26 変態

 男はエルフだった。快晴の下、男はそのたくましい白い肉体を晒していた。何も着ずに。


「おや!? ウルスラではないな!」


 男はリヴァル達を見下ろしていた。そして何も恥ずかしがる様子もなく仁王立ちである。


「きゃああああ!!!! 変態です! 変態がいますよ!」


「あっ! ちんち○だ! ちんち○だよマリサ!」


 悲鳴を上げ、右往左往するマリサに対し、ヘレネは至って冷静というか子供の無邪気な顔で何と指でそれを指した。


「うわぁあああ!!!! 天使様があんなお下劣な物を見てはいけませんよ!」


 マリサはそう言ってヘレネの目を塞いだ。


「おいてめぇ! 汚ぇもん見せんじゃ・・・・・・おい、バロン! あいつのちん○すげぇ白いぞ! 何もんだあいつ!」


「感心してる場合か!? とりあえず警戒しようよ! 変態だよあの人!」


バロンのその言葉で金髪の男は我が身を見て言った。そして赤面し身を捩る。


「おっと! 全裸なの忘れてた!」


「いや! 忘れないよね普通!」


 つい、バロンは突っ込んでしまう。


「女の子がいたのか。これは失礼したよ」


 男はそう言って大事な所を一枚の草で隠し、建造物の上から跳んで降りてきた。

 その降りてくる課程は無駄に美しい。


「まさかオカリナが鳴るとはね。ついウルスラか誰かが外界に出てきたかと思ったよ」


 男のエルフはいかにも色男と言った感じである。肉体は適度に鍛えられており、ムダ毛が一つも無い。彫刻の様な体だ。


「ウルスラって・・・・・・あの、まさかあなたは・・・・・・」


 赤面し目を隠しつつ震える声でマリサは問い掛ける。


「ぼ、冒険エルフですか・・・・・・?」


「ああ! 巷ではそう呼ばれているね!」


 男は笑顔で言った。そしてその笑顔は美しい。と言うよりも男はエルフの美形がさらに磨きがかかった美形と言ってもいいぐらい男前のエルフだ。一目でそこら辺の町娘や村娘が瞬く間に惚れ群がってもおかしくないほど顔が整っているが、下の草一枚で今は台無しになっている。


「あの・・・・・・もしかしてお名前はアルというお名前でしょうか?」


 バロンが戸惑いながらも聞いた。


「ああ! そうだ! 僕がアルだ」


 そう堂々言ったアルにマリサの顔は血の気が引いてそのまま倒れた。


「マリサ! マリサが倒れたよ!」


 ヘレネが心配そうな顔をしているが、バロンはその症状が分かっている。


「てめぇみたいのが、エルフでしかも俺達が探していた冒険エルフだったなんてなんか笑えるぜ」


「面白いかい!? なら、良かった! 楽しい事は良いことだ! アハハハッ!」


 アルは完全にエルフらしからぬ言動だった。まるで村や町にいるお調子者の様な感じで、エルフ然としていたと思っていたと思われるマリサにはショックだったようだ。人前に全裸で現れ、たいして恥ずかしがる素振りを見せない。変わり者だったとウルスラは言っていたが、それを通り越して変態である。


「あんた本当にエルフかよ? 全然エルフって感じしないな」


 リヴァルが言った。


「おいおい君! まるでエルフ知ってる感じで話すけど、君は知ったような口をきけるほどエルフと会ったのかい?」


「まあ、そう言われるとそうではないけどよただ、あんたの許嫁に会ったぜ。つい数日前だ」


 そのリヴァルの言葉を聞き、アルは腕を組み納得した様子で言った。


「なるほど! だからオカリナが反応したのか」


 アルはそう言って背後からオカリナを取り出した。それを見ていたバロンは(どこから取り出した!?)と心の中で思うのであ


「質問してもいい?」


 ヘレネが問う。ほぼ全裸のアルに戸惑いながらも誰もが聞きたい事を聞く。


「どうして全裸なの?」


「ほう――いい質問だね」


 アルは万遍の笑顔で答えた。シュールである。


「あれは晴れた日・・・・・・そう、今日の事だ」


(昔話みたいな言い回しで結局、今日の事!?)


