第20話 ホント聖光教会ってなんなの!
獣人少女改めてリサの名前も決まり、ステラが登録に必要な情報を書き、マーリンに提出する。
「えーっと……年齢は10歳でスクルド近郊の森在住—— うん、いいわ。 最後に適正を調べれば終わりよ、この水晶に手をかざしてちょうだい」
マーリンの手元には先程砕けたはずの水晶があった。
まぁ別の物なんだろうが、複数あったようで何よりだ。
リサは言われた通り水晶に手をかざす。
すると真っ白に光を放つ。
まるで白色灯のような強い光だ。
「聖属性ね……ミナト、貴方見る目があるのかないのか微妙よ?」
「は? なんだそれ?」
思わずどっちだよ! とツッコミたくなる衝動を抑え訪ねる。
「聖属性はいわゆるヒーラーよ、他にも光属性以外で唯一浄化魔法が使えるわ。 今回の依頼にぴったりね、まぁ浄化魔法が使えるようになればね」
「使える」
「あら、貴女その歳で既に浄化魔法を習得しているの?」
「はい」
「それは大したものだわ……これでミナトの人を見る目がある方に傾いたわ」
マーリンが驚きの表情を浮かべている。
それに話の内容から察するにどうやらリサは今回の依頼の特攻キャラのようだ。
「それはラッキーだな、クロを盾にしてリサにゾンビを、ステラにオバケを倒してもらえばオッケーって事だな」
「待て! なんで我が盾なのだ? 盾役は貴様だろう、そもそもこの貧弱な身体では戦闘など出来ん、せいぜいが貴様に力を貸す程度だ」
っち、身体を手に入れても役に立たずの煩いだけとか最悪だな。
「何を考えているか筒抜けだからな」
「別に隠す気無いからな!」
モモンガと睨み合う図……
シュール過ぎるな……
「はいはい、漫才なら後にしてちょうだい。 ちなみに見る目が無い方は気にならないの?」
「ん? どういう意味だ?」
「はぁ……貴方も気がついてると思うけど、この世界—— 正確にはセレニア王国では獣人は差別されてるわ。 それもこれも全ては聖光教会が原因でね」
ま・た・か!
ホント聖光教会ってなんなの!
いい話一つも聞かないんだけど!
「聖光教会は唯一神であるセレニアを信仰しているっていうのは知ってるわね?」
俺は無言で頷く。
それと獣人差別になんの関係があるんだ。
「聖光教会では獣人は魔族の血を引く忌むべき種族だと教えているわ。 その結果、信心深い教徒達は獣人を忌み嫌っているの」
「聞いてるだけで胸糞悪い話だな、その話が仮に事実でも獣人全てを差別していい理由にはならないだろ」
確かに俺はこの世界の獣人をほとんど知らない。
実際、人間と対立しているのかも知れないが、少なくともリサの様にそういった様子が見られない者だっているはずだ。
「ええ、なんの根拠もない話よ。 でも聖光教会がそう教えを説いてる以上、信者にとっては真実なのよ」
「ああそうかい、俺には関係ない話だな。 そもそもその話をリサの前でする必要があるか?」
リサ本人も自分が差別されている事は理解しているのだろう。
だから最初あれほど怖がっていたんだ。
きっと今までもツライ思いをしたてきたんだろう。
だからそんな話をリサに改めて突きつける必要があるのかと俺はマーリンに怒りを覚える。
「待ちなさい、ここからが大切なのよ。 その聖光教会で獣人とは逆に尊敬される存在が勇者以外にいるの、ここまで言えばわかるかしら?」
「まさか、聖属性持ちか?」
むしろそれしか考えられない。
だとすればここまでの話の意味が理解出来る。
「そう、聖属性を持つ者はセレニアに格別の加護を受けた存在としているの。 そうなると彼女の存在は教会から見たらどう写るかしら?」
「矛盾した存在、都合が悪いって事だろ」
はいはい理解出来ますよ。
要は俺の光属性と同じだ。
教会にしてみれば無茶苦茶邪魔な存在だろうよ。
何しろ教義を真っ向から否定する存在だ。
どうやら俺はとことん教会と相性が悪いらしい。
「理解出来たならよかったわ、とりあえず彼女のギルドカードも貴方達と同じ制限をかけてるから、多少はマシでしょうけど、マシなだけだから気をつけなさい」
「助かるよ」
とにかく今は自分に出来ることをするだけだな。
♦︎
ギルドを出た俺たちはマーリンに教えられた武具屋を訪れた。
ショーウィンドウには高そうな鎧や剣などが飾られている。
看板も出ているが、お察し通り読めません!
