30 明かされる時
ヘレネの光により、パモーレの体は煙を吹いて焼かれていく。闇の力が弱まっているのか、闇の魔力がほとんど感じられない事をに気づいたアルは叫んだ。
「逃げよう! 今のうちだ!」
アルの叫びにリヴァル達は反応する。バロンはファイヤーボールをパモーレに放ち。マリサはリヴァルから光り輝くヘレネを引き取ると一目散に走り出した。
「ちっ! 逃がさないわよ! クソガキどもぉぉ!!」
パモーレは逃がさまいと闇の魔力を放出したが、ヘレネの光にかき消された。
「何ぃ!?」
「光の前にふれ伏せ! 悪の根源の使者よ!」
アルは得意の風魔術ウィングブレードを放った。風の刃がパモーレ目掛けて飛んでいく。パモーレは辛うじて展開出来た闇の魔力によって風の刃を逸らした。逸らされた刃は岩壁に突撃した。
続いてアルは黒煙を発生させる道具をもって視界を遮り、パモーレから自分達を遮った。
パモーレは黒煙を展開され、諦めたのか黒煙が晴れるまで何もしなかった。
「あはっ! おもしろいわね! あの子達!」
「感心している場合か? この僕達から逃げたのだぞ」
「ぐはははっ! 私は興奮しました! こんな興奮久々だぁぁ!! 犯しがいがあるぅぅ!」
パモーレの中には三人の人格が存在していた。二重人格ならぬ三重人格である。主人格は存在しない。正確にはあったかもしれないが、長い月日の中で消えたか分裂してしまったのだ。
「これは・・・・・・援軍が必要かもしれませんね」
一人は容姿相応の男の人格。奇声と挙動不審が特徴の精神破綻した人格である。常に表に出ているのが好きなのか、伝承のパモーレはほぼ彼の特徴である。ロリータコンプレックスであり、子供が大好きの道化者である。
「それは断る。僕はあの女が嫌いだ」
二人目の人格は比較的常識のある青年の人格。ただ他の二人に比べればであり、下劣な行いを好む。それを除けば比較的まもとな人格だが、表に出てくるのは少ない。子供が好きだが、ロリコンではない。
「私はいいわよぉ? セルティナちゃんと久々に女の話したいし~」
最後の三人目の人格は女性ではなく同性愛者で、女性的な言葉使いをするオネエ系の人格である。他の二人格と同じく子供好きであり、正太郎コンプレックスを持つ。
「まあ・・・・・・時間はまだたっぷりありますよ。じわり、じわりと犯して行きましょう――」
パモーレは頬のを赤く染めながら、晴れて虹か掛かった空を見つめるのであった。
パモーレから逃げ切ったリヴァル達は洞窟の先にある街リサンドラに到着していた。リサンドラは盆地にあり人口も多い街だ。神教の教会も存在し、リヴァル達はそこに逃げ込んでいた。
「神父様。突然の訪問にも対応して頂きありがとうございます」
「お気になさらず。そんな事よりも、見たところ恐ろしい事を経験した様で。ここは安全です。安心なさい」
神父はリヴァル達がただらなぬ様子で教会に来た事に驚きつつも、事情もよく聞かずに受け入れてくれていた。
マリサはそんな神父の計らいに感謝しかなかった。
「本当にありがとうございます」
マリサの礼を見届け、神父は一人礼拝堂から去っていった。
「ヘレネの容体はどうだい?」
礼拝堂の椅子に横たわるのはヘレネだ。逃げていく最中、ヘレネは気を失っていた。
「特に異常は見られない。人間の医療が天使にどこまで通用するのか分からないけど、僕の知識上ではヘレネの体は正常だよ」
「そうか――バロンがそう言うのなら安心だろう」
アルは安堵の顔を見せた。
「これで正解か分からないのに安心していいのかい?」
「私も天使は詳しくないが、人間と大差ないはずだ。なにせ、神は最初に天使を作り、天使をベースに人を作ったとされているからね」
「エルフではそんな風に伝わっているんだね」
一方、リヴァルは一人椅子に座ったまま、らしくない狼狽えた様子だった。天使が目の前で殺された事に動揺している様だ。
「リヴァル。らしくないですね」
「らしくないだと?」
「ええ、珍しく恐れていますね。もしかして天使が目の前で殺されたからですか?」
図星であった。リヴァルは立ち上がる。
「そうだよ! あの天使だぞ!? びびって当たり前だろうが!」
珍しく素直で怒鳴る様に言ったリヴァルにバロンもアルは驚いた。
