第4話 魔……物?

 



 なん……だ……?

 真っ先に浮かんだのはその3文字。


 青黒い皮膚……いや鱗のみたいなモノに包まれた生き物。

 その顔は亀の様にも見えるけど、特徴的な甲羅は見当たらない。それどころか異常に太い腕と足、その先から延びる鋭利な爪のらしきものは遠目からでもハッキリ分かる。


 薄い緑色の毛に覆われた……やけに背の高い生き物。

 背中に生えている羽根、手足に見える鉤爪。その姿は鳥と言って良いかもしれない。けど、くちばしが異様に小さくて、しっかり2本の足で立って居る。


 今まで見た生き物の姿には当てはまらない。

 ただ1つ言えるのは……


 人間じゃないって事だけだった。


 けど、


「オイオイ、何だってお前らが居るんだ?」

「それはこっちのセリフですよ?」


 さも当たり前の様に俺達と同じ言葉を話す姿に、頭の中は更に混乱する。


 人間……じゃないけど人間の言葉?

 いや何言ってんだ。言葉を話せるのなんて人間以外有り得ないだろ?

 もしかして、魔物……なのか? でも、あれ? 魔物ってなんだ? なんだ?


 どこからともなく現れて、村を襲う。それは何度も何度も語り合っていた昔の話。

 ただその中心だった魔物の姿を想像しても、明確な形は浮かんでこない。


 当たり前だ。過去に魔物が存在していたという話は、歴史の講義で習った。それ自体は知っている。けど、その1文のみで絵や詳しい姿なんて書かれていない。それに関する本も俺が知る限りではない。

 だからこそ俺達はその未知なる生物たちが存在していた時代に憧れて、その見た事のない姿を好きなように思い描いた。


 凶暴化した狼。

 斧を持った熊。

 デカイ蛇に、岩の巨人。


 頭の中では何度も遭遇し、何度も戦った。でも結局は夢の話。


 どんな姿が魔物なのか。

 どれが魔物なのか。

 ……誰が魔物なのか。


 分かるはずがない。


 だが目の前に、その何かは存在している。


「クッ、クレス? あれは……何?」

「わっ、分からない」


 確実に。


 見れば見る程その姿はおかしい。

 ましてや、今にも崩れそうな足場の悪い学校の屋根。その上で平然としている事も有り得ない。

 その高さに俺だったら足が震えてしまう。いや俺でなくても誰だってそうなるはずだ。

 大体、どうやってそこに上ったんだ? 考えれば考えるほど現実とは思えない。


「おかしいな。最後の1匹、確実に仕留めたはずなんだがな?」

「その言葉そっくりそのままお返ししますよ」


 俺達を尻目に、さも当たり前の様に言葉を交わす2つの姿。

 その光景は、まるでこれが本当のだと、まざまざと見せつけている気がしてならなかった。


「まぁいい。どっちにしたって分かった事もあるしな」


 そう言うと、青黒い亀の様な奴は鋭い爪を目の前に突き立てる。


「その汚い爪は早くしまったらどうです? あいにく、ワタシ達も思いがけない収穫が有りましたし」


 そんな亀をあざ笑う。薄緑の鳥の様な奴。その顔はどこか余裕……と言うより小馬鹿にしたような表情にさえ感じる。


「ハッ! 相変わらずいけ好かねぇ野郎だ。やっぱり消したくなるわな」

「奇遇ですね? ワタシも同じ事を考えていましたよ」


「ククッ。良いのかねぇ。御自慢の羽が潰れちまうぞ?」

「その気持ち悪い鱗。全部剥ぎ取られてしまいますけど?」


 遠目から見る限り、その会話は少しずつ変化していた。

 そしてその流れからこの2人? は……どうも仲間という雰囲気ではない。


 仮に魔物だとしたら、魔物同士でいがみ合う事なんて有るのだろうか。

 共通の敵は俺達人間じゃないのか。


「言うねぇ。じゃあとっとと土に還って貰おうか?」

「細切れにして鱗の1つも残らない様に消してあげましょうか?」


 ますます分からない。分からないけど……


「クックック……」

「フフフッ……」


 物騒な言葉とは裏腹に、何とも不気味な笑みを浮かべる両者。

 その本当の意味を知るのは一瞬だった。


 っ!

 風もなにも吹いていないのに、頬をピリピリした感覚が襲う。まるで針か何かで突き刺されている様な痛み。それが顔から体全体へと少しずつ広がって行く。

 その異変が何を意味するのかは分からない。ただそれと同時に胸の鼓動も早く大きく波打つ。


 体に何か当たってる訳じゃない。遠目で向かい合う2人は、その距離を保ったまま。


 何も起こる訳がない。

 それなのに、脳裏に浮かぶそれはこびり付いて離れない。



 ―――ここに居たら……まずい―――



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