第2章 ???
第13話 どんだけデタラメ生物なんだよ……
「お! あれか?」
丁度、太陽が真上を通り過ぎた頃、視界の先に捉えた影に俺は思わず声を上げた。
「はい、あれがスクルドの町です」
村を出て数時間、小高い丘の頂上からようやく目的地が見えてきた。
徐々に大きくなる町の影に俺の足は自然と早くなる。
近づくにつれ、その外観に俺は感動とも驚きともつかない息が溢れた。
延々と続く外壁が町を完全に囲んでいる。
恐らく魔物対策なのだろう、小説なんかでは良く聞く設定だが、現実のものとして見るとその迫力に圧倒された。
「あそこから町に入れますよ」
ステラが差す先には外壁に設けられた入り口らしき門あり、鎧を着た守衛らしき人影も見える。
「旅人か? 疲れているところを申し訳無いが、町に入る前にここにサインを貰えるか?」
そう言って、台帳の様なものと羽根のついたペンを差し出した。
特になにも考えずにペンを受け取り名前を書こうとした瞬間、台帳に記された他の名前を見て気がつく。
「……」
「ん? ひょっとして文字が書けないのか?」
はい、その通りです。
異世界の文字なんて知るわけがない。
「あ、では私が代わりに書きますね」
「そうか、なら代筆で構わないから頼む」
俺は無言でステラにペンをステラに渡す。
ペンを受け取ったステラはスラスラと名前を書きこんだ。
「ふむ、ステラと……ん? そっちの君は名字があるのか? なのに文字が書けないとは変わっているな」
なるほど、この世界で名字と言うのは誰でも持っている訳ではないのか。
まぁよくあるパターンだな。
だが、どう説明したものか……
「この方は迷い人です」
ステラはなんの躊躇いもなく本当の事を告げる。
おいおい、そんな簡単に言って良いのか?
俺なら到底信じられないが……
「なんと! それはさぞ大変だったろう、無事町にたどり着けて良かったな!」
あ、信じちゃうんだ!
それで良いのか、という疑問には目を瞑っておこう。
「ん? しかし言葉は通じるな?」
…………確かに。
なんで?
「あれ? そういえばそうですね? なんでですか?」
ステラさん、貴女がそれ聞いちゃいます?
「我が言語統一のスキルを与えてるからな」
「な! その動物は喋るのか!? 精霊様か?」
あ、嫌な予感——
「我はまお——」
「だあああああ!! そう! そうなんです! いやぁコイツのお陰で言葉だけは通じるんです!」
やっぱり言いやがったこのバカ!
誰も信じないだろうが、万が一にでも騒ぎになったら面倒だ。
「やはりそうか! 精霊様と契約しているとは、君は中々見どころがありそうだ! 君にその気が有れば是非我々騎士団に志願するといい! ああ、そう言えば名乗っていなかったな私はケビン、仕事に困ったらいつでも訪ねてくるといい」
そう言ってケビンは手を差し出してきた。
俺はその手を握り返し、愛想笑いを浮かべておく。
まぁ本当に食うに困ったら訪ねることにしよう。
そうならないよう、なんとかするつもりだがな。
「おっと済まない、時間を取らせたな。 不慣れな事も多いだろうが頑張ってくれ。 少ないがコレは私からの餞別だ、露店なら腹も満たせるだろう」
そう言ってケビンは銀色の硬貨を握らせてくれた。
俺の持つ金貨と比べると一回り小さい。
そういえばこの世界の貨幣価値を聞いてなかった。
後でステラに聞いてみよう。
そんな事を思いながら、俺はケビンに礼を言うと、遂に異世界初の町、スクルドへと足を踏み入れた。
♦︎
「——といった感じですね。 なのでヒュウガさんはしばらく生活に困る事は無いと思いますよ」
「……まじか」
ケビンに貰った銀貨を見つめながら俺は驚いていた。
町に入った俺たちはケビンの言葉もあってまずは食事を取る事にした。
町の中は大勢の人で賑わっており、メインストリートらしきところでは露店が立ち並んでいた。
物を売る者や、屋台で食事を提供する者などでかなりの賑わいを見せている。
そんな露店を眺めながら俺はステラにこの世界の貨幣価値を尋ねた。
まずケビンに貰った銀貨だが、正確には小銀貨と言うらしく、ざっくり千円くらいの価値がある。
コイツが十枚で銀貨になり、約一万円。
小銀貨は銅貨十枚分の価値なので銅貨は百円玉って事になる。
で、俺が今持っている金貨はと言うと——
「銀貨十枚分って事はコレ一枚で十万……この服は三十万円って事かよ……」
チュートリアルで随分と高価な装備が手に入ったものだ。
しかも薬草とリンゴを売って得たのは六百万円もの大金、更に言えばアイテムボックスにはまだ大量に残っている。
あれ?
