第9話 んじゃ、行くぜ?
「ねぇ、お腹空いたんだけど!」
「…………」
返事がない、ただの扉のようだ。
「クソ、無視かよ」
無論、本当に扉に向かって声をかけた訳ではない。
返事は無いが、扉の向こうには確かに人の気配がある。
ステラが連れて行かれた後、すぐに一人の男がやってきた。
村長と一緒にいた舌打ち野郎だ。
男は俺の姿を見て開口一番、こんな事を告げた。
「明日まで家から出るな」
そう言って返事も聞かず、扉を閉めると外から
しかもご丁寧に監視付きときたもんだ。
まぁ、その気になれば窓から出る事も可能だし、最悪、扉を破っても良いのだが、騒ぎになるのも面倒である。
何より後々ステラの立場が悪くなっても申し訳ないので大人しくしている訳だが……
「あー腹減った……」
仕方なく俺はアイテムボックスからアピの実を取り出すとかぶりついた。
『ミナトよ、流石に妙だとは思わんか?』
ちょうど食べ終えるタイミングでクロがそんな事を聞いてきた。
なにが? と聞くまでも無い。
(まぁ確かにな、でもこの世界の事はわかんねぇし、こういうモンだと思うしかなくない?)
『うーむ……』
クロは何か気になる事でもあるのか、何処か歯切れが悪い。
(なんだよ、なんかあるなら言えよ)
『いや、気にしすぎかも知れん……今は様子を見るしかなかろう』
どうやら答える気は無いらしい。
なんかこの村に来てからどいつもこいつも、勿体ぶった感じで若干イラッとする。
『憶測だけで動くのは愚者のする事だ。 感情だけで動くのもな』
あーあーそうですか、どうせ俺は愚か者ですよ。
外は既に日も落ち暗くなっている。
一応、テーブルに置かれたロウソクに火をつける事は出来たので、真っ暗にはならないが、それでもやはりロウソクの火だけでは薄暗く、なにかする気にはならない。
おかげでひたすらボーッとするしかなく、退屈で仕方ない。
「あ、そうだ」
キースから貰った服、あれを着てみる事にした。
包みを解き、服を広げてみる。
一枚は黒い革パンだった。滑らかな触り心地で表面には光沢がある。
そしてもうもう一枚は黒いコートだ。
ベルトが付いており、シルバーのアクセントも施されている。
なんと言うか……ちょっとカッコいい!
若干動きづらいそうだが、厨二ごこ……男心をくすぐるものがある。
素の世界で着てたら若干痛い感じだが、気にしない。
だって異世界だもの!
断じて俺は厨二病では無い!
『ふむ……これはなかなか上等なものだ。 あの男はああ言っていたが、魔術的な防護が施されている。 物理や魔法に対する防御力もなかなかのものだ』
「へぇ〜具体的にどのくらいの防御力があるんだ?」
魔物がいるこの世界で防具になるというのは非常に心強い。
『はっきりとは言えんが、そうだな……オークの一撃ならば痛みはあるだろうが、死ぬ事はないだろう。 無論何度も食らえばその限りでは無いがな』
なにそれ、無茶苦茶優秀じゃん。
さっきまでよくて致命傷、悪ければ即死の攻撃に耐えられるって優秀すぎやしないか?
そうと分かれば着ない手は無い。
制服のブレザーとネクタイをアイテムボックスに入れ、とりあえずワイシャツの上から羽織る。
着合わせは微妙だが、まぁ文句を言っても仕方ない。
ついでに革パンも履き替える。
正直、革製は動きづらいので微妙だと思ったのだが、穿いてみて驚いた。
制服のズボンよりはるかに動きやすいのだ。
ある程度のフィット感と伸縮性、通気性も抜群。
「ヤバイ、超いい感じ」
『ふむ、このパンツもある程度、防御に期待できそうだな。
コート程では無いが二つ合わせれば相当な耐久性を発揮してくれそうだ』
これは次、キースに合ったらお礼をしなくちゃな。
さて、これにて無事やる事が無くなった。
後できる事があるとすれば——
「……寝るか」
どこで寝るべきか少し迷ったが、勝手に寝室を使う訳にもいかない。
ステラは好きにしていいと言っていたが、流石に気が引ける。
俺は仕方なく、硬い床の上に横になった。
意外とあっさり眠気が訪れ、俺は眠りに落ちた。
♦︎
ざわざわ……
「んあ?」
ざわつく外の音に目が覚める。
窓に目をやると既に日が登ったのか明かりが差し込んでいる。
『目が覚めたか』
「あぁ……ふぁぁぁ……」
思い切り身体を伸ばし、立ち上がると窓の外を覗き込んだ。
大勢の村人達がバタバタと走り回っている。
よく分からないが、男連中が数人がかりで木箱を運び、女は籠に詰めた野菜の様な物を持ち走っている。
皆一様に昨日俺が村に入った時の入り口へと向かっている様に見えた。
「なにしてんだ? 商人……は昨日帰ったよな?」
『やはりそういう事か、ミナト、面倒な事になっている可能性が高い、奴らの向かう先に行くぞ』
行くぞって……
俺は無駄だと思いつつも玄関扉のノブを回す。
が、やはり昨日と同じくやはり開く気配はない。
違いがあるとすれば、扉の向こう側に感じていた気配が今朝になって消えている。
「やっぱり開かないな、仕方ない、窓から——」
『そんな物蹴破れば良かろう? モタモタしているとあの娘が大変なことになるかも知れんぞ?』
どういう事だ?
何故ここでステラが出てくる?
不意に過ぎる不安が俺を駆り立てる。
「後で謝らなきゃな」
俺はそう呟くと扉を蹴破り、外へと飛び出した。
♦︎
「おいおい! ありゃぁ……」
村の入り口、そこにいたのは見覚えのある巨体、しかも数十匹はいそうだ。
記憶のそれより更に大きいものまでいる。
『やはりオークか! ミナト、村人はオークに脅され貢ぎ物運んでおるのだ。 そして恐らくその貢ぎ物にステラも含まれておる』
クロの言葉に俺の中で色々な物が繋がった。
『オークは人間の女で繁殖する』
「……明日の件、心変わりはあるまいな?」
「…………はい」
「え? ……そんな事無いですよ! どうしたんですか?」
そういう事かよ! クソッ! 気が付けよ俺!
ラノベなんかじゃよくある話だろ!
ステラは生贄だ。
その時、視界にステラが写る。
真っ白なワンピースを着せられ、村長の後ろを俯きながらオークの方へ歩いてゆく。
「お待たせ致しました。 なにぶん正午と伺っておりました故、準備に手間取りまして……」
村長がヘコヘコと頭を下げながら、一際大きなオークに声をかける。
「……大して変わらないダロ、ゴチャゴチャ抜かすなら村ごと奪ってもいいんだゾ」
驚いた、昨日のオークより遥かに流暢な言葉だ。
『アレはオークキングだろう、群れのボスだ』
はーん、なるほどね、んじゃあの豚を倒せばステラを助けられる訳だ。
『本気か? あの数だ、しかもキング以外にもハイオークもおる。 昨日の様に躊躇う事があれば、あっと言う間に挽肉にされるぞ?』
挽肉って……怖い事言わないでよ。
「昨日と違ってあの豚どもがいるのは草っ原だぜ?」
『ふ、いいだろう! 我も力を貸してやろう!』
ちょっと嬉しそうなんですけど。
んじゃ行くぜ?
俺はステラの下に駆け出した。
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