そしてバロンは同じくらしくないと感じたのかマリサを見た。
「あなたでも恐れる敵。それでも、我々はあの怪人を倒すしかないのです」
その言葉にリヴァル達は驚く。
「あのパモーレを――」
「倒すだと!?」
バロンとバロンは目を丸くし、アルは笑った。
「アハハッ! 面白い事を言うねマリサ。このエルフの私でも無理だろうと思っているのに」
「ふざけていませんよアル。私は本気です。私は本気で預言を信じています」
マリサの真摯な表情とその口から発せられた〝預言〟という単語にアルは笑顔を止めた・
「預言? 今マリサ、預言を信じていると言ったか?」
「はい。私は予言者テム様から悪の根源を討つ者として予言されました。そしてそれはあなた達を含めてです」
初めて明かされた予言。それは三人にとって唐突であり、信じられない事である。悪の根源を討つ。人類史上誰も成し遂げられていない事だ。
「マ、マリサ。何を言っているんだい? 僕達はただヘレネを天界に返す為だけに旅をしているだけで、悪の根源を討つなんてそんな事出来るわけが・・・・・・」
「バロン。あなたはガラン王国始まって以来の魔術の天才児と聞いています。これまでの中で魔術の才能はすばらしいと感じました。どうかその魔術の才能で私に力を貸してほしい」
マリサは次にリヴァルを見る・
「リヴァル。あなたはアルドア王国の剣士の中では次世代の最強剣士として有望視されています。その剣の才能で私に力を貸してほしい」
最後にマリサはアルを見た。
「アル。あなたは冒険エルフとしてとても頼もしいです。はっきり言って最初すっぽんぽんで出て来た時は衝撃と幻滅しましたが、腐ってもエルフですね。長い月日で培われてきたた経験と魔術は尊敬に値すると思います。その豊富な知識と経験をどうか私に力添えをお願いします」
そう言ってマリサは頭を深々と下げた。
「予言とはいえ恐れるのは分かります。悪の根源が相手なら誰だって・・・・・・」
マリサの体は震えていた。それをリヴァル達は気づくのであった。そして見かねたアルが最初に口を開いた。
「テムの予言か。なら、そうなるんだろうな。私もかつて彼女の予言が当たるのを目の前で見た。懐かしいよ」
「えっ!? まさか、アルはテム様をご存知なのですか?」
「若い頃の彼女をね。確か何か神教の依頼で地方に来てた時だ。エルフである事を隠してたのに速攻で見破られたのは驚いてよく覚えているよ」
懐かしそうにアルは語る。
「そのあと、色々あった後口説こうとしたら思いっきり平手打ちされちゃった。アハハ!」
当時からそんなアルにマリサは呆れるのであった。
「テムの予言なら私は信じるよ。マリサ。私でよければ――」
「それでは、いいのですか?」
「ああ!」
そのアルの言葉にマリサは笑顔となり、ついアルの手を握ってしまった。
「なぁマリサ?」
「なんでしょう?」
「一緒に旅をするんだから後々デートしよ?」
「それは嫌です」
手を離して速攻の返答だった。アルはそれでも笑顔を見せるのであった。
「おいマリサ!」
リヴァルだ。
「てめぇいつからそんな大事な予言を聞いてたんだ!? なんで俺に教えなかった?」
「予言を授かったのは十歳の頃です。そもそもこの予言は機密事項でしたのでいくら幼馴染みのあなたでも教える事は出来ませんでした」
「そういう事かよ。まあ、いいぜ。乗りかかった船だ。やってやるよ!」
その返答にマリサは笑顔となる。
「ありがとうございますリヴァル!」
「大丈夫だリヴァル。君がびびっていても私がなんとかするよ」
「なんだとアル!? 俺を見くびって貰っては困る! これからはびびらねぇ!」
「その言葉が嘘にならない様に頼むよ」
リヴァルとアルは悪の根源討伐に協力してくれる事となり、マリサはほっとした顔を見せた。だが、まだバロンはどこか不安な顔をしていた。
「バロン。てめぇはガラン王国の人間だ。アルドア王国の予言にこれ以上付き合う義理はねぇ。マリサのお願いは無理して聞く事はねぇからな」
珍しいリヴァルの気遣いにマリサは涙目になった。
「成長しましたねリヴァル」
「てめぇは俺のお袋か! これぐらい気遣い出来るわ!」
「正直・・・・・・悪の根源討伐なんて無理だと思っている」
そのバロンの一言に一同バロンを見た。
