第29話 魔力ってアレだ
『ハイヒール』
リサの杖から発した光に身体が包み込まれると、それまでの疲労感と痛みが嘘の様に消えていく。
治癒魔法ってやつか……なんとも不思議な感覚だ。
まだ鈍い痛みは感じるものの、これなら全力で動いても問題なさそうだ。
「大丈夫ですか?!」
ステラがものすごい心配そうな表情で顔を覗き込む。
そういえばいつの間にか二人とも動ける様になってるし、リサには回復のお礼も言いたい。
ステラにも心配かけた事を謝りたいのだが、俺は大きく頷くだけで返事が出来ない。
なぜなら慌てて放り込んだアレ——
アピの実で口の中が一杯一杯なのだ。
なによりまだ終わってない。
きっちりアイツを倒してからゆっくり話せばいい。
グッと口の中のものを飲み込む。
ちょっと無理したので若干苦しい。
涙目になりつつ自分の胸をドンドンと叩きなんとか完全に飲み込む事ができた。
「ふむ、なるほどな、すっかり失念しておった。 しかしこれで可能性が出てきたな」
「ああ、魔力ってやつも回復したしリサのおかげで体力もバッチリだ」
万全の状態とは言えないが、さっきより遥かにマシだ。
「カッカッカ、もう準備は整ったかのぉ? では続きに行くとしようかのぉ? そろそろ儂も本気で行くぞ?」
そう言うとタナトスは手にした大鎌をぐるりと一回転させる。
なるほど、確かにあんなもん一発でもまともに食らったら身体が真っ二つになりそうだ。
「ミナト、奴の持つデスサイスには触れるでないぞ、アレはただの武器ではないからな」
「は? どういう事だ?」
「黒炎の言う通りじゃ、特に儂のデスサイスは通常のデスサイスより強化しておる。 魂を刈り取り、触れれば生命力を奪える特別仕様じゃ、儂はグリムリーパーと呼んでおる」
おいおいおいおい!
嘘だろ?!
次から次へとイカサマ仕様出してきやがって!
「案ずるな! 貴様なら躱せんことも無いだろう、とにかく触れずになんとかするしかないぞ!」
くそ! 言うだけなら簡単だけどな、実際それをしようと思ったらさっき以上に気を使う必要があんだぞ?
「先程は驚いたが、同じ手が何度も通用してくれると思うでないぞ? そら、行くぞ?」
そういうとタナトスが一気にこちらに向かって飛んでくる。
思った以上に素早い動きで驚いたが、見切れない程ではない。
と、思ったのだが——
「ちょ! 待て!」
「カカカ! 同時に捌き切れるものなら捌いてみるがよいわ!」
先程と同じ
無数の氷柱を避けつつ、慣れない大鎌の攻撃を全て躱すのはかなりキツい。
その上で奴に黒炎をぶち込むって……
無理ゲーなんですけど!
むしろ明らかにさっきより氷柱の量が多い。
しかも地面に突き刺さった氷柱が増えれば増えるほど動きづらくなり、追い詰められる事になる。
かと言って無茶をすれば先程のように手痛いしっぺ返しが待っているとなると、完全にジリ貧だ。
『
「動かないで下さい!!」
背後から声が聞こえたと同時にタナトスの動きが鈍くなり、氷柱の猛攻が途切れた。
「むぅ! 小癪な! その程度、儂に通用すると思ったか!」
ステラとリサの援護——
タナトスの意識が二人へと向く。
この隙を逃す手は無い!
『紫電』で一気に間合いを詰め、タナトスへと肉薄すると——
「充分過ぎるくらいに通用してんだろう!」
「!!」
再び全力で黒炎をタナトスへと放つ!
魔力ならあのリンゴもどきで回復出来る。
ならばと一撃に全魔力を注ぎ込んだ。
「ぐああああ!!」
タナトスが再び苦しそうな声を上げる。
距離を取りつつ使い切った魔力を回復するべく、アピの実をかじる。
この一撃で倒れてくれればいいが多分そう上手くはいかないだろう。
俺はそう思ったのだが……
「やったか!?」
このクソバカクロ助……
それは一番言っちゃダメなセリフだろ!!
『——デッドエンド』
案の定タナトスの声が耳に届く。
その不穏な言葉に俺は咄嗟にその場から飛び退き更に距離を取ろうとしたのだが……
「な! ぐッ——!」
何かの気配が胸元を掠めた取り同時に凄まじい脱力感と眩暈に襲われる。
「終わりじゃ!!」
黒炎の中からタナトスの鎌が襲い掛かってくる。
俺はなんとか躱そうと今度こそその場から飛びのこうとするが——
(ヤベェ! 間に合わない!!)
それでも直撃だけは避けようとその場から飛び退く。
だが、やはり躱しきれない——
『プロテクション!!』
「!!」
「む?!」
俺の命を刈り取ろうとする大鎌が中空で見えない何かに阻まれる。
しかしそれも一瞬の事で、次の瞬間にはガラスが砕けるような音と共に再び襲い掛かってくる。
だが、その一瞬が紙一重で躱しきれなかったタナトスの大鎌を躱しきる時間を作り出した。
「っぶねぇ!!」
「仕留め損ねたか……鬱陶しい小娘じゃな……だが、所詮は同じ事じゃ、お主の黒炎を3回食ろうて分かったわい」
「同じかどうかは——」
「いや、同じじゃ。 お主の黒炎は所詮紛い物、本来なら流石に儂もこの程度では済んでおらんわい、のぉ黒炎の魔王?」
「…………」
クロはタナトスの問いかけに否定も肯定もしない。
それは実質、肯定しているようなものじゃないか?
「カッカッカ! お遊びも終わりじゃ、大人しく諦めるんじゃな」
「……冗談じゃねぇ」
打つ手がないから諦めろ?
勝ち目がない戦いならこちとら親父相手に毎日繰り返してたんだ。
今ある手が全部潰されたなら、新しい手を考えれば良いだけだ!
しかもそのとっかかりは既に見つけてる。
俺は右手を突き出し、タナトスに向けて黒炎を放つ。
今までとなんら変わらないただの黒炎だ。
だが、それでいい。
こいつはあくまでただの目眩し——
再び距離を取り、アピの実を頬張る。
咀嚼もほどほどに素早く飲み込むと、全身に走る感覚——
何度も魔力の消費と回復を繰り返した事で、自分の中の魔力というものを感じられるようになり始めていた。
「無駄な足掻きじゃ! 効かぬと言うとろうに」
魔力を感じ始めた事で俺はある事に気がついた。
この魔力ってやつは俺の知るあるモノに近いのだ。
それは『気』――
『気』は特別なモノでは無い。
誰もがもち、無意識に使っている。
意識して使うのは非常に難しいが、武術家ならば誰しも『気』を操る術を学ぶものだ。
と、言われて俺もガキの頃から親父に叩き込まれてきた。
それがまさかこんな形で発揮されるとは思わなかった。
(『気』を練り、留め、そして拳に乗せて叩き込む――)
理解してしまえば、なんて事はない。
なるほど、ヤツの言う通りだ。
今までの黒炎は言ってしまえば、拳の握り方も知らない子どものパンチとなんら変わらない。
そりゃ、紛い物とか言われるわな――
「終わりじゃ!」
大鎌を振り上げたタナトスが眼前に迫る――
まったくもって好都合――
「それはテメェだ、つぅの!」
練り上げ、留めた『魔力』を拳に乗せた全身全霊の一撃――
「おおおおおおおらあああぁぁぁ!!!!」
「な! なんじゃと?!」
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