31 パモーレ

 パモーレ。子攫いのパモーレ、道化のパモーレ。きようじんのパモーレ、子供好きのパモーレ、クラウンパモーレ、こらら全てはパモーレの通り名として世界中で言い伝えられている。  

 子供に親がしつける際によく名前が挙がる怪人。誰もが実在しない者として思っていたがが、今、目の前にいる男は正真正銘の本物のパモーレである。

 パモーレはリサンドラが一望出来る崖から椅子と机を用意させ、呑気にお茶の時間を過ごしていた。


「はぁーーやはり、キラーウルフのおしっこは格別ですね」


 とんでもないティータイムだった。

 飲尿を楽しむパモーレに子供のしもべが近づいてきた。


「ほほう! 教会に逃げていったとな! 予想通りで私はガッカリです!」


 僕の子供は何も話していない。パモーレとその僕はテレパスの様なコミュニケーションを取るのだ。


「では、そのまま教会近くで見張るのです! 私からの差し入れとしてキラーウルフのウンコを持って行きなさいよ」


 とんでもない差し入れである。誰が喜ぶのだろうか。しかし、僕の子達は誰も反抗もしない抵抗もしない。何故なら彼らはパモーレの闇の魔術によって内面全てを書き換えられ、パモーレに仕える事が至福として設定されてしまっていた。つまり、パモーレの下僕として生きる事が幸福であり、従っているだけで幸せを感じているのである。とはいえ彼等彼女等は表にその感情を見せない。それもパモーレの魔術により無表情を永久に維持と設定されてしまい、たとえ拷問を受けようがずっと無表情のままである。


「ほぇ!? イワンのお墓ができただと!? 見せるのです!」


 僕の一人の報告にパモーレは椅子から立ち上がり、森へと進む。そして僕達が作り上げた粗雑な作りの墓石の前へと案内され、目の前に立った。石の下にはイワンの遺体はないが弔っている。


「イワン・・・・・・イワン! イワン!

イワン!!!!」


 パモーレはそう言って泣きながら墓石を何度何度も蹴った。踏みつける蹴りで何十回も蹴った為、墓石は地面にめり込んだ。そしてパモーレは何を思ったのかズボンのチャックを下ろし、イチモツを露出させると泣きながら言った。


「これは私からの手向けですイワン! とくと味わいなさい!」


 パモーレは墓石目掛けて放尿した。それは勢い良く放たれ、墓石を汚した。


「ほほぅ! 何ていい香りでしょう。さっき飲んだキラーウルフのおしっこが効いたみたいですねぇ! ああ、イワン! ちょっとあなたにはもったいないとか思ってしまう私はなんて最低なんでしょう――」


 最低ではなく愛悪である。墓石に尿をかけるなど言語道断。故人に対する最大の侮辱だ。だが、パモーレに常識など通用しない。彼は狂人。遺体にも尿をかけるこの男は侮辱と思っていない。むしろ慈悲の心で行う狂った男である。


「はぁーーすっきりしましたイワン。どうでしたか? 私のおしっこは素晴らしいでしょう?」


 今は亡きイワンに語りかける言葉としては最低最悪である。だが、パモーレはやりきった笑顔で墓に語りかけていた。


「では、イワン。私は行きます。まだ見ぬ可愛い子達を犯しにね。今までありがとう。そしてさっさと地獄で苦しんで下さいね」


 そう言ってパモーレと僕達は墓から去って行く。そして再び椅子に座るとリサンドラの街を見た。


「さあ! 天使よ! 私に愛される準備は出来たか!」


 パモーレは高々に言った。

 かつてのパモーレは今の様に狂った人間では無かった。今から数百年前の彼はどこにでもいる村人で良識ある人間だった。ただ、子供が好きで笑わせるのが好きな男で、祭りなどで仮装しては村の子供達を楽しませていた。まだ、その時は微笑ましい光景だった。

 そんな彼を変えてしまったのは村に起こったとある事件だ。村が賊に襲われたのだ。

 その賊の中に小さな女の子を好む男がおり、ちょうど犯していた所にパモーレは飛び込んでしまった。それを見たパモーレは壊れてしまう。男を殺したパモーレはなんと助けるべきその子をそのまま犯してしまったのだ。

 その後、村人達からは当然の如く排斥され、村はずれのとある洞窟に幽閉された。そこでパモーレは何度も懺悔と謝罪を口にするが村人達は許さなかった。

 そして月日は流れ、およそ十年がたったある日。パモーレは幽閉された洞窟内から忽然と姿を消した。そして村はその数日後に誰もいなくなったのである。当時、近くで悪の根源を見たという記録が残っている。


「さてさて! 我々は待ちますよ! 奴らが出てくるまでねぇ」


 パモーレであっても、神教の領域、つまり教会には手出ししにくい。光がシンボルである神教の聖域だからである。特攻覚悟で飛び込めばいけなくはないが、自身の消滅も考慮しなければならなくなる。パモーレもそこまで愚かではない。

 その後、パモーレ達は三日間監視していた。雨に降られ、風に吹かれたが根気良く待った三日後、パモーレは監視を担当していた僕から

報告で目の色を変えた。


「なにぃ!? もう、いないだと!?」


 ありえない報告だ。教会の四方は完全に包囲させていたからだ。パモーレは頭を抱えた。


「ぐぬぅぅ!! ふざけるな僕よぉ! 私は怒こったぞぉぉぉ!」


 パモーレは右手を大きく振り上げ、そして振り下ろす。


「パモーレェェ!!!!」


 監視役の僕に拳を振り下ろした。小さな体躯の僕は吹き飛ばされた。何度か地面をバウンドし、大木に叩き付けられてようやく止まった。そして吹き飛ばされた僕は二度と動かなくなった。


「ひぃぃぃーひぃぃぃー」


 パモーレの顔はまさに怒りに塗れていた。歯をむき出しにし、血管がいくつもの浮き出ていた。近寄りがたい様相だが、僕達は仲間が殺されても微動だにしない。


「まっ! いっか!」


 パモーレの顔は急に変わった。怒りに満ちていた顔が突然に穏やかになり、気色悪い。


「よし! 撤収! 風俗街行くわよぉ!」


 パモーレの第三の人格が現れる。三日も第一の人格が表に出てきていた為か、痺れを切らせて変わった様だ。

 パモーレ達は歩き出した。


「おぃ! 誰がぁ男を抱きに行くのですか汚らわしい! 私の体を汚さないでもらいたい!」


「黙りなさいよ! こっちは三日もオナ禁で溜まってんのよ! 三日も表に出ておいて何を言ってんの?」


「おい。二人とも、天使はいいのか? 完全に巻かれたぞ?」


 比較的常識人の第二の人格が現れる。その第二の人格の問いにパモーレの歩みは止まる。


「おもしろくなってきましたぁ! パモーレェェェ!!!!!!」


 狂った道化、狂った子攫い、狂った悪の使途の名パモーレという叫びが森の中で何度も木霊するのであった。






 

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