28 光と闇

 この世界最高の種族にして最強の種族と言われる天使は光属性の魔力を身に宿している。天界に住み、古来地上を天上から見守っていた又は支配しているとも言われ、人間からは崇められてきた。

 当然、リヴァル達も例外ではない。マリサを筆頭にリヴァルとバロンはその場に跪く。


「カーク!」


「ヘレネ様! ご無事ですか?」


 天使カークは空からゆっくりと降りて来る。

 周囲の子供達とイワンは光の槍が突き刺さったまま身動きは出来ない。天使の魔法。光の魔法は下界の者には未知の領域だ。今の今まで誰一人生まれ持った者はおらず、当然使える者もいなかった。マリサが生まれるまで人間に宿る事など信じられていなかった。

 地上にゆっくりと降りたカークにヘレネは抱きついた。


「カーク! カーク! 会いたかったよ!」


「それは私もです! ヘレネ様! こうしてお会いできるのは主の導きがあってこそ。神よ感謝します」


 カークを包んでいた光は収まる。ヘレネは泣き出していたが、それは当然うれし涙だ。


「ところでヘレネ様・・・・・・この者達は?」


 カークは周囲を見渡しながら言った。


「てっ天使様! どうか御慈悲を! この子達は私達を攻撃していましたが、罪はありません」


 マリサが顔を上げ言った。


「どういう事だ娘よ? 私は見たぞ。子供とはいえ天使の攻撃するとは許しがたき行いだ」


「分かっております・・・・・・ですが」


「彼らは操れているかもしれないのだ天使様」


 アルが告げた。その言葉でアルを見たカークは驚きの表情を見せた。


「エルフ!? 人間とは相容れぬ者達だと聞いていたが、どうして人間といるのだ?

 」


「ははっ。まあ、色々ありまして話すと長くなりますが、ここはどう彼らをお許しください」


「だがな・・・・・・」


「お願いカーク! 私と同じぐらいの子達だよ!」


「ヘレネ様まで・・・・・・分かりました。ですが、あの男は例外です」


 カークの送る視線にいるのは長身の男イワンだ。イワンは光の槍により身動きがとれず、固まったままである。


「微かであるが、あの男から闇の魔力を感じる。脅威ではないが危険因子だ。消滅させる」


 カークはそう言うとイワンの光の槍だけに魔力を注ぎ、力を強めた。そしてイワンの体は徐々に光の粒子へと変換させ始めた。


「・・・・・・これは」


 自身の体の変化にも最初イワンは大した反応を示さない。だが、感じられる光の魔力の温かさに気づいたのか、最後は穏やかな顔を見せた。


「・・・・・・これで・・・・・・かい・・・・・・ほうされ・・・る。ありが・・・とう」


 イワンは体は完全に光の粒子と化し、粒子は空高く舞っていった。


「最後の言葉・・・・・・感謝されるだと? どういう事だ」


 腑に落ちない様子のカークだったが、そのまま子供達に刺さる光の槍も操り、一瞬にして全ての子供達を気絶させた。子供達を無力化させ、体に刺ささっていた光の槍は消滅した。


「気絶させた。これでもう安心だろう」


「すげぇ――これが天使の力か!」


 別格の力を見せる天使にリヴァルさえも感心の言葉を呟いた。

 カークは完全に周囲に脅威が無くなったと判断したのか、安堵の溜息をついた。


「ありがとうございます天使様。私達をお救いくださり感謝します」


 マリサが代表して言った。


「お前達を助けたわけではない。ヘレネ様がいらっしゃったからだ。勘違いするな。それとこれまでの事の顛末を語ってもらおうか? 場合によってはお前達に天罰が下るぞ」


「カーク! 皆は悪い人じゃないよ! 私を天界に帰そうとしてくれたんだよ! 皆は私の仲間・・・・・・友達だよ」


「ヘレネ様! 下界の者共と友達だなんて――騙されておられますよ」


「カーク! 何てひどい事を言うの!? 私を信じていないの!?」


「いいえ! 決してそんな事は! しかし、下界の者共は我ら天使と比べ・・・・・・」


 その時だった。カークは目の前に跪く一人の女の子から自分達と同じ魔力を感じる事に気づく。


「おい! 小娘! 魔力を高めろ!」


 魔力を高めるとは宿る魔力を増幅させる行為の事である。この世界での魔力は身体に生まれ持って宿る力であり、この世界の人間は多少なりとも魔力を宿していると考えられている。