 とバロンは心の中で突っ込んだ。


「とある家で目覚めた私の目の前にとてもも厳つい男が立っていたんだ。その男はとても怒っていた。どうしてだが分かるかい?」


 アルはそう言ってリヴァルを見た。


「えーと、勝手に寝ていたから?」


「ほほう。確かに勝手に寝ていたけど不正解だ!」


「はい! 勝手におやつを食べたから!」


 ヘレネが実に子供らしい発想で言った。そんなヘレネにアルは笑顔を見せる。


「食べたか・・・・・・それも惜しいな!」


 その二つの回答と街で聞いた冒険エルフの噂を覚えていたバロンは嫌な予感がしたのか、気まずい顔を見せる。


(まさか・・・・・・)


「正解はその街のボスの女とやっちゃって、現場を見られてキレられたでした! そして全裸で逃げて来たってわけさ!」


 そのアルの言葉にバロンは赤面しつつ唖然とし、リヴァルはニヤニヤし始めた。そして目を覚ましたマリサとヘレネはポカンとしていた。そう、意味が分からないのである。


「あの・・・・・・アル様? やっちゃったとはどういう意味ですか?」


「マ、マリサ! おめぇその意味分からないのか!?」


「はい」


「この場合のやっちゃったて言うのはなあ、セッ」


「おいいいい!!!! リヴァル言うな! マリサは神教徒だろ! それにヘレネのいる目の前で言って良い単語じゃないよ!」


 珍しくバロンが慌てふためいてリヴァルを制止する。そう、バロンもお年頃。それなりに興味はあり、意味は知っている様だ。


「おい! 離せよバロン! マリサに教えてやるべきじゃねぇか!?」


「だからって今日じゃないだろ! というかリヴァルが教えていいもんじゃないかな!?」


 リヴァルとバロンは二人はマリサ達から少しずつ離れていく。マリサはポカンとしつつ、ある自体に気づいてアルに言った。


「あの・・・・・・アル様」


「なんだいお嬢さん?」


「早く服を着てください――!」











 アルがダイラート地下迷宮に来た理由。それは迷宮内に作った専用の部屋に来る事であった。隠し部屋を作る。エルフにかかればダンジョンのリフォームなど可能だ。

 緑色を基調とした服と特徴的な帽子を被ったアルの姿は巷で噂された冒険エルフでそのものであった。


「待たせたね」


 地下迷宮の隠し部屋から出て来たアルを待っていたのはリヴァルだ。他の三人は地上にて野営の準備をしている。もう、既に時間は夕暮れ。今日は五人で野宿である。


「それで話を聞かせて貰おうかエルフさんよ・・・・・・」


 神妙な面持ちでリヴァルが問う。


「少年よ。この冒険エルフに聞きたい事とは?」


 リヴァルの神妙な顔に神妙な顔でアルは返す。


「あんた・・・・・・女好きだってな。街で聞いたぜ」


「そうか・・・・・・私は世の中ではそういう風に言われていたのか。まあ、本当の事だしいいのだが」


「そうか、本当なのか――なら聞かせてくれないか?」


「何をだい?」


「一体、どんだけの女を抱いてきたんだ? そこんとこを詳しく聞かせて貰いたい」


「ほほう。少年よ・・・・・・スケベだな」


 アルはニヤリとそう言った。リヴァルは赤面する。


「うるせぇ! 興味があってわりぃかよ!」


「ははっ! 安心したまえ、人間の性については知っているさ。君ぐらいの歳は思春期だから興味を持つ時期なんだろ? 私の経験に興味を持つのも理解出来る」


「なら――」


「いいだろう。聞かせてあげよう」


「ありがとよ! 師匠と呼ばせてくれ!」


「おいおい。私はそんな偉くないよ」


「あっ! エロいの間違いだったか!?」


「ははっ! 面白い事をいうな君は」


「おい、リヴァル・・・・・・遅いと思ったら無駄話していたのか」


 その声にアルとリヴァルは振り向いた。そこには呆れた顔のバロンが立っていた。


「おいバロン! このアル師匠からエロ話聞こうぜ!」


「そんな事よりご飯だよ。上で二人が待っているぞ」


「そんな事言ってお前も興味あんだろ! 超男前エルフの武勇伝を聞こうぜ!」


 そのリヴァルの言葉にバロンは顔を赤くする。彼も年頃。興味が全くないわけではないはずだ。


