第32話 マジで不死身じゃねぇか

 

「ヒュウガさん!!」

「ミナトさん!!」


 心配そうに俺を見つめる2人に俺は笑顔で無事を伝える。


「やれやれ、流石にもうダメかと思ったぞ」


 そう言うクロもどこか安心した様子だ。


 だが、のんびりはしてられない。

 こうしてる間にアイツが復活してくるかもしれない。


「話は後だ、さっさとここを離れるぞ」


 そう言って、立ち上がろうとしたのだが――


「……足に力が入らねぇ」


「魔力を使い過ぎたのだろう」


 言われてみれば確かに目眩もするし、めっちゃだるい。


 今日何個目かも分からないアピの実を口にする。


「回復魔法を――」


 そう口にしたリサの身体が傾き、倒れ込んでくる。


「お、おい! 大丈夫か!」


 なんとか抱き止めたが、呼吸が荒い。


「リ、リサちゃん?!」

「だ、大丈夫です……」

「いや、全然大丈夫そうじゃないから!」


 心配する俺とステラをよそにクロがため息をついた。


「心配するな、ミナト貴様と同じだ」


「同じ? って、ああ!」


 すぐに意味が分かり、リサにアピの実を手渡した。


「まったく、無茶をする……未熟者があれだけ高等魔法を連発すれば魔力切れを起こすのも当たり前だ」

「おまえそんな言い方――」


 思わずカチンとくる物言いに声を荒げそうになったのだが――


「だが、貴様がおらねば我を含め全滅していただろう……助かった」


 最後の方は小声になってるし、そっぽ向いてるし……


「……素直にありがとうって言えねぇのな」


「うるさいぞ、そら魔力が回復したのならさっさと逃げるぞ、グズグズするとまた奴が――」


「奴とは儂のことかのぉ?」


 その場にいた全員がゆっくりと声のした方向に顔を向ける。


 正直、もう見たくない――


「マジでしつこいすぎるだろ……」


 そこには先程までと変わらない姿で浮かぶタナトスの姿――


 冗談じゃねぇ……

 マジで不死身じゃねぇか……


 気力を振り絞り、立ち上がる。

 泣き言をいくらこぼしてもなんの意味もない。


 折れかけた心を奮い立たせ、構える――


「待て! 慌てるでない、もうお主らに危害を加える気はない。 儂の負けじゃ、降参じゃよ」


「――は?」


 少し慌てた様子で両手を上げるタナトスだが、一瞬言葉の意味が理解出来なかった。


「そう言って油断させる気か?」


 タナトスの言葉が信じられないのかクロは警戒心を剥き出しにしている。

 無理もない、俺もまったくもって信じられない。


「落ち着けと言っておるじゃろ! ほれ、ご覧の通りなにも手にしておらん!」


 確かに先程まで存在感を放っていた大鎌を手にしていない。


「小僧が武器まで出し始めた以上、今の儂では勝ち目がないわい」


 武器?

 ひょっとしてコレの事か?


 いつの間にか装着していた手甲に目をやる。


「そうそう、コレなに? 気がついたら着いてたんだけど」


「それはお主の魔力が物質化したものじゃ、儂のグリムリーパーと同じじゃな」


 どうやら魔力を手に集めまくった結果、偶然にも自分がもっとも使いやすい武器に物質化したらしい。


 完全に奇跡の産物だな。


「お主のつけておるその腕輪がその手助けをしておるようじゃな、珍しい魔道具じゃな」


 ……知らなかった。


 多分、それも説明されてたんだろうなぁ……

 全然覚えてないけど……


「そんな事は今どうでもよい。 降参などと言って何故姿を現した? それを説明してもらわん事には信用など出来んぞ」


 クロの言うことはもっともだ。

 戦う気がないならなんで出てきた?


