第21話 お前は俺を犯罪者にしたいのか?
武具屋を出た俺はすぐさま町の人間を捕まえ、服屋の場所を尋ねた。
もちろんステラ達の服を買うためだ。
2人はガーブの店で貰った装備を身につけている。
ステラは黒を基調とした外套で銀の刺繍が施されている。
シンプルではあるが、ステラの白い肌と金髪が際立ちいい感じだ。
リサはステラとは逆に真っ白なフード付きのローブで、こちらは金の刺繍が施されている。
ゆったりとしたデザインで足元まで隠せる。
驚いたのは本人の意思で尻尾を出したり隠したり出来るそうだ。
どんな仕組みになってるのかは勿論分からない。
ちなみにフードもあるので頭の耳も隠す事が出来る。
俺はわざわざ隠さずとも堂々としていれば良いと思ったのだが、ガーブ曰く——
「教会の連中や信徒に因縁をつける理由を与えてやる事はねぇ、必要に応じて隠すのも大切だ」
と言われてしまった。
まぁ変な意地を張ってリサが揉め事に巻き込まれるよりは良いと納得しておく。
まぁそんな訳で2人ともいい感じの装備を手に入れたのだが、足元は変わらないし、どちらにしても服は必要だ。
「と言う訳で2人の服を買う事にしました。 代金は店員さんに渡しましたので好きな物を選ぶように。 予算を使い切らない限り店から出ないでね。 じゃ、俺は外で待ってるから終わったら声掛けて」
そう言って俺はそそくさと店を出ようとする。
多少強引に行かないとステラ辺りは遠慮して絶対になにも買わないだろう。
そう思っての行動だったのだが——
「ま、待ってください!」
案の定と言うか、コートの裾をがっつり掴まれてしまった。
「待ちません!」
「ダ、ダメです! そんな事してもらう理由がありません! ただでさえ今回は依頼に付き合わせるような事をしているのに——」
「えぇい! うるさい!」
ホント人の厚意に甘える事を知らない子だ。
俺は目一杯加減したデコピンをステラにお見舞いする。
「あぅ! 痛いです……」
涙目でおでこを抑えるステラ。
うん、かわい——じゃなくて……
「いいから、ステラも少しはリサを見習って人の厚意を受け取りなさい」
「好意の間違いじゃ無いのか?」
「ちょっと何言ってるか分からないけど黙ってろ」
クロがニヤニヤしながら訳の分からない事を言いやがる。
ホント何言ってんだろうなぁ……
そんなやりとりの最中もリサは店の中をキョロキョロしながら色々と手に取っている。
最初は警戒されてたが、すっかり警戒心も解けたようだ。
……アレ? これ見方によっては幼い子を物で釣ってる感じ?
「ロリコ——」
「ふん!!」
「グヘッ!!」
肩の上でシャレにならない事をぬかそうとしたクロを床に叩きつけ逃げられないよう踏みつける。
「クロ……お前は俺を犯罪者にしたいのか?」
「ま、待て! 中身が……綿が出る……」
さっき魔力で身体を作り変えたとか言って無かったか?
