入学式

 合格者説明会へと案内してもらった葵達は以下の説明を受けた。


 ・葵達はCグループ————Cクラス在籍の生徒である。

 ・四月一日当日十時までに敷地内にある寮への私物の搬入を終えること。

 ・入学式は四月二日に行われる。


 簡単にまとめればこんなものだった。

 ちなみに、寮は当然のことながら女子寮と男子寮に分けられる。


 その事に葵は多大なるショックを抱いてしまったが、教室で毎日会える、いつでも時間さへ守ればいつでも会える、自分に言い聞かせることで己を納得させた。


 そして、案の定と言うべきか————葵は首席で間違いなかった。

 しかし、一点の語弊があるとすれば、この首席と言うポジションはあくまで『仮』なんだとか。


 一学年は全てで六クラス。それぞれA~Fクラスまで存在しており、今回は試験のグループごとにクラス分けされたそうだ。


 各クラスには葵達のような首席、次席が存在しているみたいなのだが、ここで一つ大きな問題がある。


『今回、君達は栄えある『本試験の合格者だ。本試験で落ちた生徒達で行われた二次試験の合格者とは『格』が違うことになる。なので、それに見合った成果と行動を、これからは意識して欲しい』


 今回の入学試験。どうやら『本試験』と『二次試験』で別れていたみたいで、本試験で落ちた者が二次試験を受け、その合格者がD~Fクラスに分けられたらしい。

 つまり、構図的には


 本試験合格者=A~Cクラス

 二次試験合格者=D~Fクラス

 

 となるようだ。

 ————で、何が問題になるかと言うと、この時点で格付けが行われたという点だ。


 本試験で合格した者は優秀な生徒、二次試験で合格した者はそこそこ優秀な生徒————そう言う風に学園側には思われているらしい。


 故に、CとDでは大きな壁がある。例えDクラスの首席で合格したとしても、Cクラスの最下位合格者とはランクが違うらしい。無論、Cクラスの方がランクが上となる。


 ……まぁ、それだけでは今後の成長を妨げてしまうから『ある制度』がこの学園にはあるらしいのだが、そこは追々説明させていただく。

 話を戻すが、葵は実質のクラスの首席ではあるのだが、それはあくまでグループ内での首席に過ぎない。


 本当の首席になる為には学年のランクが同じAとBの首席と学年トップの座を争わなくてはいけない。そうして、実質的な首席と名乗れるのだとか。

 しかし、葵にとって首席と言う立場にさして興味はない。葵は『如何に皐月に頭がいいとアピールできるか』と言う一点にしか興味がないのだ。


 と言っても、首席になってしまったのであれば仕方ない。甘んじて受け入れるしかない。


 という訳で、現在の学年トップは雌雄を決めていないA~Cの首席の生徒。

 葵は、入試最高成績で栄えある都市学園の門を潜ることになったのだ。


 え? 別にそれだったら問題じゃないだろって?

 確かに、首席で合格できたという事はメリットしかない。葵達にはまだ説明されていないことだが、首席、次席には多大なる恩恵があったりする。


 優待券やら生活費支給額UPだとか、敷地内のある施設の入室許可などなど。他にもいろいろあるのだが、他の生徒より優遇されるのは間違いない。

 それだけ見ればメリット。問題があるわけでもない。


 しかし、お忘れだろうか? 葵は一つ嘘をついていたことに————


『この度、都市学園に入学された皆様、おめでとうございます。生徒会長として、皆さまの入学を心より歓迎いたします』


 時は過ぎ入学式。新しい制服に身を包んだ新入生は、全学年の見守る講堂の中心にて鎮座していた。

 企業の役員、楽員の教授、OBの勧誘者にマスコミ関係の人などなど。様々な関係者がこの入学式に参列している。無論、控えには学院長が不遜な態度で座っていた。


『皆様は、我が学園に入学する為の資格を見事に手にした優秀な生徒ばかりです。日本を支える有望な人材として、誇りと期待を抱いていただいて構いません。それほどまでに、この学院の一員になれたという事は、あなた方が優秀な人材だと言う事を証明しているのです』

 

 皐月も、他の所為と同じようにその生徒会長である妙上院の話に耳を傾けている。

 しかし、隣には幼馴染である少年の姿はない。


 では、一体どこにいるのか?


『しかし、その中でも最も優秀な成績を残した者がいます。それは、今後あなた方の行く道を示してくれる大きな存在となるでしょう』


「~~~~~~~~~~~~~~~ッ‼」

(うわぁ……めっちゃ睨まれてるよ……)


『では、首席の皆さん————壇上に上がって下さい』


 妙上院が幕の裏に控える生徒を促す。

 それに続いて、三人の生徒が幕の裏から壇上へと顔を出した。


『ほぅ……あの子達が首席か……』


『やはり、鷺森財閥の令嬢は他の者より一歩抜きんでているようだ』


『才女である彼女は、やはり学力だけではなかったようだね……』


 VIP達の注目の声が上がる。

 それは当然だ。将来有望な人材を引き抜くことこそ会社の利益に繋がる。今のうちに見極めておきたいと言うのは当たり前のことなのだ。


『紹介いたします。この方々が、あなた方の代表となる生徒達です!』


 そして、会場には淡々とした声が聞こえ始める。


 一人は、にこやかな笑みを浮かべる白髪の少女。


 一人は、紅蓮の髪を携えた隣を思いっきり睨みつける少女。


 一人は、隣の視線に肩を縮める平凡な少年。


「あなた……ッ! よくもこの私に嘘ついたわね⁉」


「……おっふ」


 葵は、早くも嘘がバレてしまったのだ。

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