第14話 それなんてラノベ?

「ま、俺はそんな感じだけどステラはギルドに行くんだっけ?」


 ギルドに登録して簡単な仕事をするって言ってたが、実際どうなんだろう?

 生活していけるだけの収入は得られるものなのだろうか?


「そうですね、雇ってくれる仕事を探しながら日々の生活費を稼ぐって感じになると思います」


 ふむ、日払いバイトをしながら就職活動ってイメージか。

 でもそれって大変なんじゃなかろうか……


 まぁそれは俺も同じか……

 考えたくはないが、もし元の世界に帰れなければ俺だっていずれは仕事をしなきゃならん訳で……


「……俺も連れてってもらっていいか?」


 俺はステラに連れられ、先にギルドへ向かう事にした。


 ♦︎


 冒険者ギルド——


 主に魔物討伐や護衛、素材採取など、様々な依頼を一手に取りまとめる仲介業者の様なイメージ。

 冒険者は依頼をこなして収入を得て、ギルドは手数料を頂く。

 依頼主は金で問題を解決出来る。


 依頼内容の多くは荒ごとなイメージが強く、ギルドと言えば臭い・汚い・危ない、そんな所だと思っていたのだが……


「いらっしゃいませ! 初めての方ですね?」


 実際はそんな事なかった。

 建物は石造りで外観も綺麗、中も清潔感がある。

 酒場も併設されている様だが、思っていたほど騒がしくはない。


「登録をお願いしたいのですが」


 俺が入り口付近でギルド内をキョロキョロしている間に、ステラが受付嬢と話を始めてしまった。

 俺も慌ててステラのいるカウンターに向かう。


 唯一イメージ通りの受付嬢が俺にも営業スマイルを浮かべる。

 長い黒髪を後ろで纏めた美人受付嬢に俺も愛想笑いを返す。


「登録はお二人でよろしいですか?」


「は——」

「我もいるぞ」


 ステラが返事をしようとした瞬間、俺の肩に乗っていたクロが口を開いた。


「あ、すみません、無視して下さい」

「なっ! ミナト貴様、我を仲間外れにするつもりか!」


 なんだよ仲間外れって、そもそも見た目は小動物なんだから登録なんか出来る訳ないだろ。

 俺は素早くクロの頭を掴み、その口を覆った。


「えーっと……」


「ホントすみませんね、気にしないで下さい」


「は、はあ……」


 まだモガモガなにか言っているが無視だ。


 不思議そうな顔をしながらも受付嬢が冒険者のライセンス登録について説明してくれた。

 登録は無料で誰でも登録出来るが、犯罪者はその限りではない。

 ギルド登録後に犯罪を犯した者はライセンスの剥奪となり、以降のライセンス取得は例外を除いて不可となる。

 詳しい決まりは、登録後に渡される冊子を熟読するよう言われた。

 一応、字が読めない人向けの講習も定期的に開いているらしいが、次の講習は3日後だそうだ。


「とりあえず、悪い事をしなければ大丈夫ですよ」


 ……すっごい雑な説明だった。

 とりあえず3日後って事は頭に入れておく。


「では、こちらの用紙に必要事項を記入して下さい」


 用紙を渡されるが、もちろん俺には読めない書けない。

 ここでもステラの世話になる事となってしまった。

 ステラはサラサラと2枚の用紙に記入すると受付嬢に用紙を手渡す。

 渡された用紙に目を通しながら受付嬢が一瞬だけ驚きの表情を浮かべる。


「なるほど、ヒュウガ様は迷い人でいらっしゃいましたか」


「ああ……胡散臭いのは重々承知しているが、本当のことだ」


 俺が逆の立場だったら到底信じられない。


「あ、疑っているとかそういう事では無いんです。 すみません」


 受付嬢はそう言って小さく頭を下げた。

 うーん……本当にこの世界の人はこんな荒唐無稽な話をあっさり受け入れるんだな。


「では、最後にお二人の魔術適正をお調べします。 こちらに手をかざして下さい」


 そう言ってカウンターに置かれたのは占い師が使いそうな水晶玉だった。

 この水晶玉を使って適正を調べると言っているが、なにがどうなるのだろうか?


「その方の適正が色で判別出来ます。 例えば赤であれば火、青であれば水といった具合ですね。 色が強く大きく出ればそれだけ適正が高いと言えます。 複数の適正があれば複数の色が出ます」


 なるほど……出なかったら適正無しって事?