 高める行為は魔力を宿す者に、最初に教えられる技術の一つである。


「は、はい。天使様」


 マリサは言われるがまま魔力を高める。聖女候補としてある程度魔力と魔法について教えられていたマリサは問題なく出来た。魔力を高める行為は体内の力を大きくするイメージを何度もする事で慣れていき、熟練者となれば違う事をしながらでも行う事が出来るようになる。


「ま、間違いない!? この娘から感じられるのはまさしく光の魔力! 人間が! しかもこんな小娘が光を宿すなんて」


「私も改めて感じたが、まさしく光の魔力だ。そう・・・・・・彼女は聖女候補。神教の聖女候補だ。故に天使と同行している」


 アルも改めてマリサの魔力を感じ取り、驚きを隠せない。

 人が光の魔力を宿す。こんな事は今までになかった事だ。


「分かった・・・・・・お前達はどうやら神に選ばれた特別な存在なようだ。天使である私を驚愕させた。これは凄い事だ」


 カークの言葉にマリサは赤面した。一方、リヴァルは気にくわないのか頬を膨らませた。

 その時である。カークとアルは近づく脅威に気づいた。


「闇よ! 私に力を与えよぉぉぉぉぉ!!!! パモーレぇぇぇ!!!!」


 その叫びと共に黒い何かがリヴァル達を襲う。その黒い何かは堅いようで煙のようで水のようで、なんとも形容したがい存在であった。

 その得体の知れない黒き存在は天使カーク目掛けて飛んできた。カークは羽を広げ、光の防御魔術である「ライトウォール」を無詠唱で発動させ、自身を含めたリヴァル一行を守った。


「何者だ!?」


 カークは叫ぶ。そして翼を広げ、空へと上がる。


「パモーレ! 私はパモーレだぁぁぁぁ!!!!」


 その男は叫びながら現れた。

 パモーレ・クラウン。白い顔に赤い鼻、そしてオールバックの髪型に今日は上半裸の短パンの怪人は怒りの笑みを浮かべながらリヴァル達の前に姿を現した。


「ぐはぁぁぁ!! よくもイワンを! イワンを殺してくれましたね! ぐはぁぁぁ!! 下半身が許さないと言っているぞぉぉぉ!!!」


 パモーレはそう言いながら腰を前後に振り、卑猥な動きを見せつける。


「貴様! 天使のいる前でその様な下劣で低俗な動きをするとは! 殺される覚悟はあるか!」


 カールは光の魔力を高め、パモーレに手を向ける。


「天使! あはっ! 天使! いいねぇ! 最高ですよ! 天使とヤるのは初めてだ! 心が躍るぅー!」


 怒りの笑みから今度は赤面し笑みを浮かべたパモーレにリヴァル達は怪訝な顔を見せる。


「なんだあいつ・・・・・・気持ちわりぃな」


「頭がおかしいのか?」


 リヴァル、バロンはパモーレの不気味な動きに嫌悪しつつも、警戒する。


「おい、貴様。パモーレと言ったか?」


 カークが問う。


「なんでしょう天使? 私に惚れましたか?」


「黙れ。質問に答えよ。その闇の魔力・・・・・・どういう事だ?」


 闇の魔力。光と同じく特別な属性である。古来伝承されている属性ではあるが、忌ま忌ましい属性であると伝えられてきた為、研究などはほぼされておらず、得体の知れない魔力属性とされてきた。