俺この世界で結構良い暮らしできるんじゃない?
「平均的な宿なら金貨一枚あれば一月は生活出来ると思います」
なんかもうこの世界で暮らすのも悪くない気がしてきた。
「……ま、とりあえずメシにしよう」
とりあえず考えるのは後回しだ。
♦︎
なにを食べるか迷ったが、売っている物を直接見られる屋台で買うことにした。
あちこちからいい匂いが漂ってくるのだが、その中でも特に気になった店で足を止める。
こんがりと焼かれ、甘いタレの香りが食欲をそそる。
足を止め眺めていると、気を聞かせてくれたのかステラが説明してくれた。
「プヒプヒの串焼きですね。 柔らかくて栄養もありますよ」
プヒプヒと言うのがどんな動物なのか全く想像出来なかったが、俺はその凶悪な香りに惹かれ屋台の親父に声をかけた。
「なぁコレ1ついくらだ?」
「おう、一本銅貨5枚だ、食ってけよ! 一本で腹一杯になるぞ、もちろん味の方も自信ありだ」
という事は小銀貨一枚で2本買えるって事だな。
俺は小銀貨をオヤジに払い、串焼きを2本受け取る。
串一本が30センチ近い長さでそこに大胆に切り分けられた肉がいくつも刺さっている。
確かにこれなら一本でもかなりのボリュームがある。
「ありがとう、ついでと言っちゃなんだが、この町で風呂に入れる宿を知らないか?」
「風呂? この通りを真っ直ぐ行った先にある銀嶺荘にあるって聞いたな。 もっともこの町で一番上等な宿だ、高いぞ?」
ふむ、まぁ金の心配は多分問題ない。
とにかく今は猛烈に身体を洗い流したい。
連日歩き通しで身体中ベタベタなのだ。
俺はオヤジに礼を言って、屋台の横に置かれた長椅子に腰を下ろした。
「ほい、ステラの分」
串焼きをステラに差し出すと、ステラは遠慮したが、一人で食い切れないからと強引に手渡した。
「すみません」
「気にすんなよ、最初からそのつもりで買ったし、そもそも俺の金じゃないからな」
そう言って俺は串焼きにかぶりついた。
ゴロゴロとした大きめの肉なので歯応えがあると思ったのだが、予想以上に柔らかい。
味は豚肉に近いが、脂もくどくなく、控えめに言ってもかなり美味かった。
「ヒュウガさんはこれからどうするんですか?」
串焼きに舌鼓を打っていると唐突にステラがそんな事を聞いてきた。
俺は少し考えながら口の中を空にすると、その質問に答える。
「とりあえず、元の世界に帰る方法を探すかなぁ……」
そう答えたはいいが、ぶっちゃけ当てなど無い。
そもそもそんな方法があるかすら分からないが、このままのんびりこっちの世界で暮らす事を前提に考えるほど、元の世界に未練が無いわけじゃない。
「なんだ(モグモグ)ミナトはあっちの世界に(モグモグ)帰るつもりなのか」
「食うか喋るかどっちかにしろよ、つぅかなんでお前まで食ってるんだよ」
「むしろ(モグモグ)何故、我の分が無いのだ(ごっくん)ステラよ、もう一切れくれんか?」
「あ、はいどうぞ!」
「おいコラ、なにステラの分取ってんだ、つか最初のもステラの肉だろ。 俺のやるからステラの分を奪うなっての」
全くもって図々しい奴だ……
「でも不思議ですね、クロさんの身体って元々はぬいぐるみのはずなのに、随分と生き物らしくなってます。 ご飯も食べられますし……」
あー……ステラさん、言っちゃったよ。
うん、そうなんだよね。
なぜかクロの奴、完全に生き物化してるんだよ。
作り物感ゼロ。
気がつかないフリしてたが、やっぱりそうですよね。
「うむ、我の魔力で身体を作り替えた。 あのままではどうにもスカスカで気持ちが悪かったのでな」
どんだけデタラメ生物なんだよ……
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