第30話 頼んだぞ!

 

「っつ……!」


「う、動いちゃダメ!」


 リサが震える声を上げる。

 まぁ動きたくても全身激痛で動けない。


「この大馬鹿者が! 魔力の扱いも知らんくせにあんな無茶をしおって、一歩間違えれば貴様も粉々だったのだぞ!」


 まさか爆発するとは思わなかった――


 ん?


「おい……って事はヤツは――」

「安心しろ、貴様の一撃で砕け散ったわ」


 と言う事は――


「勝ったのか?」

「ああ、褒められたものでは無いがな」


「……そうか、よかっ―― つ! いってぇ……」


「よくないです! なんであんな無茶したんですか!」


 今度はステラノ悲痛な声が聞こえた。


 目を開けるのも辛くてその顔は見えないが多分また泣いてるっぽい。


 しゃべるのも辛いのだが、なんとか声を絞り出す。


「生憎と諦めが悪いもんでな……大人しくやられてやるくらいなら全力で足掻くタイプなんだよ」


 そんな事を言っていたら徐々に身体から痛みが引いてきた。


 治癒魔法か……やっぱ不思議な体験だな。

 というか、これホントに大丈夫なのか?

 なんかヤバい副作用とかないよね?


 とか考えているうちに身体から痛みが消えた。


 地面から起き上がり、身体を動かし異常がないか確認する。


 うーん……微妙に身体が重い気がする。


「ごめんなさい」

「すみません」


 え?


 突然の謝罪に驚いて二人を見るとこちらに頭を下げている。


 なんで二人が謝る必要がある?


「私達のせいでヒュウガさんをこんな事に巻き込んでしまいました」

「役に立てないどころか足を引っ張った……」


 あー……そういう事か……


「はぁ……」


 俺はわざとらしく呆れたようにため息を吐く。

 二人がビクッと肩を震わせる。


「なんか勘違いしてないか? 俺もこういう事は初めてだけどパーティーってこんなもんだろ」


 魔法使いや僧侶がモンスターと殴り合うなんて聞いた事ないぞ。


「最初のゾンビどもは二人がいなきゃあんなに簡単に倒せなかったし、リサの回復とサポートがなきゃ俺はとっくに死んでる」


 特に途中でタナトスの鎌を防いでくれたあの魔法がなきゃ、俺は間違いなく死んでた。


「だから謝る必要なんかない」


「ですが――」

「『お疲れ様』それでいいんじゃないか?」


 二人は納得いかないようだが、これ以上こんな不気味な場所で話を続ける必要もないだろう。


「おしゃべりはそのぐらいにしておけ、回復したならさっさと戻るぞ、グズグズしていたらヤツが復活してくるやも――」

「やれやれ、油断したわい……」


 いや、もうホントどうしてコイツクロは要らん事ばっかり口にするかな?


「……ちょーっとばっかししつこいんでないの?」


「カッカッカ! アンデットである儂があの程度でやられる訳無かろう? 多少の時間があれば回復する事などようじゃわい」


 死んでるから不死身です、ってか?

 だからオバケとかそういう類いは嫌いなんだ!


「しかしお主には驚かされたわい、その若さで恐ろしい迄の戦闘技術と僅かな戦闘の中での成長速度―― 天賦の才と言うにも程があるわ」


「よく喋る爺さんだな、とっとと掛かって来たらどうだ?」


 変化の乏しい髑髏が愉悦を浮かべ、大鎌を構える。


 できればそのまま見逃して欲しいところだが、やっぱりそうはいかないよな……


「カッカッカ! 儂はお主を観察したいんじゃよ、そら、精一杯足掻いて見せてくれ」


 くそジジイが……分かっちゃいたけど、やっぱり遊ばれてんじゃねぇか……


「おいクロ、本当にあの鎌を防ぐ方法はないのかよ? 当たったら即ゲームオーバーじゃどうしようもないぞ」


「奴のアレは魔力を物質化したもの、故に魔法でなければ防ぐ事は叶わん」


 やっぱりか、そんな気はしてた。

 一瞬とはいえ、リサの魔法が奴の鎌を防いだ。


「言っておくが、貴様には無理だぞ。 付け焼き刃とも言えん様な魔法では紙切れ同然だ」


「儂から一つサービスじゃ、先程暴発させた魔法、あれより更に魔力を圧縮出来れば防げるぞ? じゃが、同じように暴発すれば今度こそお主は木っ端微塵じゃろうがな!」


 その言葉と同時にタナトスが一気に間合いを詰めてくる。

 慌ててその場から飛び退きつつ、背後のステラとリサを巻き込まないようタナトスの背後へと移動する。


「お主の体術は見事なものじゃ! 儂の様な魔術師には真似出来んわい。 その上、光に適正を持ち、借り物とは言え魔王の黒炎すら操る。 更にはその成長速度には目を見張る!」


 早く鋭い大鎌の斬撃が次々と襲いかかってくる。

 独特の攻撃範囲と間合いの長さが鬱陶しい事この上ない!


