決闘の受諾
いきなり目の前に現れた一人の男子生徒。
そして、その少年から何の前置きもなく決闘を申し込まれた。
この学園で初めての決闘の申し出。多分、他のクラスもまだ決闘はしていないはず。
そんな申し出を葵は————
「えぇ……嫌なんだけど」
拒否した。それはもう嫌そうに、内面を隠そうともしなかった。
「なっ⁉ ど、どうして!」
その反応が予想外だったのか、男子生徒は驚愕の色を見せる。
「いや、だって俺にメリットないじゃん」
先程話した通り、今行う決闘には葵にとってメリットはない。どちらかと言うとデメリットが多い。
故に、この申し出を断るのは普通と言ってもいいのだ。
「PTが増えるじゃないか⁉」
「めちゃくちゃPTがあるのにこれ以上はいらねぇよ」
現状、有り余るほどの生活費が貰える程のPTを保有している葵。
そこら辺の生徒とは格が違う。その為、危険を侵してまで微々たるPTを手に入れる気にはなれないのだ。
しかし、それでも男子生徒は引き下がらなかった。
「貴様、それでも首席か⁉」
「首席なんていらねぇよ。何ならくれてやろうか? PTはあげないが」
首席なんて、厄介なお嬢様に目をつけられるだけ。
正直、迷惑しているのだ。あげれるものならさっさとプレゼントしたい。
その代わり、皐月の好感度が欲しいと思ってしまう。
「ふんっ、運だけで首席になれたからっていい気になりやがって」
男子生徒は頑なに拒み続ける葵を見て、逆に今度は毒を吐き始めた。
「貴様なんて対した実力もないクセに首席になってしまってビビってるんだろう? だから、この俺の決闘を拒否するんだ!」
PTが欲しくないと言う葵の言葉を無視し、更に挑発し始める。
その声は徐々にボリュームを上げていき、やがて周囲の注目を浴び始めた。
そして————
「能無しは困るよなぁー! こうやって俺みたいな強い奴が現れたら逃げるしかないんだからさー! お前こそ、この学園にふさわしくな————」
「ふざけないでよっ!」
皐月の耳に入った。立ち上がり、大きな声を出してその男子生徒を睨みつける。
「おい皐月……お前は割って入ってくんなって」
「葵くんが能無しなわけないじゃん! この学園で一番だよ! 葵くんは、一番頭がいいんだからね!」
葵の言葉は皐月の耳には入らない。
皐月には我慢ならなかった。
幼なじみが一方的に馬鹿にされることが、葵の実力を否定されることが。
故に琴線に触れた。決闘を受けてもらえなかったからと言って馬鹿にする男子生徒が許せない。
「一番頭がいい……? 馬鹿を言うな。こいつの何処が頭がいいんだよ? 運だけで首席になっただけのこいつはただの能無しだ」
「貴方の方がよっぽど能無しだよ! 葵くんの実力も分からないでさ!」
「お、おい皐月……」
葵は興奮してしまった皐月を宥めようとする。
しかし、皐月はそれでも止まる気配がなかった。
「ここは実力が公平に判断される都市学園だよ⁉ 葵くんより貴方の方がPTが少ないってことは貴方は葵くんよりも下で弱いってことなの!」
「なっ⁉ さっきから聞いていれば好き放題言いやがって————こいつが俺よりしたなわけないだろう⁉ こんな低脳が!」
「低能なのは貴方の方!ついでに言えば、貴方の方が能無しだよ!」
そんな口論はヒートアップしていく。お互いに罵倒し合い、ちょくちょく葵が馬鹿にされ始める。
葵としては別に馬鹿にされても気にしないからいいのだが、皐月がこうも激情に駆られているのは見ていられない。
だからこそ、皐月を何度も宥めようとするのだが、本当に止まる気配がない。
周りの生徒も、徐々に集まってきており、初めて行われそうになる決闘を今か今かと興味深そうに見つめていた。
「いいよ、その決闘私が受ける————Cクラス次席の私が、貴方に決闘を申し込みます!」
そして、皐月は端末をいじり始めた。
そして————
「ふんっ! 俺を馬鹿にしたことを後悔させてやる……!」
「私に負けたら葵くんより下だって事だからね! 葵くんは、私より頭がいいんだから!」
双方の受諾。————これで、決闘の土台は整った。
(いや、マジか……)
皐月の初めての決闘。後先も考えないその行動に、葵は開いた口が塞がらなかった。
♦♦♦
〜都市学園決闘システムについて〜
・決闘システムは、都市学園全生徒を対象としたものである。
・決闘は双方の承諾の元に行われる。
・端末内にて決闘の申請、及び承認を交わした後、勝負内容とPT数を決める。
・勝者は定めたPT分を獲得でき、敗者は定めたPT分を失う。
・双方が納得できているのであれば、決闘内容、PT数、場所に決まりはないものとする。
・尚、PT保有数が多い生徒は必ず、相手のPTより多いPTを定めなければならない。
・不正、賄賂、暴力行為は発覚した時点で敗者となる。
・勝敗の見届け人として、学園側が申請の場所をモニタリングして監視するものとする。
以上のルールを守り、己の高みを目指する為に励んで頂きたい。
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