 ヤバイ……妙に緊張するな……


「適正は誰でもある訳ではありませんので安心して下さい。 むしろない事の方が多いですよ」


 どうやら顔に出ていたらしい。

 若干気恥ずかしいが、それなら安心だ。

 気持ちが軽くなり、俺は水晶玉に手をかざした。

 するとすぐに水晶玉が淡く光を放ち、虹色の光が溢れ出す。


 ん? 虹色って何属性よ?


「「え!!」」

「え?」


 俺がそんな事を考えていると水晶玉を見ていたステラと受付嬢の二人がびっくりするほど大きい声を上げた。

 見れば、他の受付嬢やギルドの職員達も口を開け固まっている。

 そんな状況に何事かと様子を見に来たギルド内の冒険者達も俺の手元の水晶玉を見て言葉を失ったり、驚きの声を上げるなど、何故かギルド内が騒然となってしまった。


「え? 何? そんなに驚きの結果なの?」

「しょ、少々お待ち下さい!」


 受付嬢はそう叫ぶと、血相を変え、なんの説明も無く椅子から立ち上がった。

 そんな受付嬢の肩に1人の女性が手を置いた。


「はいはい、ちょっと落ち着きなさい」


「え? あ、ギルマス! こ、こちらのヒュウガ様が!」

「はいはい見ればわかるわ。 後は私に任せなさい」


 ギルマス? それってギルドマスターって事だよな? そんな偉い人が出張ってくる程の事になってるのか?


「えーっと? ヒュウガさんって言ったわね? ここじゃ落ち着かないから場所を移しましょう? お二人共ついて来て」


「え? ああ、分かった」


 ギルマスと呼ばれた女性について行くと、立派な部屋に通された。

 綺麗に整頓された部屋で、パッと見の印象は応接室といった感じだが、部屋の一角に置かれた大きなデスクから考えて、この人の部屋なのだろう。


「どうぞ掛けて?」


 促されるまま俺は部屋に置かれたソファーに腰掛ける。

 ステラも表情を強張らせたまま俺の隣に腰を下ろす。


 ギルマスと呼ばれた女性も向いのソファーに腰を下ろすと柔和な笑みを浮かべた。

 長い黒髪に、切れ長の目、瞳は綺麗なブルーで何より目を引いたのがチョンと尖った耳だ。


「自己紹介が遅くなったけど、私はエルフ族のマーリン、一応スクルドの町のギルドマスターを務めさせてもらっているわ」


 やっぱりエルフか!

 エルフって金髪なイメージだが、黒髪も悪くないとか勝手な感想が湧いて出るが、何より気になったのは——


「……何歳?」

「ん??」

「すみません、なんでもありません」


 綺麗な顔に青筋が浮かんだ気がした。

 うっかり口に出していたようだ。


「よかったわ、礼儀から教えなきゃいけないかと思ったわよ?」


 危ねぇ……勘だがこの女間違いなくヤバいタイプだ。

 笑顔で殴ってくる親父と同じ匂いがする。

 ここは話題を変えた方が良さそうだ。


「あーっと……俺達をここに呼んだ理由を聞かせてくれないか? あそこじゃマズイからここに呼んだんだろ?」


「うーん……そうね。 貴方も大方察しはついていると思うけど、貴方の適正テストの結果が問題なのよ」


 まぁそうだろうな。

 あれだけの人数が、あんなリアクションを取ったんだ。

 なにかあるのは理解している。

 問題はそのってのが、なんなのかって話な訳だ。


「貴方の適正は『光属性』と、言っても貴方にはピンと来ないわよね?」


 俺は無言で頷く。


「光属性は通常、同じ時代に複数人現れる事は無いの。 一つの時代にたった一人にのみ発現する属性よ」


「なんだそれ? まるで勇者みたいだな?」


 別によく考えて放った言葉では無かった。

 なんとなく、本当になんとなくゲームみたいな話だと思ったからそう言ったにすぎなかった。


 だが、マーリンは俺の言葉を否定しない。

 そして何故か横にいるステラが無言で大きく頷いている。


 この時点で俺の中にとんでもなく嫌な予感が駆け巡った。


「そう、その通りよ。 貴方の適正職は勇者——魔王を討つ人々の希望よ」


 ……それなんてラノベ?

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