜だねっ! じゅわ〜だよ!」


「このちゃんこもいい出汁効いてんなぁ……皐月が食べたいって言うのも分かるわー」


 そして、今度は皐月が松坂を食べ、葵がちゃんこ鍋を食べる。


「それにしても、本当に何でも揃ってたね〜」


「そうだなー。それに、ちゃんこ鍋がデリバリーってどうなん? 中々今時お目にかかれないぜ?」


 都市学園初日も終わり、敷地内にあるショッピングモールに足を運んだ二人は本日の祝賀会の為に、食材の買い出しに行った。


 そこでは食品はもちろん、雑貨や家電、洋服、ブランド品など様々。

 中に入った二人は開いた口が塞がらなかったほどだ。


「それに、学園の生徒しかいなかったしな」


「そうだよねー。やっぱり、みんなあそこで買い物してたんだね!」

 そして、ショッピングモールには学生しか見受けられなかった。

 もちろん店員は別だが、楽しそうに行き来する人は全て学生服ーーーーもしくは私服の子供だけ。


 その事に驚きを感じていたが、葵達は気にせず買い物をした。


 その際、迷ってしまったのは仕方ないと思う。田舎者あるあると言うやつだ。


「そう言えば、無事入学おめでとう。それと、次席おめ」


「こちらこそだよ葵くん。入学おめでとう! そして、首席おめでとう!」


「……何とか戻れてホッとしておりますです」


 高級料理に目が眩み、当初の祝賀会の言葉を述べる二人。


「やっぱり葵くんは凄いね! 抜かされてもすぐに首席になっちゃうんだから!」


「もっと褒めたまえ皐月殿。わい、頑張りましたで?」


 想い人に首席になってやんよ! と豪語した葵。あの後、昼休憩と放課後の少しの時間を使い、決闘を重ねていった。


 もちろん、首席を目指す生徒はいたようで、選べるほどの申し出が押し寄せた。

 しかし、葵は難なく快勝。無事に皐月のPTを抜かし、首席の座へと返り咲いたのだ。


「もうしばらくは決闘したくないなー。疲れたしきっちぃもん」

「まぁ、その気持ちは分かるけどね〜。私も、決闘疲れたもん。それに、私にも何件か申し込まれたし……」


 無論、首席の次に地位が高い次席に座る皐月にも、決闘の申し出は来ていた。


 しかし、「ごめんね、今日は疲れちゃったから……」と一蹴していたので、実質の変動はあの決闘だけである。


「そう言えば葵くん」


「ん?」


「あのお嬢様オーラぶわーっ! の子って今日会った?」


 皐月は食べ進める箸を置いて、身振りで尋ねる。

 その姿に、一瞬可愛いと思ってしまったのは、これまた仕方がない。


「そう言えば、入学式以来顔を見てないな……。あんなにガン飛ばして来たから、アクションがあると思っていたんだが……」


 許さないと目の前で言われた葵。

 てっきり、初日から絡まれると思っていたのだが、絡まれたのはあの白髪の少女だけ。


(……まぁ、関わらないに越したことはないけど)


 あの白髪の女の子も大概面倒くさそうだったので、これ以上は増やされたくないと思う葵。


 葵は、平和的に想い人に好かれればそれでいいのだ。


「案外、この部屋に押しかけて来ちゃったりしてね!」


「馬鹿っ! そんなこと言っちゃダメでしょ!?」


「……ふぇ?」


 葵の発言に、可愛らしい疑問の声を上げる。

 その姿も大変可愛らしいのだが、今はそんな場合ではない。

 何故ならーーーー


『東條葵! 出てきなさい! いるのは分かってるんだから!』


「……ごめんね、葵くん」


「……ぐすっ。もういいよ」


 ーーーーフラグという言葉が、世の中存在するからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る