「教えないよ! 私と僕と俺と恋人になってくれたら教えちゃうかな?」


「話にならぬな。狂気が頭に詰まっている様だ。早急に滅してやろう」


 カークがそう言った直後、パモーレの体に何本のも光の槍が突き刺される。


「やった!」


「瞬殺じゃねぇか!」


 バロンとリヴァルが喜びを帯びて言った。だが、パモーレは笑みを浮かべ、得体の知れない闇の物体で光の槍を取り込んだ。


「なーんだ・・・・・・天使ってこの程度か」


 そのパモーレの声のトーンは明らかに違った。 

 闇につつまれた光の槍は完全に消え去っていた。パモーレの体にも傷一つない。


「バカな・・・・・・」


 カークの表情はこわばる。


「はぁーー天使相手だから期待してたけど、ガッカリだ。まあ、こちらは何百年も闇の魔力を高めてきたし、当然か。どうやら君、天使としては若造みたいだね」


「何百年だと? 何を言っている?」


 人間が何百年も生きていられるはずはない。長生きしても百年が精々だ。


「僕がただの人間だと思った? 残念でした! 君より長生きだよ僕ぅ!」


 パモーレはそう言うと笑みを浮かべる。


「きっ貴様・・・・・・何者だ? 人間なのか?」


「人間・・・・・・人間だった何かかな? まあ、お話はこれぐらいにして・・・・・・犯される覚悟は出来た?」


 その言葉にカークは恐怖を感じたのか、顔から余裕が無くなった。そして唇を噛む。


「おいエルフと聖女よ!」


 カークの突然の叫びにアルとマリサは驚きつつ、「何だい!?」「は、はい」と答えた。


「どうやら私はここまでの様だ・・・・・・ヘレネ様を頼む」


 カークはそう言うと両手に光の槍を両手に出現させ握る。


「何を言っているんだ? 私達も戦う! 数ではこちらが有利なんだ。きっと――」


「分からないのか!? こいつの魔力量が!」


 アルの言葉にカークは激しい口調で言い返した。アルはそう言われ、改めてパモーレの魔力を感知した。しかし、アルの感知魔術では膨大な量は感じられなかった。


「ふん・・・・・・エルフでもわからなぬか――まあ、しょうがない。ヘレネ様を任せた。行け!」


 アルは納得していない様子であるが、天使の言う通りにするべきと判断したのか一番に先に出てリヴァル達を誘導する。


「行くぞ皆! ここは逃げる!」


「やだ! カークも逃げるの!」


 ヘレネがそう言った瞬間、パモーレの闇の物体がヘレネ目掛けて飛んできた。あまりの早さにリヴァル達一行は誰一人反応出来なかった。


「逃がすかよ! 天使ちゃぁぁぁん!!!!」


 リヴァル達一行の誰もがやられると思った瞬間、天使カークがその攻撃を寸前で受け止めて跳ね返した。


「何をやっている人間ども! さっさとヘレネ様を連れて逃げろ!」


 ここでやっとカークの本気を知ったのか、マリサはヘレネを抱きかかえて、走り出す。


「離してよマリサ! カークが! カークが!」


 ヘレネの目は涙目になっていた。


「ダメです! ここから逃げろと言われた以上、逃げます!」


 アルを先頭にマリサが続き、バロンとリヴァルが背後を守るように続いた。


(いいぞ・・・・・・そのままだ。どうかヘレネ様を)


 逃げるリヴァル一行を傍目で見ながら、カークは光の槍で戦った。この時はまだ互角の戦いを繰り広げていたが、リヴァル達が完全に見えなくなると気が緩んだのか、白く美しい翼の一端が赤く染まった。


「ひっ! ひいいっ!! 命乞いなんてしないでくださいよぉぉぉ!!!!」


「天使を――舐めるな! 悪魔がぁぁ!!」






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