いちいちステラに聞くのも悪いので気にせず中に入る事にした。
当然だが店の中は多種多様な武器や防具が所狭しと飾られている。
俺たちは以外にも数人の客らしき人も見受けられる。
「いらっしゃいませ! ん? ひょっとして君たちマーリン様の紹介の?」
そう声を掛けてきたのは若い男だった。
作業着のような服装から想像するにこの店の人間のようだ。
「ああ、マーリンにここで必要なものを見繕ってもらえって言われたんだ」
「やっぱりか! うんうん、ちょっと待ってて今親方読んでくるよ!」
そう言って男が店の奥に消えていった。
「すごいですね、私こういうお店入ったので初めてです」
ステラは目を輝かせて店の中をキョロキョロしている。
だが、飾られているのは主に武器や防具だ。
若い女の子が目を輝かせるような物でもない気がするが……
まぁ嬉しそうだしいいか、とりあえず今度洋服屋でも探して連れていこう。
と言うか——
俺は改めてステラの格好を眺める。
質素なワンピースに、履きつぶされたなにかの皮で出来た靴、アクセサリーの類は皆無。
リサに至っては袖口がほつれ、何度も当て布をした服だ。
うん、ここが終わったら速攻で服屋を探そう。
「おう、お前さんらがマーリンの見込んだ冒険者か!」
店中に響く声に思わず視線を向けるとそこには筋骨隆々の男が腕を組んでこちらを見ていた。
スキンヘッドのガタイのいいオッサンだ。
まさに鍛冶屋って感じだな。
「話は聞いてる、俺の名前はガーブ、責任を持ってお前さんらの装備を用意してやるから安心してくれ!」
それにしてもいちいち声がデカい。
「そっちの嬢ちゃんがステラで、狐っ子がリサ、んでお前さんがミナトだな?」
「ああ、新米冒険者だがよろしく頼む」
「よろしくお願いします!」
「……お願い、します」
ガーブの存在感にステラは若干緊張気味、リサは多分怖がってるぞ。
「がっはっは! 新米冒険者ねぇ? そっちの嬢ちゃん方はそうだが、お前さんは新米というには随分な腕前みたいだがな?」
「ん? 何でそう思う?」
「長年の経験だよ、どれお前さん希望のエモノはあるか?」
エモノ……武器の事か。
正直、剣とか槍はあんまり好きじゃない。
親父に仕込まれたから使えない訳じゃないが、できれば慣れたモノがいい。
となると……
「武器は特にないな、徒手空拳って言えばわかるか?」
「ほう、珍しいな、ならいいもんがある。 防具はその上等な外套を生かせる物を用意してやろう。 そっちの嬢ちゃん達は——」
そんな感じでガーブがそれぞれに合う武具を用意してくれた。
「こんなもんでいいだろ。 使い方は説明した通りだ、もし使ってて不都合が出たらすぐに持って来い、治すなり新しいモン用意してやるよ。 まぁ次からは金を貰うがな!」
ガッハッハと豪快に笑い飛ばす。
「随分と良い装備みたいだし、次は無いかも知れないけどな」
「ほ、本当に良いんでしょうか? なんか素人の私でもすっごい上等なものな気がするんですけど……」
「すごい杖……な、気がする……」
そう、ガーブが用意してくれた装備は素人の俺たちですら分かる程に良いものだった。
「なぁに、お前さん方ならすぐに自分達で稼げるだろうよ! とにかくマーリンの依頼頑張んな!」
ガーブの激励に感謝しつつ、俺たちは武具屋を後にした。
♦︎
「親方、良いんですか?」
「あん? なにがだ?」
「彼らに渡した装備ですよ、どれもこれも普段は買いたいって言われても断ってた物ばかりじゃないですか」
弟子の言葉に俺はあいつらが出ていった扉に目をやる。
マーリンに話を聞いて半信半疑だったが、アイツを見てすぐに本当だと理解した。
顔が似てるとかそう言う問題じゃねぇ。
雰囲気がヤツそっくりだ。
生意気で自信家、だが真っ直ぐな眼で世界を見てたヤツに……
「っへ、間違いねぇよ。 むしろあいつら以外に渡せる奴なんざいやしねぇ」
「でもあれ全部で屋敷が何軒建つんですか? マーリン様とは言え、金額を聞いたら流石にヤバイんじゃ……」
「んな話は良いからとっとと作業に戻りやがれ!」
まったく、金なんか貰える訳ねぇだろ。
ヤツらに受けた恩を僅かばかし返しただけなんだからよ……
おめぇが死んだなんて俺は信じねぇからな、カイト——
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