決闘
『ただし、与えられたPTは減ることもあるし増えることもある————それが、この『決闘』と言うシステムだ』
教師は、大きなディスプレイに映像を投影させる。
『『決闘』と言うシステムは、この学園の生徒全員を対象にした格付け戦————いわばゲームみたいなもので、それぞれ各ルールを定めた上でPTを賭け、勝者がPTを獲得するものとなっている』
「ふーん……」
松坂牛から意識を戻した葵は、想い人に好かれる為の作戦を一旦隅に置き、教師の話を耳に入れる。
『ゲームの内容は、双方が合意を得れば好きなもので決めてもいい。それこそ、じゃんけんでもババ抜きでもチェスでも問題ないわけだ。賭けるPTに関しては規定こそあるものの、双方納得すれば好きにして構わん』
(……つまり、PTとゲーム内容を定めないと成立しないわけか)
誰かが決闘を挑み、挑まれた方が了承する。
そして、そこからゲーム内容と賭けるPTを決めて初めてスタートできる。
その勝負を経て、勝者がPTを手に入れ、敗者がPTを失う。
簡単に言えばそう言う事なのだろう。
『詳細は今から端末に送るので、必ず確認しておくように。君達が今後、この学園で過ごしやすい環境になるかならないかが決まるわけだからな』
そして、三度に渡る通知音が聞こえてきた。
しかし、葵はそれを見ようとはしなかった。単純に、めんどくさくなってしまったからである。
(説明が長ぇ……)
『それと、例えPTを全て失っても最低限の生活費は支給されるから安心して欲しい。加えて、学校行事でPTが増えることもあるから、励むいい機会だと思ってくれ』
♦♦♦
「長かったね〜」
「そうだな……」
机に埋め込まれているタブレットのカバーを閉じ、そのままぐでーっと突っ伏す皐月に、葵は軽い返事を返す。
教師からの説明も終わり、現在次の授業までの小休憩————と言っても、準備やら色々あるらしく、三十分間と長い休憩。
「葵くん、さっきから端末見てるけど、さっきのお勉強?」
「ん? ……あぁ、一応確認しておこうと思ってな」
その為、葵は先程説明された事を再び端末にておさらいをしていた。
先程は別の事を優先してしまった葵も、日本屈指の進学校であるこの学園で三年間を過ごすのだ。把握しておかないと、後々苦しむことになる。
「葵くんは決闘とかするの?」
「いんや、しねぇよ」
端末の画面を閉じ、葵は皐月に向き直る。
「現状、俺達はPTを賭けてまで増やす理由がない。……今でさえこんだけの生活費を貰ってんだ。これ以上欲しい奴ならまだしも、一般人だったらこれ以上は無理して手に入れる必要がない」
実際問題、いくら収入がない子供でも、過ごしていく上で月に四十万以上ものお金は使わない。
葵はどこぞのお嬢様やボンボンとは違い、一般的な家庭の生まれだ。
少しの贅沢はするものの、普段から贅沢をしないと死んでしまう程の高水準生活は送らなくてもいい。
「それもそっか〜」
納得したのか、皐月も端末画面の数字を見てすぐに閉じた。
皐月も、かなりの金額が支給されたのであろう。
「じゃあ、私達はとりあえずは何もしなくていいね!」
「あぁ、教師が言っていた学園行事とやらまでは、様子見でいいんじゃね? ————まぁ、皐月が決闘をしてみたいんだったらしてもいいが」
「ちょっとしてみたい気はあるけど……私もしばらく様子見にするよ」
葵としても、少し興味はある。
しかし、ルールも規則も慣れていない状態でリスクを負うのは遠慮したい。
だからこその様子見。時期を見て楽しんでみるのもいいかもしれない————それぐらいにしか考えていないのだ。
「さっき送られてきたこのルールにも『決闘は両者の合意の上で行われる』って書いてあるしな。逆に言えば合意しなければ決闘できない————つまり、逃げてもいいわけだ」
「それはそれで男らしくない発言だね〜」
「馬鹿を言うな。無闇に突っ込んで被害を受けるなんておかしいだろ? 俺は男らしくないんじゃなくて、冷静なだけだよ」
想い人に男らしくないと言われた葵はしっかりと否定する。
だが、皐月からしてみれば逆に必死に言い訳をしているようにしか見えなかった。
「うんうん、そうだねー」
「信じてくれってばよ」
なんてやり取りを繰り広げる。
教室では新しい友達を作ったり、葵と同じように端末に送られてきた規則やら学園のシステムを確認している生徒がいた。
そこに目立った動きはない。皆、この学園のシステムを把握してから行動に移すつもりなのだろう。
普通に学園生活を送るのか、はたまた成り上がる為に勝負を仕掛けるのか、それとも機が熟すのを待つのか。
(まぁ、仮にこんなにPTがなくても、俺が動くことはなかっただろうがな……)
見極めをせずに行動に移すのは愚者である。
最善の結果に向かうためには情報が必要。それをどう有効活用するのか? そして、その情報を踏まえた上でどう行動するのか? それをせずに率直に動く奴は、勘の鋭いやつか————馬鹿のする事だ。
(しかも、この学園はどうにも一筋縄ではいかなそうだからなぁ……)
葵は再び端末に目を落とす。
そこには二十ページに渡る校内規則に、それに付随した決闘と言うシステムの詳細が書かれていた。
特に気になるのが、『決闘』と言うシステム。
葵の今後の学園生活に大きな影響を与えるであろうこのシステムは、葵の目を止めるに充分過ぎるものだった。
(一歩踏めば下克上……最悪、地獄落ち————)
決闘システムは賭けるPTによっては転落者なり得る。大きなPTを賭けて敗北しようものなら、葵とて首席どころか最下位に転落してしまう。
それに、この決闘システムは『PTが多い者程、不利なシステム』なのだ。
(だからこそ、見極めは必要……)
故に慎重に。流石に、学園に興味がないとは言え、転落して皐月に無様な姿は見せたくない。
だから————
「貴様……東條葵だな?」
不意に、端末に目を落としていた葵に声がかかる。
「……ん? 何か用か?」
正面から聞こえたその声に、葵は端末から視線を外して反応する。
そして————
「俺は、お前に決闘を申し込む!」
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