35 神殿の戦いⅡ
パモーレは体を震わせ、闇の魔力の展開範囲をさらに広めた。
(さて、天使とエルフとあの聖女らしき女がまだ出てきてません。なにやら仕掛けてくる可能性は高い)
パモーレは冷静に辺りを見る。パモーレは気配を探る。感知する魔術は持っていないが、気配を察する程度は出来る。数百年の生きた中で戦闘経験で培った察知能力は人間が簡単に習得出来るものではない。
「よそ見してんじゃねぇ!」
リヴァルがパモーレに攻撃を仕掛ける。今度は先ほどの攻撃とは異なる攻撃だった。パモーレは避けた。
「あらあら。攻撃パターンを変えてきたわね!」
第三の人格は背後からの火の玉を察知して、闇の魔力にてそれを防いだ。バロンのファイヤーボールである。
闇の魔力は靄か煙に似た状態を基本とし、個体、液体、気体に変化する性質を持つ。また光を除いた他属性へと変化し、使用する事も可能であるが、そこまで極める必要があり、パモーレは専ら状態変化のみを極め、使用している。その他にも闇の魔力は精神を支配する性質も持つ。
「私は剣士でありませんが、久々にやってみたくなりました」
パモーレはそう言うと、闇の魔力の一部を右腕に纏わせ、手の平にそれを集めて闇の魔力を剣に変化させた。
「さあ! 来い! 我が聖剣で成敗してくれる!」
パモーレはそう言うと、股間部分に剣を持っていき、まるで長い一物の様に扱い構えた。まるで下ネタを覚えたばっかの子供のようである。そしてその剣は聖剣とはほど遠い漆黒の剣だ。
「ふざやがって――こんなんで俺よりつえーとか恨むぞ」
「リヴァル、調子を狂わされないで。ふざけていると見せかけてそれが目的かもしれない」
「さあ! さあさあ! どこからでも掛かって来なさい! 我が一物が相手をしますよ!」
パモーレはふざけている様で隙がない。背後には常に闇の魔力が纏われており、背後から攻撃も対応できる。強いて言うなら真上と真下が無防備だが、そうそう攻撃出来る箇所ではない。
「さあ! どうしました! 来ないならこっちから!」
パモーレは自分の周囲の影が広くなった事を理解する。そしてそれがどうして起きたとかと理解した時には遅かった。
パモーレは神殿を構築していた巨大な石材の落下をもろに食らった。
「カークの――敵!」
天使ヘレネが仕掛けた攻撃だった。カークの死以降、ヘレネは体に変化が起き、身体能力が大きく強化できるようになった。その一つ、筋力増大による怪力でヘレネは華奢な体でとてつもない重量を持てる様になり、今ではリヴァル一人を抱えても、自在に空を舞う事が出来るようになった。
「ひぇ~。もうヘレネを子供扱いできねぇな」
「油断しちゃダメだ! まだ奴は生きている!」
バロンの言う通りだ。パモーレは自身にのし掛かった石材を闇の魔力で突き破り、吹き飛ばした。石材の破片が周囲に飛び散った。
「きゃ!」
それは空を舞うヘレネに飛んでいく。
「パモーレェ!!!! 私を殺そうなんて百年早いわぁ!」
パモーレはほぼ無傷だった。その姿にリヴァル達は少し驚きつつも、想定内であると思わせる顔をした。
「ひひっ! 見つけたわ天使ちゃん♥! 私といいことしましょう~」
パモーレに第三の人格が現れ、体をクネクネさせた。もう、パモーレは天使を見つけ容赦はしない。
「来ないで変態! あなたは私が倒す! もう泣いてばかりの私じゃないんだから!」
「ふふっ! いいわそれ! ひひっ! 興奮する!」
緊張感などほとんどない戦闘だ。パモーレは 本気を出さず、僕達も待機をさせており、リヴァル達をここで殺す気はないように見える。
口笛が聞こえてきた。周囲から聞こえて来る。パモーレはその口笛の主の場所を特定しようと気配を探るが、見つからない。
リヴァル達は撤退する。口笛が合図だったようだ。
「逃がすか! 貴様ら、奴を追え!」
第二の人格が指示する。僕達は動き出す。が、それは想定済みだったのか、僕達の立つ地面は沼地へと急遽変化した。
エルフ魔法パルデにより沼へと変化させられていた。パモーレの足下も沼へと変化していき、パモーレ達の身動きを止めた。
「・・・・・・やってくれるな!」
パモーレが行動できない内にリヴァル達は撤退していった。残されたパモーレは沼地化の魔術が解けるまで、身動きは出来ない。
「冒険エルフが加わった事で中々手こずるような事をになったわね」
第三の人格はまるで親戚の子を憂うような事を呟くのであった。
ここまでの戦闘は大方、アルの予定通りであった。パモーレの能力を暴く。ここで待ち受けたリヴァル達の目的である。神殿高地であれば、こちら側に有利であるとアルは踏んでいた。闇の使者が光の聖地で戦うか不安であったが、どうやらパモーレは目的が最優先であるようで、不利な状況でも挑んできた。
「ここまではほぼ予定通りだ。このまま神殿高地奥地まで誘い込む」