 だが、先程までと違い魔法による攻撃が来ない。

 お陰でなんとか避け続けることが出来ている状態だ。

 もしここで魔法が飛んで来ようものなら、いよいよ躱し切れないかもしれない。


「どうした! 逃げるばかりで反撃してこんのか? と言っても儂は魔力を防御に回しておるから、先程の様にはいかんがのぉ!」


 くっそ!

 やっぱりそう言う事かよ!


 タナトスが何かを纏っている様な気配を感じたからなんとなくそんな気はしてたんだ!


「わざわざ教えてくれてありがとよ!」


 間合いを離しつつ、苦し紛れに黒炎を放つ。


 燃え盛る黒い炎がタナトスを飲み込むが、まるで意に介した様子もなく大鎌を振りかざし襲いかかってくる。


 ダメージ皆無ですね……

 むしろ視界は悪くなるわ、魔力を消費してダルくなるわで悪手でしかない。


 ヤバい……


 完全にジリ貧だぞこれ……


 そうなるともう取れる手段は一つしかない。


(おい、クロ頼みがある)

(……言わんでいい、ステラ達を逃せばいいのだろう? だが、リサが居なければ貴様間違いなく死ぬぞ?)


 それは分かっている。

 絶対に当たる事が許されない攻撃を躱すというのは体力以上に精神的な負担が大きい。

 ぶっちゃけ長くは持たない可能性が高い。


 だが、別に諦める訳ではない。


(2人が逃げ切れれば助けを呼べるかもしれないし、それで無くても時間を稼いでから俺も逃げる選択肢が出来る)


 今もこうして回避を続けているが、既にかなりギリギリなのだ。

 タナトスの大鎌が手足を、胴を掠め、髪が数本切り裂かれる。


 もう悩んでる暇は無い!


(おい! 待てミナ——)


 クロの言葉を最後まで聞かず、再びタナトスに向けて黒炎を放つ。

 正真正銘単なる目眩し――

 クロが2人に合流さえしてくれればいい。


 あとはこのスキに――


(頼んだぞ!!)


 クロを掴み、二人に向けて投げる!


(この大馬鹿者がぁぁ!!)


 よし、頼むぞ……上手く逃げ切ってくれよ――


 ♦︎


 あの大馬鹿者!

 まさか我を投げるとは!


 いや、今はそんな事に腹を立てている場合ではない。

 ミナトの決死の作戦を無駄にせんよう、一刻も早くステラ達には逃げて貰わねばならん!


 街に救援を頼んだ所で間に合わんだろうが、ミナト単独ならば確かに逃げおおせるやもしれん。


「わ! わ! わ!」


 リサが慌てた様子で我をキャッチする。

 どうやらミナトが我を投げた瞬間を見ていたようだ。


「な、なんで飛んできたの?」

「え? リサちゃんなにを――え? クロさん?!」


 事情が理解出来ないリサは困惑しているが、今はゆっくり話している暇は無い。


「二人ともミナトが奴を引きつけている間に逃げるぞ!」


 我の言葉に二人は一瞬の躊躇いを見せるも首を横に振った。


「ヒュウガさんを残して逃げるなんて出来ません!」

「馬鹿者! 貴様らが逃げねば、ミナトの奴も逃げられん! この場に留まれば返って奴を危険に晒す事になるのだ!」


 今、言葉を選んでいる時間はない。

 はっきりと足手まといであると告げた方が話は早いだろう。


 二人は悔しそうに唇を噛むだけでなにも言い返せないでいる。


 気の毒だが、気に掛けてやる余裕などない。


「行くぞ! 貴様らが早く動けばその分ミナトが――」

「危ない!!」


 リサの悲鳴に咄嗟に振り返ると、膝を突くミナトの姿と、そのミナトにデスサイスを振り下ろさんとするタナトスの姿が視界に飛び込んできた。

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