「ぶっ武勇伝って・・・・・・そういうのは武勇伝とは言わないじゃないかな」


「つまんねぇなバロン! 男の武勇伝にはそういう事も含まれているんだぜ!」


 そのリヴァルの言葉にアルは黙って頷いた。


「だからって・・・・・・今、話す事じゃないだろ! さっさっとご飯にしよう!」


「はぁ・・・・・・へいへい、分かったよ。まあ、飯食う前にこういう話はしない方がいいかもな」


「確かにお腹は減ったしね。夕飯にしようか」


 三人は地下迷宮を出て夕飯を用意しているマリサとヘレネと合流した。ヘレネは普段と変わらないが、マリサはアルを見て赤面する。


「アル様」


 アルはマリサに近づくが、マリサはその分アルから距離を取る。アルはそのまま近づこうとするが、マリサはその分距離を取る。


「えっと・・・・・・どうして距離を取るのか教えて貰いたいのだが?」


「不潔だからです。冒険エルフがこんなお方だったとは・・・・・・」


 ウルスラと同じく高貴なイメージを持っていたのかマリサの顔はいつの間にか赤面から軽蔑の目となっていた。そう、マリサは完全にアルを警戒している。


「ぐはっ! 久々だ! 女性からこんな目をされるのは! でも――これもたまにはいい!」


「何がいいの?」


 無邪気な雰囲気で近づいてきたヘレネ。それに対しアルは笑顔を見せる。


「ヘ、ヘレネ! そう安易に近づいてはなりませんよ!」


 マリサの言葉を聞いてもヘレネは警戒心はない。


「失敬だな! 天使に手を出すとでも! しかもこんな幼い子だぞ。私の範囲外だ!」


「は、範囲外?」


 マリサはその意味が分からない。

 アルはヘレネの手を取ると軽くキスをした。


「これは幼い天使様。とても可愛いですね。どうせなら十年後ぐらいに会いたかった」


 ナチュラルに口説き文句を言うが、ヘレネは意図を理解していないのか、万遍の笑顔で言った。


「ありがとう!」


 その無邪気な笑顔にアルはつい赤面してしまう。こんな純粋無垢な子に口説き文句を言ってしまった事を後悔したのか、そのまま手を胸に当て、跪いた。


「天使様。悪乗りが過ぎました。謝ります」


 謝るアルにヘレネは意味が分からず首を傾げた。


「ごほん!」


 マリサが咳払いをした。


「それではお食事の後、アル様に事情をお話しましょう。どうかこの天使様をお救いください」


 五人はたき火を中心に座って食事を終え、今までの経緯をマリサはアルに話した。アルは真剣な面持ちで聞いていた。


「神教の予言者の言葉通りあなたを探している最中、マルクさんと出会い。あなたの話を聞きました」


「そうか・・・・・・マルクと会って私との事を聞いたか。元気かい彼は?」


「ええ。元気でしてたよ。あなたとの話は懐かしそうに話していました」


 バロンが言った。


「ウルスラはどうだった? 元気かい?」


「生意気な女エルフだったぜ。上から目線でむかついたが、オカリナくれたおかげであんたと出会えたからまあ感謝してるぜ」


「ははっ! ムカついたか! それはしょうがないだろう。なにせエルフはそういう教育をしているからね。エルフは天使に次ぐ高貴な種族である。だからそれ相応の振る舞いをせよだから」


 アルは少し懐かしそうに語った。


「それではアル様。天使ヘレネを天界にお返しするのを協力してほしいのです。私達一行と同行して頂けますか?」


 そのマリサの問い掛けに真剣な顔でアルは見つめ言った。


「ああ。もちろん協力させて貰う。こんな可愛い天使の子を見捨てる事は私の理念にも反するしね。よろしく頼むよ」


 その言葉を聞いたリヴァルは喜びから手を上げた。


「よっしゃあああ! これでこの旅は半分達成されたもんだろ! まさか冒険エルフとこんな所で出会えるなんて俺達ついてるな!」


「はぁ・・・・・・私は正直、信じられません。人前にぜ、全裸で現れる人があの冒険エルフなんて・・・・・・でも、オカリナが反応した以上、本物なのですよね」


 そう語るマリサは見るからにショックを受け落胆している。無理もない。マリサはエルフとは高貴な種族と教わっている。そのイメージを崩壊させたアルは偽者かもしれないと思ってしまうのだろう。