アルを中心に集まったリヴァル達はパモーレから百メートル以上離れた場所に集まっている。先手をリヴァルに、後方支援をバロンにすればある程度戦え、怪力に目覚めたヘレネで攻めればそれなりに追い込める。そして備えとしてマリサを回復役として待機させておけば、例え負傷しても万全ではないが、安心は少し出来る。
そしてアルは徹底的にパモーレの能力、戦闘力を分析する為、物陰から戦闘を覗く。
「皆には危険を承知で戦っている事に感謝する。このまま当初の計画通り第二ステージまで奴を誘い込むよ」
「了解だ。だけどよ。このまま奴を倒せるんじゃねぇか? 前に出会った時よりも何か覇気ってもんは感じねぇぜ」
リヴァルの目にはそう映っていたが、アルとバロンには違っている。
「リヴァル。奴はまだ本気ではない」
「アルの言う通りだよ。僕も改めて奴の魔力を感知したけど、まだおそらく半分程度の力だと思う」
感知するとパモーレの体は闇が詰まっているイメージであり、あまりに感知感度が高いと受け側が悪影響を出てくる。
「バロン。あまり奴を感知し続けるな。人間には悪影響でしかない」
エルフのアルは耐性を持っている為、感知し続けても影響はない。
「では、準備はいいね。各自、位置についてくれ」
沼地から脱出したパモーレは森林を抜け、遺跡と化した神殿に足を踏み入れた。そして僕達を散らばせ、リヴァル達を見つけさせようとしていた。
(さて、私を追い込むつもりのようですが、どこまでこのパモーレを追い詰める事が出来るでしょうかね。私はまだまだ力は余っていますよ)
パモーレは不気味な笑みを浮かべ、神殿内をくまなく見る。見たところ怪しい箇所はないが、エルフの仕掛けてきた罠の魔術はやっかいではあった。
「さあ! どこからでもきて下さい! 私は逃げも隠れもしませんよ!」
パモーレの背後にリヴァルが迫る。リヴァルは「我が力よ。我の令に従い、我に力を貸せ。ファイヤーソード」と詠唱し、剣に炎を纏わせた。
アルとバロンの指導の賜である。リヴァルの魔力はそう多くないが、バロンの考案した方式で少量であっても、数分間の魔術行使が出来るようになった。炎は剣全体を覆い、リヴァルは頭上に振り上げた。
「くたばれ! パモーレ!」
だが、パモーレは気づいている。背後からの気配など幾度も経験してきた。
「いやん! 背後から襲うなんてし・げ・き・て・き!」
第三の人格が現れ、赤面しつつ闇の魔力で炎の剣を受け止めた。闇の魔力はそのまま剣を取り込もうとするが、それに気づいたリヴァルは剣を引き、退いた。
「面倒な闇だなそれ――」
「あなたもこれに包まれたらどう? 慣れるとこの世のものとは思えない感覚になれるわよ?」
「ごめんだねクソ野郎!」
そうリヴァルが言った瞬間。四方からファイヤーボールがパモーレ目掛けて飛んできた。
(へぇー、中々の数。並の魔術師ではないみたいね)
バロンの術だ。ファイヤーボールの同時発射は中級レベルの難易度であり、バロンの場合は数がさらに多い。だが、バロンの火球は当たらない。僕による風魔術で全て吹き飛ばされてしまう。
「やはり子供達が邪魔をするか」
バロンが囁く様に呟く。そして集まってきた僕達と対峙する。
「そっちは任せたわよ」
バロンの相手を僕達に任せ、炎の剣を持つリヴァルにパモーレは相手をする。最初とは動きを変えたリヴァルの攻撃にパモーレは少し困惑気味だったが、すぐに慣れたのかリヴァルを吹き飛ばした。
「リヴァル!」
バロンが叫ぶ。吹き飛ばされたリヴァルは壁に激突することなく、何とか踏みとどまった。だが、その隙にパモーレの闇の魔力が迫る。
「ちっ!」
隙を与えぬ連続攻撃にリヴァルは焦りを感じるも、ギリギリの所で固体化した闇の魔力を避けた。
「パモーレ! あの攻撃を避けるとは中々ですよ!」
パモーレは第一の人格に変わった。笑みを浮かべ、戦闘を楽しんでいるようだ。
「変な口調になったり、きめぇ動きだが、こいつ、つえーな」
リヴァルとの戦闘力の差は明らかだ。パモーレは見るからに余裕であるが、リヴァルは息切れをしている。そして炎の魔法も限界からか、火は消えてしまう。
「アルの期待には応えられないかもな」
リヴァルがらしくない事を呟いた瞬間。パモーレに凄まじい落雷が落ちた。突然の事に周りにいたリヴァル達は驚く。
「ぎぃいいいい!!!! 痛いですねぇ! なんなんですか!?」
パモーレの体は雷で焼かれ、そして痺れにより体は思い通りに動かせない。明らかにダメージを負ったパモーレは疲労した様子である。
「おいバロン!? 何ださっきの落雷は!?」
「わ、分からないよ! 偶然、落ちたのか!? でも、ここは屋内でしかも雨雲なんて――」
「よお、この前のガキども、そしてパモーレ。面白い事してるな」
その声に、一同は振り向く。そこ立っていたのはライオットだった。
「あ、あなたは――」
笑みが消えたパモーレにライオットは剣を向け、怒りに満ちた目でパモーレを睨んだ。
「今日こそは殺してやる! パモーレ!!」
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