第6話 俺だって健全な17歳

「あの……重くないですか?」

「全然平気です!!」


 若干食い気味に否定する。

 背中から布越しに感じる体温、そして至福の感触——

 ぺったんこユキとは……全国の女子を敵に回しそうなのでやめておこう。


『悲しい奴だな、ミナトよ』

(うるせぇ、俺だって健全な17歳なんだよ)


「あ!」

「え!?」


 突然背後から上がった声に、思わず声が上擦る。


「すみません! そういえばまだ名乗ってませんでした! 私はステラと言います。 助けて頂いた上、背負ってまで頂いてるのに本当に失礼しました」


 そう申し訳なさそうに謝られると、邪な事を考えていた身としては非常に心苦しい——


「あ、全然気にしてないんで大丈夫! それよりステラさんはなんで森に居たんですか?」


 話題を逸らす為に気になっていた事を聞いてみた。

 薄暗い森の中に女の子一人で来たら危ないのではないか?

 と言うか実際ヤバかった訳だが……


「薬草を摘みに……ただ、あまり見つからなかったので森の奥にあるアピの実を探しに行ったら……」


 ステラはそこまで言うと背中越しに伝わる程に身震いした。


「しかも集めた薬草は逃げている間に落としてしまって……」


 うーん、大分困っている様子だ。

 なにかできる事はないかと頭を捻ろうとしたところでクロが声を掛けてきた。


『ミナト、その娘の言う薬草は分からぬが、アピの実は貴様も食っていたアレだ』


 アピの実ってあれか、あのリンゴの事か。

 俺はステラを落とさないよう気を付けつつ、アイテムボックスからそのアピの実とやらを取り出し、肩越しに見せた。


「アピの実ってこれのことか?」

「そうです! すごい、よく見つけましたね!」


 ステラの驚いた声が俺は不思議で思わず聞き返した。


「え? これってそんなに珍しいのか? ここに来るまでの間に大量になってたけど?」


「え? えぇ?! ヒュウガさん一体、どれだけ森の奥にいたんですか? アピの実は魔素がとても濃い場所にしか生育しなくて、一つ食べるだけで高位の魔術師でも魔力が完全に回復すると言われる極めて希少な物なんですよ?」


 え? マジか? 希少って事は高く売れるって事? 見つける度に根こそぎアイテムボックスに突っ込んだから多分軽く百個以上あるんだが……


 そう、俺はクロにアイテムボックスを貰った直後から、つい嬉しくなって手当たり次第にそのアピの実とやらをもぎ取っていた。


「えーっとちなみにコレは?」


 ひょっとしたらと思い、クロに言われ引っこ抜いてはこれまた同じ様にアイテムボックスにぶち込んだ草を見せる。


「わ! それは霊木の露草です! 精製すればどんな傷でも癒すと言われている秘薬の素です! 凄い……」


 マジかよ、そんなレアアイテムだったのか……

 クロの奴そんな事一言も言ってなかったぞ。


『ふむ、そうなのか。 確かによくよく考えてみれば人間にとっては充分秘薬になり得る程度の効果はあるやも知れんな』


 要は、魔王から見れば薬草やエー○ル程度だが、人間にしてみればエリ○サーという事か。


 それならば、と俺はステラに手にしていたアピの実とそのなんちゃらの草を差し出した。


「やるよ」


 俺の言葉にステラは手をブンブンと振りながら——


「そ、そんな! 助けて頂いた上にそんな高価なもの頂けません! ヒュウガさんは迷い人ですから知らないのも無理ありませんが、その二つだけでも私の暮らす村なら一冬越せるだけのお金になります! 今なら丁度村に町から商人が行商で訪れています。 きっと高値で買い取ってくれますから、今後の資金の為にも大切にして下さい」