「いやぁ! マリサちゃん! こういうエルフもいるって事でいいかな」


 笑顔でアルは言ったが、マリサは半目で小さな声で「エルフ様でも気安く名前呼ばないで下さい」と呟き、アルの笑顔は引きつった。


「えっと・・・・・・バロン君だっけ? 君は西の大陸から来たんだね。とても遠い所からその歳で来るなんて凄いよ」


「いいえ。あなたほどではないですよアル様」


「その様呼びはいい。アルでいいさ。皆もそうしてくれ」


 思いがけないアルの言葉にリヴァル達は顔を見合わせた。


「私はエルフを特別扱いする人間が嫌でね。普段は耳をごまかして街や村に行っているんだ」


 今のアルの耳は特徴的なエルフ耳であるが、人の街や村に出向く時は魔術にて人間耳に変化させている。人前で晒すのは気を許した何人かのみで、街にいてもそうそう見つからないのわけである。


「なるほど。どうりで見つからないわけだ」


 バロンが呟く様に言った。



「では、改めて自己紹介をしよう。私は巷で冒険エルフと呼ばれるエルフ。アル・アーノテル・ギテアナ・ガザリーデだ。エルフの社会を窮屈と感じ、外の世界に興味を持った変わり者のエルフさ! 今年でちょうど二百歳! バリバリの独身だよ!」


 最後の一言はどうでも良かったが、さすが長命種であり、リヴァル一行の中であっと言う間に年長者である。ただ、エルフの二百歳というのはエルフ界では若造扱いである。


「家名まで僕達に晒してよろしいのですか? エルフの姓は人間に晒してはならないのがエルフの掟だったはずですが?」


「ほほう。よく知っているねバロン。気にしないでくれ、私は里から出た時点で家からは勘当されている身のはずだ。故に言ったところで問題ないかな。家の名簿からは私の名は消えているだろう」