「僕だって悪の根源については本で知っているよ。古代から存在する謎多き悪の塊。歴代の王達が何度か討伐を命じても消し去る事が出来なかった忌々しい悪。そんなのに勝てるわけがない――」
バロンの言葉通り悪の根源はこの世界最大の災厄であり、多くの人々を誑かして苦しめ絶望を与えてきた。誰一人その正体を掴めず、どこにいるのかどこに現れるのか不明の存在。いくらお前は才能豊かと言われても討伐出来るイメージは湧かない。
「バロン。無理を言って申し訳ありませんでした。テム様の予言は今まで的中してきましたがこれからも的中するとは限りません。だから本当に――」
「ヘレネを送り届ける。それは守りたいんだ
」
バロンはマリサの言葉を遮る様に言った。
「えっ?」
「僕はそんなに強くないから討伐なんて無理だけど、ヘレネの事は最後まで責任を持ちたい。だから、とりあえずヘレネを天界に送り届け終わるまで旅は同行するよ」
「本当ですか!? それでもいいです。これらかもよろしくお願いしますバロン」
そう言ってマリサはバロンの手を掴んだ。それに対しバロンは照れてしまうのであった。
「み、みんな――」
そのヘレネの声に一同は振り向いた。すると目覚めたヘレネに気づいた。
「ヘレネ! 体は大丈夫ですか?」
マリサはヘレネに一目散に駆け寄った。
「うん。皆は?」
「誰もケガはしていないよヘレネ。君の光の魔法のおかげさ」
「光の魔法? 何の事?」
アルの言葉にどうやらヘレネは光の魔法を解き放った事を覚えていない様だ。
「ねぇ――カークは死んだの?」
その時一番聞かれたくない言葉にリヴァル達は沈黙してしまうが、アルが言った。
「ああ。死んだよ」
「アル!」
マリサが叫ぶ様に言ったが、アルは続ける。
「逃げていく途中、彼の魔力が段々と弱まっていったのを感じだ。あれはどの種族にも見られる死の過程だ。天使が例外でなければ彼は――」
「――そう、分かった。カークは死んじゃったんだね」
そのヘレネの言葉はとても悲しみを感じさせた。そしてヘレネは一粒の涙を流し、表情を変え言い放つ。その表情は憎しみの顔だった。
「あの男・・・・・・絶対に殺してやる!!」
その言葉にリヴァル達は戦慄した。あのヘレネが幼い天使が〝殺す〟という単語を躊躇なく言い放った事に驚き恐れを感じた。
そもそも天使とは博愛と慈愛を与える種族と聞いている。それが憎しみの顔に見せる。あってはならない事だった。
「ヘレネ! そんな言葉を使わないでください!」
そう言ってマリサはヘレネに抱きついた。そして同じく涙を流した。
「大切な人が目の前で殺されて憎むのは分かります。でも・・・・・・あなたは天使です。憎しみに囚われるなんてあってはならない事です」
「でも・・・・・・」
「ヘレネ! 俺達が必ず敵を取る! パモーレはいずれ倒さなければならない敵だ! だから、今は――」
リヴァルのその言葉にヘレネは頷いた。
「ヘレネ、今は休みましょう。神父様に言って部屋を貸してもらいましょうね」
「・・・・・・うん」
マリサはヘレネに寄り添いながら礼拝堂から出て行った。
「さて――でかい口叩いたが、何かいい案あるか?」
リヴァルの問い掛けにバロンもアルも黙ったままだ。
「だよな。あの怪人――倒す方法あんのか? 俺でも勝てる気がねぇしな」
「ここで言うけど、残念なお知らせだ。奴の使いがもうこの教会の外にいるよ。匂いを嗅ぎ付けたみたいだ」
アルの感知魔術により、パモーレの部下が近くにいる事にリヴァルとバロンは落胆した表情を見せる。
「出た途端狙われるかな?」
バロンが言った。
「さすがにこんな街でドンパチはやらないとは思うけど、追跡されるのは間違いないだろう」
「打つ手なしか――参ったぜこりゃ」
そう言ってリヴァルは頭を掻いた。バロンも思いつかない様子であったが、アルだけは考え事をしていた。
「いや・・・・・・ここから出て追っ手を巻けるかもしれない」
そのアルの言葉にリヴァルとバロンは驚く。
「どういう手があるんだいアル?」
バロンの問いにアルは笑顔となって答える。
「イーセのマルクからあの話を聞いたなら君達なら分かるはずだ」
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