 ステラはそう口早そう言うと俺が差し出したアピの実と草を押し返してきた。

 だが、俺からしてみればこの二つを彼女に渡したところでなんら困らない。

 なにしろアイテムボックスにはまだそれぞれ百以上ストックがあるのだ。

 俺は少し考えてから、もう一度手にした二つを差し出し、ステラにこう言った。


「んじゃ、村に着くまでに色々教えてよ。 さっきも言った通り俺はこの世界の事は全然知らないんだ。 このままじゃ困るからさ、例えばその迷い人ってなに?」


 そう言って、彼女の目の前でアピの実と草から手を離す。

 重量に引かれ落ちた先は、俺の背中と彼女の立派な胸の間である。

 その結果、彼女は地面に落としてはマズイと慌ててその二つを手に取る。


「わわわ!」


 突然の事に驚いたのかステラは背中で大きくその身体を動かした。

 そのせいで、今まで以上に彼女の立派なアレが背中に押しつけられた。


『…………サイテーだな』


 決してワザとでは無い、偶然の産物だ。

 ぶっちゃけ俺にとってはコレだけでその二つ以上の価値がある。


 ……ホントワザとじゃ無いよ?


「なんて事するんですか! 落として傷でも付いたら価値が下がっちゃいますよ! とりあえず村に着くまで預かりますが、後でちゃんと受け取って下さいね?」


 思ったより強情だった。


 ♦︎


 その後は特に魔物に出会う事も無く、のんびりと森の中を進む事が出来た。

 道すがらステラは色々な事を教えてくれた。

 まずこの世界はセレニティと呼ばれ、今いるのはセレニア大陸と言うそうだ。

 大陸と言っても今いる一番大きな大陸のほかに小さな島や島とは呼べない程度の大きさの小大陸もあるらしい。


 では何故セレニア大陸と呼んでいるのかと言うと、人間を中心に人間に友好的な他種族が住んでいるのがセレニア大陸と呼ばれているそうだ。

 そのセレニア大陸はセレニア王家が全て仕切っていると言うのだ。


 そしてセレニア大陸以外の大陸を魔大陸と呼んでいる。

 魔大陸には魔物が蔓延り、それをまとめているのが——


「魔王!? え? マジでそんなのいるの?!」


 どうやらそれがマジらしく、遙か昔から人間率いるセレニア大陸と魔王率いる魔族との間で度々戦争が起こっていると言うのだ。


 ホント冗談みたいな世界である。


 そして、魔王がいれば当然、対になる者もいる訳で……


 そう、みんな大好き勇者様である。


 勇者はこの世界で神の祝福を受け、生まれてくる。

 主神セレーナを崇拝する聖光教会の看板だそうだ。


 大抵、こういう設定が存在する場合、非常に面倒くさい設定も付随するものである。


「聖光教会は王家に匹敵する権力を持っています」


 はいきましたーやっぱりそうなりますよねぇ……


 コレは聞くまでも無い、間違いなく面倒くさい類の集団だ。

 俺は絶対に関わらない事を固く心に誓った。


「後、権力と言えばギルドですね。 セレニア大陸中に支部を張り巡らせていて、希望すれば誰でも冒険者にとして依頼を受ける事が出来ます。 これで生計を立ててる方は少なくありません」


 話を聞く限り、俺の知識にあるギルドとの違いは無かった。

 ドブさらいから魔物討伐や護衛など、依頼があればなんでも請け負う言ってしまえば何でも屋である。

 自然と諸々の力を得ているのだろう。


 そして、迷い人という者の話も聞けた。

 なんでもここ数十年で突然現れ始めたらしく、共通するのは皆違う世界から来たという。

 だが、俺の知識と違ったのは迷い人だからと言って特別な力を持っている訳じゃ無いという点だ。


 まぁ普通に考えれば異世界転移=チートってのがそもそもおかしいって話な訳だが……


 ちなみに確認してみたところ、迷い人自体は決して多い訳では無いらしい。

 だが、昔から存在は知られているので今では誰でも知っている事だそうだ。


 そんな事を教えてもらっている間に、いつの間にか目の前が明るくなっている事に気がついた。


 迷い、歩き続ける事約5時間、ようやく森から抜け出す事が出来たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る