決闘内容

「今回は生憎この決闘システムを説明されたばかりで持ち合わせがない……だから、こいつで勝負するって言うのはどうだ?」


 端末をいじり終えた男子生徒が徐にポケットから何かを取り出す。


「トランプ……?」

 

 取り出したのはトランプ。市販で売ってあるようなケースに入ったごく普通のトランプに見える。


「そうだ。今回はこいつで勝負しようじゃないか……生意気な女の子さん?」


(なるほど……。決闘でトランプ……ねぇ?)


 始まったものは仕方がないと傍観者に回った葵はそのトランプを見て感嘆とする。

 元来、トランプとはブラックジャックにポーカー、バカラなど————様々なギャンブルで使われることが多いゲーム。幼少時代に嗜む七並べやババ抜きも該当するが、トランプの遊びにおいては遊戯者の『頭』が使われる。


 読み、閃き、観察力などなど。このトランプを使ったゲームは例外なく己の『頭の良さ』が試されるのだ。

 『頭の良さ』が求められるこの都市学園に相応しい決闘。


「それで、何のゲームにするの?」


 トランプを一瞥した皐月は毅然に言い放つ。


「『フィフス・カード』だ」


「フィフス・カード?」


「そうだ……これはちょっと別のゲームに似ているが、簡単に言えば『大きい数を出した方が勝ち』ってルールだ」


 そう言って、男子生徒は机に五枚のトランプを並べる。

 ハートのエース、3、5、10————そして、K。


「この五枚を同時に出していき、相手の数字より大きい数字を出したものが勝ちと言う単純なルールだ。これなら、イカサマも出来ない公平なルールだと思わないか?」


「……うん」


 確かに、同時に出すのであればイカサマしようがない。

 トランプに目印をつけようが、同時に出せば気づいても自分の手を変えることはできないからだ。

 客観的に見れば公平な心理戦————だが、


「でも、それだったらKを出せば負けることはないよね? だって一番大きい数字なんだもん」


 出された数字の中で一番大きいであろうK。

 数字の大きいほうの勝てるゲームであれば、このKを出せば負けはなく、それではゲームが成立しない。


「あぁ、だから一つ例外がある————それが、このエースだ」


 そして、男子生徒はエースを一枚手に持った。


「エースは最弱のカード……しかし、エースはKに勝てると言うルールがあるのさ」


「ふーん……」


 皐月はエースのトランプを眺め、納得した顔つきで唸る。

 確かに、最強であるカードのKが最弱のカードであるエースに負けるのであればゲームが成立する。

 だってそうだろう? 何の役割を持たなければ『大きい数から出していけば』、このゲーム負けることはないのだから。


 故に心理戦。役割を与えられた存在がいることで、どの数を出していくかがポイントとなってくる。


 一人、そのルールを聞いて葵は————


(じゃあ、このゲーム……一手目で勝敗が決まるわけか)


 冷静に分析していた。 

 最強株であるこの男。安直で簡単なこのゲームの本質を見抜き始める。


(数が大きい方が勝つというこのフィフス・カード……当然、3と5のカードに意味はない。何せ、一手目で使われるのは10かKがエースだけなのだから)


 一手目で後の事を考えて大きい数字を残すメリットはない。

 というのも、仮に一手目に3か5を出すとしよう。もし相手が10かKを出して来たら? ————当然負ける。エースが来れば勝てるであろうが、それだったら10を出せばいい。


 そして、それも踏まえて10に勝てるK、Kに勝てるエース……初手で使うのはこれぐらいだろう。

 余程の愚か者じゃない限り、このゲームは三枚のカードを使った心理戦————悪く言えば無駄な選択肢を加えた『じゃんけん』みたいなものだ。


「いいよ、そのゲームでやろ」


「OKだ」


(まぁ……このゲーム、皐月が負けることはないか……)


 そう考えた葵の意図はどこにあるのか? 無論、周りにいるギャラリー達は知る由もない。

 何せ、こればかりは出会って数秒の生徒より、長年の付き合いの葵にしか分からないのだから。


「それじゃあ、賭けるPTは初めてということもあるだろうから、とりあえず2000PTぐらいで————」


「何言ってるの?」


 勝負内容を決め、いざ賭けるPTを決めようと思った矢先、皐月が口を挟む。

 そして————


「賭けるPTは全保有PTに決まってるじゃん」


「なっ⁉」


 皐月の不敵すぎる発言に、男子生徒は驚愕の声を上げる。それは周囲のギャラリーも同じで、皆ざわついてしまった。


 それもそのはず。皐月の今の発言はオール・オア・ナッシング。つまり、負ければ今後の学園生活は最低限の生活しか送れず、周囲の生徒から『負け犬』として見られる————それを強いるような発言だったからだ。


(皐月にしては大胆なことしたなぁ……)


 一方で、葵はその発言に皆とは違って平然としていた。

 それは一重に驚きや焦りがないから————この勝負において、皐月が被害を被ることが無い現れ。


(こと心理戦ゲームにおいて、皐月に勝てたとこは一度もないからなぁ……)


「葵くんを馬鹿にしたのに……どうして生き残ろうとするの? ————そんなの許すわけないじゃん」


「貴様……ッ!」


「オール・オア・ナッシング————勝ったものは成り上がり、負けた者は全てを失う。葵くんより頭がいいなら勝てるんだよね? ————だって、葵くんより私、弱いんだもん」


(おぉ……すっげぇ怒ってるなぁ)


 葵はここまで大胆に踏み込んだ皐月を見て、関心したのと同時に嬉しく思ってしまう。

 何故なら、想い人が自分の為にここまで怒ってくれているのだから。

 少しも心配がない————と言えば嘘になるが、このゲームに皐月が負けるとは微塵も思っていない。


 故に、嬉しいと言う感情が表に出るのは仕方のない事。


「いいだろう! お前に勝って、次席の座を奪ってやる……っ!」


 双方の全ての受諾。


 それによって、突如端末からアナウンスが流れてきた。


『双方の承認を確認いたしました。これより、稲葉晃と水無瀬皐月の決闘を開始いたします』


 そして、皐月と男子生徒の頭上にホログラムが投影される。



『対象PT3980』

『対象PT7360』







「さ、始めよ? 言っておくけど————私、葵くんを馬鹿にした貴方に容赦なんてしないから」


 決闘が、始まった。




※タイトル変更しましたm(__)m

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