なのに中身は綿とかホント得体のしれない奴だな……
「おや? これはこれは、ミナトさんとステラさんじゃないですか」
そう声をかけられ振り返る。
そこにいたのは見覚えのある男、確か商人のキースだったはずだ。
当然、ステラもキースに気がつく。
「こんにちはキースさん」
「珍しいですな、ステラさんが街までいらっしゃるなんて…… なにかありましたか?」
「はい、実は——」
ステラは自身の事、村であった事を簡単に話す。
なにも正直に言わなくてもいい気がするのだが、まぁそういう性分なのだろう。
「そんな事があったのですか…… さぞお辛かったでしょうに、気づいて差し上げられず申し訳ない」
キースが謝る理由など何処にも無いのに、深々と頭を下げる。
ステラも同じ事を思ったのだろう、キースが頭を下げた事に慌て、恐縮している。
「しかし、そうと分かれば私も決心がつきました。 もうあの村と取引するのはやめる事にします」
聞けば、元々ソーンでの商売は諸々の費用、リスクに見合うだけの利益が出ないそうだ。
その上、村の連中はキースに対して傲慢で態度も悪い。
唯一、キースに対して感謝してくれていたステラが居なくなり、気がかりは無くなったのだ。
あの連中が気の毒と言えば気の毒……でもないな、うん。
因果応報としか言えない結果だろ。
「それより、本日はなにをお探しですか?」
「ああ、この二人の服が欲しくてな」
そう言うとキースはいい笑顔を浮かべつつ、近くにいた従業員にステラとリサの洋服を見繕うよう指示を出した。
指示を受けた従業員達は2人を連れ店の奥へと消えていく。
「ミナトさん、私が言うのもおかしな話ですが、ステラさんを助けて頂きありがとうございます。 以前から彼女の境遇が不憫でならなかった私としては胸のつかえが取れた気分ですよ、今日は勉強させていただきますよ」
「そんなんで商売になるのか? そう言えばこのコートだって実際は相当な値打ちものなんだろ?」
ガーブに言われた事を思い出す。
「こりゃあ大した外套だな、能力の殆どが封じられちまってるが、解放すりゃそうそう代わりを探す必要がないぞ」
そう言ったガーブの手によって現在は殆どの能力を解放された状態になっている。
「うーむ……どうやらそのようですね。 まぁ本来の価値を見抜けなかった私の未熟さが招いた結果です」
どうやらキースもこの
なんだがちょっと申し訳ない気持ちになるが、キースは気にしなくて良いと言ってくれたのでありがたく使わせてもらおう。
その後、二人を待つ間に色々な話を聞いた。
キースは王都に本店を持つ
各地に支店を置いており、この店もその一つらしい。
この時期は各地を回っているらしく、この町を最後に王都へ戻るそうだ。
「ミナトさんは今後どうされるんですか?」
「当面は冒険者として日銭を稼ぎつつ、元の世界に戻る方法を探してみるつもりだよ」
当ては無いが、それでも探すしかない。
現状を受け入れて、この世界で生きる事を決めるにはまだ早すぎるだろ。
「あのお二人はどうするんです? ステラさんもそうですが、あの少女もお話を聞く限り、両親を亡くされているのでしょう?」
リサが今後どうするのかは分からない。
だが、勢いだろうが成り行きだろうが、俺は自ら首を突っ込んだ。
なら、最後まで面倒を見るのが筋ってもんだ。
だからリサが安心して生活出来る環境を見つけるまでは一緒に行動するつもりだ。
だが、ステラはもう分別がつく大人と言っていい。
マーリンの依頼が終われば、その報酬で彼女は自立出来るだろう。
その時、彼女自身で自らの道を探せばいい。
ステラと別れるのが寂しくないと言えば嘘になる。
だが、やはり彼女の今後は彼女が自分で決めるべきだ。
それにわざわざ危険を伴うであろう俺の旅に付き合う必要はない。
「そうだ、この店で雇ってやれないか? まぁ決めるのは本人だが、あの性格だから自分から言い出すとは思えないしな」
俺の言葉にキースは腕を組み「ふーむ……」となにやら考えている。
二つ返事で了承してくれる気がしたのだが、やはり商売の事となれば甘くないのかも知れない。
「分かりました。 ステラさんなら私も安心です、ですがひとつだけ条件があります」
「条件?」
「もし彼女がミナトさんと旅に出たいと言ったら受け入れてあげて下さい」
「は? なんだそれ?」
何故そんな話になるのか分からないが、キースは至って真面目な顔をしている。
「……わかった」
「では契約成立ですね」
キースはそう言って笑顔を浮かべた。
口約束の契約だが、まぁ違える事は無いだろう。
そんな事を話しているうちにどうやら二人のコーディネートが終わったようだ。
結構な量だったのでとりあえずアイテムボックスに突っ込んでおく。
予算オーバーしてる気がするのだが、キースは必要無いと言って最初に渡した以上は受け取らなかった。
ついでに今後の為に、先日売ったリンゴもどきとなんちゃらの霊薬を追加で買い取って貰う。
宿代がどれだけかかるか分からないが、先立つものはいくらあっても困らない。
「では、皆さん頑張って下さい。 私は明日には町を出ますが、またお会い出来る事を楽しみにしていますよ」
俺たちはキースに感謝しつつ、依頼に向け英気を養うべく宿へと向かった。
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