第15話 出来んのかよ!

 勇者?

 え? 誰が?


「問題は今この時代には既に勇者が存在してるって事なの、知っているかしら? 聖光教会の勇者の話」


 俺の疑問などお構い無しにマーリンは話を進める。


「教会の権力の象徴—— それが勇者よ。 なのに貴方もまた勇者の適正を持っているわ、これがどれだけの事か多分今の貴方には想像もつかないでしょうね」


 この世界には三つのデカい組織が存在する。


 一つはセレニア王家が治めるセレニア王国。

 一つはここ、冒険者ギルド。

 そしてもう一つが主神セレーナを崇拝する聖光教会。


 それぞれがそれぞれで力を持ち、権力のバランスを取っている。

 聖光教会にとって勇者は重要な力の一つなのは間違いない。


 と、いう事はだ……


「教会にバレたらやばく無い?」


「ええ、相当面倒な事になるわね」


「最悪じゃん!!」


 ステラの話で教会の存在を聞いた時点で絶対に関わらないと決めたはずなのに、目をつけられる理由が出来てしまった。


「私たちから情報が漏れる心配はしなくていいわ、問題はさっきギルドに居た者達から教会に情報が行かないことを祈るしか無いって事かしら? 一応口止めするよう職員に命じたけどあんまり期待しない方がいいわよ」


 ホントに最悪だな……


「まぁ考えても仕方ないわ、とにかく二人とも登録だけ済ませましょ? そっちの子、まだ適正を調べてないわね?」


 マーリンはそう言って、先ほどと同じ水晶をテーブルに置き、ステラに手をかざすよう促す。

 ステラは少し躊躇ったが、すぐに促された通り水晶に手をかざした。

 するとすぐに水晶に変化が起きる。

 俺の時は虹色に光った水晶が、紫色に染まった。


 それを見たマーリンは額に手をやり、盛大なため息を吐きつつ口を開く。


「そっちの子は闇属性持ち? 珍しいを通り越して、めんどくさくなってきたわよ?」


「はぁ? なんだよそれ?」


「ご、ごめんなさい……」


 ステラは俯き縮こまってしまった。


「別に謝る事は無いわ、例え貴方が闇属性の使い手だとしてもギルドは拒んだりしないわ」


「なんだよ? 闇属性ってのはそんなに珍しいのか?」


「別に闇属性自体は珍しくないわ、人間の闇属性持ちが珍しいってだけ、普通は魔族が持つ属性よ? まぁ彼女自身それは自覚してたみたいだけどね?」


 なるほど、ステラが力を隠していたのはそう言った理由もあったのか。


「嫌われたりするのか?」


「そうね、正直パーティーを組みたがる人は極小数でしょうね、使う魔法にもよると思うけど……」


 うーん……

 多分、死霊魔術って言ったらダメなヤツだコレーー


 そう思って口を噤んだ俺だったが、意外にもステラは自ら自分の能力をマーリンに告げた。


「今のところ死霊魔術しか使えません……」


「貴女死霊魔術師ネクロマンサーなの? それじゃあ尚更パーティーは厳しいわね」


「なんだよ、そんなに嫌がられるのか?」


 ステラから色々聞いてはいるが、そこまで嫌われるものなのかと疑問に思った俺は、思わずマーリンにそんな事を聞いていた。


「そうね『死』に近いって思われてるのよ、何より聖光教会は信者に死霊魔術を禁じてるってのが一番の原因よ」


 あー……

 もうね、なんか俺多分近いうちに教会の連中と揉めるわ。

 なんか因縁を感じるもん。


「まぁ貴女の場合そんなに深刻にならなくても良いんじゃない?」


「え??」


 マーリンの言葉にステラが顔を上げ、不思議そうな表情を浮かべる。


「だって貴方達二人でパーティー組むんでしょ? 勇者と死霊魔術師のパーティーなんて普通は絶対ありえないけど、ちょうど良い仕事があるわ」


 そう言ってマーリンが一枚の羊皮紙を手渡してきた。

 俺は渡された羊皮紙に目もくれず、そのままステラに回す。

 文字が読めないので必然です。


「町外れの今は使われていない教会にアンデットとゴーストが住み着いてるのよ、それをなんとかして欲しいの、私からの指名依頼って事で報酬も弾むわ、それに解決してくれたらギルドから特別な便宜も図って上げるわよ?」


「え? ゴースト? 無理ヤダお断り」


 そんな依頼、検討の余地すらない。

 うん、絶対無理。


「あら? 即答で拒否? 貴方達にとってもメリットは大きいわよ?」


 マーリンはそう言って、二枚のカードをチラつかせた。


「ギルドは登録者の情報を偽れない。 それは絶対のルールよ。 そして登録者に渡されるギルドカードにはその者の適正や職業なんかが記載される、貴方の場合、適正は光で職業は勇者になるわね」


 なにそれ、最悪じゃん。

 そんなカード持って歩くとか教会に目つけて下さいって言って回るのと同じじゃない?


