合格発表当日の一幕
第一試験が終わり、葵達は端末に送られた指定の場所に集められた。
広い講堂には人数分の筆記用具とプリント用紙、数えると三十人分だと言うことから、ここに集められたのは一次試験の合格者なのだと言う事が予想できた。
そこでは本当に簡単な学力試験。中学のおさらい程度の問題だった。
普通の学力を誇る皐月でも難なく解けたことから、この学校は本当に勉学など求めていないことが伺える。
「葵くん大丈夫だった〜?」
「もちのろんですぜ皐月さんや。これで俺達の合格は間違いなしでっせ」
「そうだね! 私達の合格は間違いなし!」
「「あーはっはっはー!!」」
と言うやり取りを交わして、その試験を終えた葵達はーーーー
「きょ、きょきょきょきょきょ今日が合格発表の日ですねっ!」
「あ、ああああああああああぁ! そ、そそそそそうですね!」
合格発表に臨んでいた。
試験があったあの日。流石にすぐに発表と言う訳ではなくすぐに解散させられ、時は過ぎ三月一日の今日と言う日に発表となった。
緊張と期待を胸に抱きながら潜ったこの聳え立つ校門。その前に、葵達は足と手をこれでもかと震わせながら見上げていた。
試験を終えた葵達は同級生に「どうだった!?」「合格できそう?」「これで入学できたら自慢できるぜ!」など言われ、「合格間違いなしよ!」「そうだね! 私と葵くんが落ちる訳ないよ!」と自信満々に答えた。
しかし、そんな自信も当日に近づくにつれ薄れていく。
(あれ? 今思ったけど、どっから俺はあんな自信が生まれたんだろ?)
あの講堂に集められたのは三十人だったので、自分達は第一試験の合格者だと思っていた。
しかし、もしかしたら他の場所で別の受験者が集められていたのかもしれない。学力試験でも落ちているかもしれないーーーーなどなど。
一気に不安が込み上げてきたのだ。
「わ、私達受かるよね!? 私、引越しの手配しちゃったよ!?」
「何故受かってから引越しの手配をしなかったのかとツッコミたいところだが俺も手配しちゃったんだよねー!?」
全寮制である都市学院に合格すれば、私物を持ってこなくてはいけない。しかも、葵達はかなりの遠方である田舎からやって来るのだ。引越しの手配は必須。
しかし、葵達は試験に合格もしていないのに手配してしまった! 加えて試験終了当日に!
何たる愚行! これで落ちようものなら笑いもの確定である。
「いや、皐月! 落ち着け、あの時の自信を思い出せ!」
「あの時の……自信?」
「そうだ! 試験開始で屋上に足を運んだ俺の考察力、試験内容を冷静に理解した俺の知力、そして、見事に作画上手くいきPTを稼げた俺の策略、そして閃き! これら全てを思い出せばあの時の自信が蘇ってくるはず!」
「すみません……私活躍してなくて何も自信が持てません」
「何故に!?」
余計に不安になってしまった皐月に驚く葵。
葵的には愛し想い人に不安になって欲しくない一心だったのだが、皐月からしてみればただの追い打ちーーーー何もしてねぇじゃん、と言っているようなものだった。
「ごめんねぇ……約立たずで……葵くんの足引っ張っちゃってたよね……。私、合格できるような器じゃないんだよ……」
「そんなことないっス! 皐月がいたから自信もてたと言いますか! 皐月がいたから頑張れたとーーーー」
そう言いかけて、葵は口を閉じる。
「私がいたから……?」
「あ……い、いや……」
(言えねぇ!? 皐月に頭がいい所を見せたかったから頑張れたーーーーなんて言えねぇ!?)
そう、まだまだ葵は勇気が持てないヘタレ。ここで堂々と好き好きアピールなどできやしないのだ。だってヘタレだから。
「そ、その……あれだ。俺と皐月は……その、一心同体……なんだろ?」
嘘ではない。だが、質問の答えとしては少しズレていると思う。
葵は赤くなった頬を見られないように顔を逸らした。
するとーーーー
「むふ……むふふふふふふふふふふっ」
「ど、どうしたんでしょうか皐月さん……? お顔がとんでもない事になってますことよ?」
いきなり笑い、ニマニマし始めた皐月に、葵はたじろいでしまう。
(もしかして、俺の発言おかしかった!?)
キザなセリフ恥ずかしくないの〜? なんて思われていたのであれば、葵は穴に入らなければいけなくなる。それほどまで、想い人にそんな事を思われるのが嫌な葵であった。
「そっか〜! 私だけだと思っていたけど、葵くんもそう思ってくれてたんだね〜」
と、葵の思いとは裏腹に、皐月は嬉しそうに笑っていた。
その事に、葵は不安と驚きと疑問で一瞬ばかり固まってしまう。
「うんうん、分かってるよ! 私達は一心同体! 幼馴染と言う関係よりも深い絆で結ばれた仲だもんね!」
(深い仲……?)
それは一体何なのだろう? 皐月のその発言に、葵は先程の入り交じった感情の中で疑問が突出してしまった。
「お、おう……」
とりあえず、不安が無くなったようで良かったと思い、分からないまま首肯しておく。
葵にとって、彼女が笑顔でいられるのであればそれでいいのだ。
「さぁ行きましょうぜ葵くん! 輝かしい未来が、私達を待っているんだよ!」
そう言って、皐月はパタパタと小走りで聳え立つ校門を潜っていく。
一体何だったのか? 皐月は未だに納得できていない。
しかしーーーー
「……まぁ、いっか」
彼女の後ろ姿を見て、微笑ましく思いながら後を追うのであった。
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