第7章

第23話

ともちゃんみたいな、明るくて前向きな性格に近づけた、でしょうか……?』

『当然さ。あんなに頑張ったんだからね』

 僕は放課後の記憶をはんすうしながら風呂上がりの頭にタオルをこすりつける。セッション直後の興奮冷めやらぬ状態だったといえど、我ながら無責任に放言したものだ。純粋なつつめちゃんはとても嬉しそうにしてたけど、当の僕はちょっと後悔している。

 よかれと思ったところで、善処したところで、相応の道レールの上を進めるとは限らない。かえって誤った道に突き落としてしまう可能性だってある。

 退屈そうな姿に見かねて、おうを遊びに連れ出してしまったあの日の僕のように。

 幼き少年はとんと理解していなかったのだ。須佐美一家の跡取りともだちのおんなのこが常に悪い大人たちから憎まれており、あまつさえ命を狙われるような存在だったなどと。

(リップサービスもほどほどにしないとな)

 僕は治らない悪癖にへきえきしつつ、自室のドアを後ろ手に閉める。いつものようにブラウン管の電源を直接入れてから、ひとり用のちゃぶ台に水滴を垂らす缶ジュースをつかみ、プルタブを引き――そうするうちに、壁にびょう留めされた大判のカレンダーがふと目に入った。

 赤いチェックマークが記された今週の土曜日。

 前もって桜花に指定されたトークオブトリップのセッションを行う約束の日である。

「……考えるのはよそう。一騎打ちまではまだ日がある」

 僕はライム香る炭酸をあおるようにのどへと流す。しかしてベッドを軽くきしませ、タオルケットの上に投げっぱなしにされていたテレビのリモコンを手に取ったものの、ブラウン管に映るのはシュークリームみたいに頭が軽いタレントのみ。

 めったな人笑わせを見せられては気晴らしどころでなく、僕の頭痛は悪化の一途をたどっていった。

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