 そんな考えが表情に出ていたのか、マーリンが意地の悪い笑みを浮かべ、更に手にしたカードを強調する」


「でも、この依頼を解決してくれたら貴方のその悩みを解決してあげられる」


「なに?」


「さっきも言ったけど、ギルドカードに偽りの情報は記載出来ない、けどギルドが必要と判断した場合ギルドマスター権限でその情報を非表示にする事はできるわ」


 要するに「お願いを聞いてくれたら適正と職業を見えない様にしてあげる」って事か……


「そっちの彼女も適正とか職業が非表示なら色々便利よねぇ?」


 き、汚ねぇ……

 コイツステラまで巻き込んで完全にこっちの弱みにつけ込んできやがった。


「良い性格してやがるなアンタ」


「初対面の女性に年齢を聞く男に遠慮なんかしないわよ」


 腹立つ笑顔浮かべやがって……


 つかまだ根に持ってたのかよ……


「さ、どうする? やるの?やってくれるの?」


 やるの? も やってくれるの? も同じ事だろ!

 クッソ、腹立つからいっそ断ってやりたいが、それをすると間違いなく後々面倒になる確率が上がる、色々と。


 なによりステラの事も考えれば、結局答えは一つしかない……


「……やるにしたって、俺はお化けなんか倒せねぇぞ? 実態の無い奴は俺にはお手上げだ」


「それなら平気よ、そっちの彼女はそもそも魂を扱う能力よ? アンデットは貴方が倒せば問題ないわ」


 アンデットってゾンビだろ?

 ドラ○エで言うところの腐っ○死体だ。


 ……触りたくねぇぇ!


「それで? そっちの可愛らしいのはどうするの?」


「え?」

「む?」


 マーリンの視線は明らかに俺の肩に乗るクロを見つめている。


「使い魔じゃ無いわよね? 精霊でも無いし、いったい何者かしら?」


「あー……コイツはーー」

「魔王だ」

「捻り潰すぞテメェ!!」


 どうしてコイツは安易にそう言う事を口にするんだ!

 ただでさえ面倒な生物(?)なのに毎度毎度魔王を自称しやがって——


「あら、面白い冗談—— でもないのかしら? まぁいいわ、貴方も登録するの?」


「うむ、そうして貰おう」


「出来る訳ねぇだろ」

「分かったわ、なら申し込み用紙に必要事項を記入して」


「出来んのかよ!」


「出来るわよ? ギルドは種族で差別したりしないもの」


 いや、種族って問題か?

 そもそも生物かも怪しいだろ。


 そんな俺の考えを他所に、クロはステラに頼んで用紙に必要事項とやらを記入し、マーリンに手渡した。


「名前は、クロで良いのかしら?」


「うむ、今は記憶を失っておる故、甚だ不本意だがそう名乗っている」


「記憶を失ってって、それはミナトの中に魂が封じられている事と関係あるのかしら?」


「なに? アンタわかんのか?」


 クロの魂が俺に取り憑いている事は一切話していない。

 ましてや、今はステラのおかげでぬいぐるみに意識が移っているのだ。


「これでも一応ギルドマスターよ? それぐらい分かるわよ、彼女の力で魂を形代に憑依させてるのでしょ?」


 お見通しって事か……

 やっぱり怖い女だ。


「それも含めてなにも覚えておらん、ただ一つ言えるのはこの世界は元々我がいた世界であろう事と、我が魔王である事だけだ」


「魔王ねぇ……」


 クロの冗談の様な話をマーリンはなぜか真剣な表情で聞いている。

 むしろ、ここまでで一番真剣な表情に見えた。


「まぁいいわ、じゃあ貴方も適正検査を受けてちょうだい」


 マーリンはそう言うと表情を崩し、先ほどまでの余裕のある表情に戻る。

 その表情からはクロの話をどこまで信じたのか伺い知る事は出来なかった。


「ふむ、それは構わんが、そんな玩具では我の魔力に耐えられんぞ?」


 そう言ってクロが水晶に手をかざすと、一瞬で水晶は赤黒い強烈な光を放ち、そして、『パキンッ』とガラスが割れる様な音と共に砕け散った。

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