「そうでしたか、失礼しました」


「バロン。私にはもっとフランクでいいよ。皆もそうしてくれ」


「えっと・・・・・・はい」


 やはりバロンもエルフには失礼のない態度で接する事と教えられた為、エルフらしくないエルフのアルに慣れない。


「では、バロン。君から自己紹介を頼むよ」


「は・・・・・・う、うん」


 アルを前に改めて自己紹介をする。


「僕はバロン。西の大陸ガラン王国から来た魔術師です。師であった叔父の死をきっかけにこの大陸の弟子の方に会うため東の大陸まで来ました」


「へぇー魔法使いか! 人間の魔法使いは色々会ったけど、西の大陸の魔法使いはあんまり会ったことがないんだ。これからよろしくバロン!」


「ああ、アル。こちらこそ」


「次は俺だ!」


 そい言うと、リヴァルは立ち上がった。


「俺の名はリヴァル! 東の大陸アルドアの王国剣士だ! 小さい頃から次世代の最強とうたわれ、同世代では敵なしの将来有望の剣士とは俺の事よ!!」


 リヴァルの自己紹介を聞き、アルは少し考え込むと何かを思い出した様に言った。


「ああ。王都アヴァニアの大会で準優勝だったよね! 最初いい勝負してたのに後半バテて負けたって」


「おい! 巷ではそう話されてのか!? 俺は弱くねぇからな! 勘違いするなよ!」


「分かっているよ。私は情報通だから知っているだけで、こんな隣国では君の事なんてあんま知られてないよ」


 そのアルの言葉を聞いてリヴァルはショックを受けた様だった。


「そ、そんな! 俺ってばまだそこまで有名じゃないのか?」


「当たり前だと思います。あなたと私は精々王都近隣の地域で有名であって隣国までその名が轟いていたとは思えません」


 マリサの分析にさらにリヴァルはショックを受ける。


「く、くそ! いつか東の大陸全土に俺の名が知れ渡る程の偉業を成し遂げてやるぜ!」


「ハハッ! 期待しているよ天才剣士君。それで神教徒のマリサちゃんはどういう子なのかな?」


 マリサに自己紹介を促す様な言い回しでアルはマリサを見た。その視線にマリサは溜息をついて、自己紹介を始める。


「私の名はマリサ。神教の信徒です。一応、私は聖女候補です。よろしくお願いします」


 実に簡素な自己紹介だった。それもそのはずで、マリサはアルを警戒し軽蔑している様なのだ。


「おい! もっと言う事あるだろが! 光の魔法が使えますとかよ」


 リヴァルが言った。


「人が光の魔法を!?」


 アルの顔が一瞬で変わった。驚嘆の表情である。


「ええ。彼女は特別なんだよ。僕も最初は驚いたよ。人の身で光を宿すなんて初めての事例だろう」


 バロンがかつての自分を見る様に言った。


「通りで聖女候補のわけだ。ハハッ! この一行はとんでもないね。私なんかいていいのか」


「おいおい天下のエルフ様が何言ってんだ? こんな一行全世界探してもねぇだろ?」


「そうだよ。天使とエルフがいる時点でありえないよ」


 リヴァルとバロンがそう言うと、アルは恥ずかしいのか頭を掻いた。


「そう言って貰うと嬉しいよ。私はこんなエルフだけどね」


「私は正直、あなたを信用しておりませんアル」


 そう言ったのは当然の如く、マリサだった。


「あなたの言う事を聞く限り・・・・・・パ、パートナーがいる女性と、そ、そういう関係を持つ不埒者です! 神教としては到底許せないです!」


 赤面をしつつ、バロンからアルの言葉の意味を知ったマリサは怒る様に言った。そんなマリサにアルは真剣な顔を見せたと思うと、瞬く間に笑って言った。


「だって相手の方がしつこく抱いてって言ってくんだもん!」


「こっ断って下さい!」


 マリサは赤面したまま叫ぶ様に言った。それに対しアルは懲りている様子はない。性倫理については比較的厳しい掟がある神教の信徒であるマリサとエルフの里を出て数十年も放浪したアルの価値観の差は当然の如く大きい。そもそもエルフの性倫理もどちらかと言えば厳しい方であったが、すっかり俗にまみれたアルはもうエルフの掟を守る気などほとんどないようだ。


「こっこんな人がエルフなんて・・・・・・ショックです本当」


「大丈夫! これから惚れさせてあげるから!」


「何が大丈夫か分かりません! そ、それに惚れませんから!」


「おいおいアルさんよ! こんなぺッタンコのどこがいいんだ? 惚れさせるならボインボインな姉ちゃんだろ!」


 リヴァルの発言にバロンは心の中で「余計な事を・・・・・・」と呟くのであった。


「ほう、リヴァルはボインボインがタイプなのかい? まあ、気持ちは分かるよ。同じ男だからね。でも、デカければいいと言う事でもないとここで教えて――」


 そう語るアルはリヴァルが頭にタンコブが出来て完全に気を失っているのを途中で気づいた。そしてマリサが怒ってどこかへ行ってしまう。


「ほう・・・・・・これはこれは」


 感心するアル。バロンはリヴァルを呆れた顔で見た。


「それでは最後だ。天使のヘレネちゃん自己紹介してくれるかい?」


 今の今までヘレネが黙っていたのは眠たそうにしていたからである。もう既に夜になっって数時間が経っており、子供には眠たい時間だった。


「えっ? あっうん!」


 眠たい目をこすってヘレネは立った。


「私の名前はヘレネです。天使です」


 それだけだった。アルはニコニコ笑い言った。


「出来ればフルネームを教えてほしい」


「えっと・・・・・・お父様から決して人間の前で名を全て言うなと言いつけられていて・・・・・・」


「だろうね。でも、私の――エルフの前ならいいだろう」


 そのアルの提案にヘレネは少し考えた末、笑って言った。


「そうだね! エルフの前なら――」


 そう言ってヘレネは咳払いをし、改めて自己紹介をした。


「私の名前はヘレネ・ルシファーです! 天使です!」


 その家名を聞いた途端、アルは驚嘆し立ち上がった。その顔は今まで見せなかった驚愕の表情であった。


「ル、ルシファー家だと!?」


 バロンはアルの驚きの理由が分からず、ポカンとするのであった。










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