第12話 ホント、これからどうなるの?
今なんと言っていましたかこの娘は……
魂を移す?
そんな事出来るのか?
イマイチ理解が追いつかない俺にステラは少し慌てて言葉を繋いだ。
「あ、いえ! 器を移すと言っても人とか動物でなくても平気です! 人形とかそういうものでも平気ですし、元に戻す事も出来ます」
いや、移す先の心配をしている訳じゃ無い。
なんなら戻してくれなくて結構なんだが、本当にそんな事が出来るのだろうか?
だが、出来るのであれば是非頼みたい。
別にクロの事が嫌いな訳では無いが、頭の中に住まわれているというのはどうにも落ち着かない。
ステラ曰く、空の器に魂を移す事で、喋ったり動いたり出来るようになるらしい。
俺はとりあえず辺りを見渡して手頃なものがないか探してみる。
「…………コレは?」
特に見当たらず、とりあえず足下にあった石ころを拾い上げた。
『ミナト貴様!』
「冗談だ」
クロの声はステラに聞こえないはずなのだが、今のやりとりは伝わったようで「あはは……それはちょっと……」と言われてしまった。
まぁ確かに石ころはちょっと可哀想だ。
だが、そんな都合よく人形などあるはずもない。
「——事もないか」
俺はアイテムボックスにからカバンを取り出した。
『まさかとは思うが、そのカバンとか言い出さんだろうな?』
そんな訳ないだろ。
カバンが喋ったり動いたりしたらホラーだ、それなら石ころの方がマシだ。
俺の目的はカバンの横につけられたキーホルダーだった。
掌サイズのぬいぐるみで、なんとかってアニメに出てくるマスコットキャラらしく、見た目はモモンガ……ムササビ?
よく分からんが数日前にユキが俺とタクのカバンに無理矢理つけたものだ。
男子高校生がデカいぬいぐるみのキーホルダーとかイタすぎるので速攻外したのだが、それに気がついたユキが烈火の如くブチ切れたので、仕方なくそのままつけていたのを思い出したのだ。
「これならどうだ?」
「わ、可愛いですね! それなら大丈夫だと思います!」
どうやら大丈夫らしい。
『むぅ……それはあのチビ助が寄越したものだったな……威厳のカケラも無いが、石ころよりはマシか』
クロも若干不満はあるものの、これ以上は期待出来ないと思ったのかとりあえず納得したようだ。
ステラにぬいぐるみを手渡すと、彼女は地面に魔法陣のようなものを描き、その上にぬいぐるみを置いた。
「では移しますね」
そう言って、ステラは目を閉じ、聞き取れない言葉を呟き始める。
『あの魔法……まさかあの娘は——』
クロの声が突然途切れる、
同時に、クロの存在が消えた事を認識した。
不思議なもので、消えた事で初めて確かにクロが自分の中に存在した事を理解する。
「……終わりました」
そう口にしたステラだが、その表情はどこか釈然としない。
まさか、失敗かとも思ったのだが——
「ふむ、大したものだな娘」
地面に置かれた人形が突然動き出し、喋り出した。
どうやら上手くいったようだ。
「うーん……やっぱりヘンです」
「え? 上手くいったんじゃないの?」
「失敗……なのか成功なのかわかりません……」
ステラが言うには、本当なら魂を完全にぬいぐるみに移すはずだったのだが、上手く行かなかったと言う。
だが、どういう訳かクロの魂とぬいぐるみにリンクが出来たらしく、意識だけはぬいぐるみに移った。
「……魂が分裂するとかデタラメ過ぎない?」
「魔王だからな」
魔王関係ねぇだろ。
ホント得体の知れないヤツだ。
だが、まぁ頭の中でゴチャゴチャうるさいよりはだいぶマシか。
「本当にごめんなさい!」
「謝る事はないぞ、こんな身体でも自分の意思で動けるというのは快適なものだ。 しかし、ふむ……娘、貴様は
クロの言葉にステラの表情が強張る。
それに死霊魔術師ってなんか聞いた事はあるけど、アレか?
「……はい、父にそう言われました。 だからあまり他人に知られてはいけないと教えられました」
「?? よく分からんけど、知られちゃダメなのか?」
死者の魂と意思疎通を図ったり、死者の肉体に擬似的な魂を与え、操る事が出来る。
高位の者ともなれば一時的に死者を蘇らせる事も出来るそうだ。
だが、『死』というものに深く関わる魔術である為、『死』を極端に遠ざけ、恐る人間にとっては非常に異端であり忌み嫌われるのだと言う。
また、死者の肉体を操ると言うのも死者への冒涜と言われるそうだ。
「うーん……まぁ、確かに話だけ聞くとアレだけど——」
「ッッ!!」
ブワッとステラの目に涙が浮かぶ。
待て! 違う! 俺の言いたい事は終わってない!
「ちがッ! ちょ、待って! 俺が言いたいのは『確かに話だけ聞くとアレだけど、ステラはステラでいい子だし、気にしなくていいんじゃね?』って事で!」
「ぐすっ……いいんです、私自身、怖い魔法だと思ってますし……」
「あーあ、泣かせおった」
あーあ、じゃねぇ! ちょっとはフォローとかないの?!
「気にするでない娘、ミナトと一緒におれば、貴様の魔法も可愛いものだ」
「?? なんでそうなる?」
なんだか唐突に嫌な予感がする。
今回も俺の知らないところで何かとんでもない事をさせているんじゃ——
そんな予感が頭をよぎった瞬間、先ほど言われた村の連中の言葉が脳裏に甦った。
禍々しき黒き炎——
人の皮を被った悪魔——
俺の脅し文句に腰を抜かし狼狽する村人たち——
そしてステラが言っていた黒炎の魔王という名の存在——
「……おい、まさか——」
「ようやく気がついたか、そうだ、黒き炎は魔王の炎だ。 当然だが、人間から見れば——」
「テメェいい加減にしろコラァ! 重要な事を毎回毎回後出ししやがって!」
ホント、これからどうなるんだ……
鼻をすするステラとアホな自称魔王の二人に、俺は頭を抱えて叫びたくなった。
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