第5話 目醒め




 …………あれ? 


 俺……っつ! 

 なんか腕擦れてる? 左腕が火傷してるみたいに……


 やっと治まった……この感触地面? てかなんで俺横に寝てんだ? 

 何が……うっ! 今度は頭? 目の横辺りがめちゃくちゃ痛い。


 しかも……なんだこれ! 回ってる? 視界がグラグラ回ってる?


 とっ、とりあえず立たなきゃ……


 腕は……ヒリヒリしてるけど動く。

 でも視点が定まらない。それにあっ……足に力が上手く入らない……


 それでも上半身だけは……なんとか…………は? 誰だお前達。てか、他にも誰か居る?


「……ったく……」

「アンタ……」


 何言ってんだ? 何……


「お前が来たから壊すの止めたんだろうが」

「何? ワタシのせいだっていうの? 残りの殆ど狩ったのよ?」


 お前ら……学校の屋根に居た奴らじゃねぇか。


「まぁどっちにしろ、まだ居たんなら始末するだけだ。お前らよりも人間の方がタチが悪い。ったく、壊しても壊しても目を離すとすぐに元に戻ってやがる」

「その意見には賛成。ホントいくら狩ってもまた増えてるし……まっ、とりあえず男の方は動けないでしょ。ちょっと押したつもりなのに飛んじゃったし」


 壊しても? 狩ってもまた増えて? 一体何の事を言ってる。

 それに押したって……俺の事か? くっそ……しかも人間の方がタチが悪い? やっぱりこいつら……


「じゃあ女の方はサクッとるか。悲鳴を聞けないのは残念だが……」

「アンタ達ってホント悪趣味ね」


 人間を襲う……魔物……


「真っ先に男を襲う奴らに言われたくはないな」

「一緒にしないでもらえる?」


 マジかよ……あれ? そういえばホノカは? ホノ……


「さっさとりなさいよ」

「うるせぇな。せっかくだ、楽しませろよ!」

「ぐっ……あぁ……かはっ……」


 おっ……おい、待て……よ。そこの亀……お前……お前……何してる。ホノカの喉掴んで……持ち上げて……


 苦しんでる姿見て……


「ククク……他の連中と一緒にられてたら楽だったのにな?」


 何笑っていやがるっ!

 あぁ、動けよ足。何震えてんだよ。


「ほれっ」

「あぁ……あアァ……」


 ふざけんな! このままじゃ……このままじゃ……ホノカまで……


「ん? あらやだ、この子もう立ち上がってる。手加減し過ぎたかしら? まぁ力は入ってないみたいだけど……なかなかやるわね? 気に入っちゃった」


 うるせぇ……うるせぇ……この鳥野郎……お前のお気に入りになっても嬉しくねぇんだよ。


「首の骨が軋む音はやっぱ良いなぁ……」


 薄汚ねぇ手で……ホノカに触ってんじゃねぇよ……亀野郎……


「アッ……」


 ホッ、ホノカ! 待て……行くな! 動けって足……


「アァ゛……」


 あぁ……なんでこうなった? 俺達が毎日の様に言ってたからか? 

 違う、昔の話に憧れてただけだ。


 じゃあこいつらはなんなんだ?

 知らない……知らねぇよ……


 俺達はこいつらに何かしたのか?

 する訳ない。昔の人達ならまだしも、俺達はなんもしてない!


 じゃあこいつらは何をした?

 こいつらは……村を壊した。


 他には?

 たぶん、村の人も全員……


 そして?

 そして……今……


「ククク」

「どうしたの? そんな怖い顔しちゃって……」


 ホノカを……殺そうとしてる!


 いいのか? そんな事させて?

 いい訳ない。人が死ぬのは……嫌だ。

 何も言えないなんて嫌だ。突然居なくなるなんて嫌だ。


 目の前でそんな事になるのは……もっと嫌だ!


 あぁ神様でも魔王でも誰でも良い。

 なんでもする。どんな事だってする。この体がどうなったって構わない。


 だから……だから……これ以上、誰も殺さないでくれ!

 ホノカを……



「やめろぉぉぉぉぉ!」




 助けて下さい!




 ドクン……


 心臓の鼓動が聞こえる


 ドクン……


 それはまるで体全体に響くような鼓動



 ……ドックン……



 そして一際大きな鼓動が、耳から頭の中に響いた途端……体のあちらこちらに何かが弾ける様な音が駆け巡る。


 それは足の先から指の先まで余すこ事なく溢れると、やがて1つの場所に集まった。


 そして……


 パンっ!


 そんな破裂音がした瞬間………一気に心臓が熱くなる。

 まるで燃えているかの様に。


 不思議と痛みは感じない。むしろ心地良い気さえする。

 けど、今の俺にとってはそんな事どうでもいい。目の前のホノカを救う事が何よりも1番大事な事だったから。


 だからこそ、なんとか必死に右手を伸ばす。

 何をしたい訳じゃない。ただ止めたかった。

 少しでも、あの亀の気を紛らわせたくて……仕方がなかった。


 けど、そんな俺の願いは……


 なん……だ? 体が……重い。手足の感覚もなくなってきた。

 目開けていたいのに瞼が重い。

 嫌だ……嫌だ……守りたい……守りたいんだ!


 ゆっくりと潰えて行く。


 徐々に闇に飲まれて行く中、聞こえて来たのは……誰かの叫び声。


 そして、自分の手がまるで青い炎に包まれている様な……




 幻覚だった。



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