 放っておけば俺たちはすぐにでもこの場を離れただろう。


「ふむ、そうじゃな、ならば単刀直入に言おう。 一つ頼みを聞いてくれんか? もちろんお主らにも利がある話じゃ」


「頼み?」


 ♦︎


「なるほど、話は分かった」


 タナトスの頼み――


 それは廃教会の地下にある召喚陣の破壊だった。


 タナトスの話を要約すると、数ヶ月前、タナトスは何者かに召喚陣されたそうだ。

 しかし、その召喚は不完全なものだった。

 召喚師は耐え切れず、死亡。

 タナトス自身は召喚された事で制約を背負う事になった。


 それはこの廃教会から一定以上離れることが出来ないと言う。


 召喚時に与えられた命令自体は存在するが、術者が未熟であった為、タナトスの意思で無視出来る。

 だが術者が死亡している為、送還もされない。


 結果この廃教会に囚われているのと同じ状態なのだそうだ。


「放っておけばいずれは召喚陣を維持する魔力も尽き、自由になれるだろうが、時間がかかりそうでのぉ」


「不死である貴様が時間など気にする必要もあるまい」


 クロはそう言って切り捨てた。

 確かに殺されかけた身からすれば、わざわざこんな化け物を解放するメリットなどないのだが、そういう訳にもいかない理由をタナトスから聞くことになった。


 タナトスを解放しないと、この地からアンデットが消える事はないと言うのだ。


 初めに倒したアンデット共はタナトスが生み出した訳ではないらしい。

 リッチという存在が召喚された事でこの地に、負の感情やエネルギーが集まりやすくなってしまった。


 結果、アンデット共は勝手に発生してくる。


 そんなアンデットを、研究の為に使役していたと言うのだ。


 厄介なのは仮にタナトスが大人しくするとしても、アンデットは勝手に発生してしまう。


 俺たちがここに来たのはそのアンデットの調査と退治だ。


 このまま帰れば依頼は失敗とまではいかなくとも、決して達成したとは言えないだろう。


「だから俺たちに召喚陣を破壊してお前を解放しろって事か」


「そういう事じゃ、お主らは依頼を達成、儂は自由の身と双方に利点があるじゃろ?」


 確かにそうだ。

 俺たちはマーリンの依頼がある以上、依頼達成という成果は欲しい。


 だが――


「一つ聞かせろ、その回答次第じゃ俺はお前を解放する訳にはいかない」


 俺たちにはもう一つ大事な目的がある――


 事と次第によっては、もう一度戦う事になる。


「なんじゃ怖い顔しおって……まぁええわい、儂に答えられる事なら答えるぞ?」


「――――ここに獣人が2人来たはずだ、その2人をどうした?」


 俺の問いかけにリサが息を呑んだのがわかった。


 なにしろ両親がどうなったのか知る事になるのだ。

 覚悟していたとしても事実を知る段になれば少なからず心が乱れるのは当然だ。


 そんなリサの緊張を知ってか知らずか、タナトスはあっさりと問いに答えた。


「ふむ、獣人2人か……知らんのぉ、そこの孤人族の娘を除けば久しく獣人は見ておらんよ。 なんじゃ? お主ら人探しでここへ来たのか?」


「え? ちょっと待て、嘘じゃないだろうな? この辺りに薬草を求めて来たはずだ!」


「残念じゃが来ておらん。 魔法で周囲を常時監視しておったが、獣人がこの辺りに来た事はない、断言してもよい」


 どういう事だ?

 嘘をついている可能性もゼロではないが、本当だとしたら一体リサの両親はどこに行ったんだ?


「……本当に知らないのか?」


「うむ、誓ってもよい」


 信じていいのか分からないが、今は信じる事にした。

 少なくともタナトスの言葉を信じればリサの両親は生きているかもしれない。


「良かったなリサ! 親父さん達生きてるかも――」


 死んでると思っていた両親が生きている――

 それはリサの希望になると思った。


「…………」


 だが、リサの表情は酷く暗く、悲しみに染まっていた。


 そうか――


 リサの両親は生きているかも知れない。

 だが、それならどうしてリサの元に帰ってこない?


 戻れない理由がある。


 もしくは――


「と、とりあえず街に戻ったら少し探してみましょう! ひょっとしたら向こうもリサちゃんを探しているかも知れません!」


 重苦しくなった空気を無理矢理吹き飛ばそうとステラが明るくリサに声をかける。


 今はステラの言葉が現実であると祈るしかなさそうだ――

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