25 ダンジョン
その後、リヴァル一行は村へと戻り、結果的にワイバーンを退治したので村人達から歓迎を受けた。そして村長ロトにこれまでの経緯、天使とエルフについて話し他言無用と約束を取り付けるのであった。
「お世話になりました村長。昨晩話した通り誰にも話さない様お願いします」
「お安いご用です。息子を助けて貰った事に比べれば」
翌日の早朝。リヴァル達四人は村を出発し、次の目的地に向かう。村の出入り口に村長と数人の村人が見送りに来ていた。
「息子もあなた方を見送りたいと言っていましたがあの体では、代わりに息子の礼を述べさせてください。本当にありがとうございます」
村長はそう言って跪いた。
「いいぜおっさん。そこまでしなくてもよぉ」
「そうですよ。我々は対して何もしていませんし」
リヴァルとマリサに促される様に村長ロトは立ち上がった。
「では、私達は行きます。お世話になりました」
そう言ってマリサを筆頭に四人は村を立つ。ただヘレネ一人が見えなくなるまで手を振って「バイバイ」と叫び、村人達も手を振って答えた。
「ところで何でヘレネとウルスラの事を黙らせたんだ?」
村が完全に見えなくなった所でリヴァルがマリサに尋ねた。
「あなたはもう忘れたのですか? ヘレネがどうなったかを?」
「はぁ? どうなったって?」
マリサが呆れた顔で答える。
「最初、ヘレネは誘拐されたの忘れたのですか? 余計な情報を流さない為にも黙って貰ったのです」
「ああ! そうだったな! 盗賊なんかに目をつけられるのを防ぐ為か」
「本当、バカですよねリヴァルは」
「なんだと!? 確かに俺はバカだが、ただのバカじゃねぇぞ!」
「ただのバカがバカとどう違うのですか? 意味不明ですよバカ!」
「バカバカ言うんじゃ人権侵害だろうが! 」
「何賢そうな言葉使ってるんですか? 人権侵害? リヴァルから聞くなんて凄く意外ですね!」
「えっ? 昨日の夜、バロンに教えて貰った」
その言葉でマリサはバロンを睨んだ。それに対し、バロンは苦笑いで答えた。
「ふん! どうだ! 次、言ったら訴えるからな!」
「・・・・・・どこに訴えるかご存知でリヴァル?」
その問いにしばらくリヴァルは考えた後、不抜けた顔で「分からん」と答えた。
「やはりバカですね」
「また言いやがったな! 訴えてやる!」
こうしてリヴァルとマリサが漫才を繰り広げながら、四人はオリエナ高原を後にした。
オリエナ高原を後にして三日後、四人は冒険エルフの立ち寄りそうな秘境。高原から最も近いダンジョンに向かっていた。
そのダンジョンの名はダイラート地下迷宮。アルドア王国の隣国ダイラート共和国にあるダンジョンで、数々の冒険者が挑みながらも全てが解明されていない地下迷宮である。草原にあり、何の変哲もない出入り口がある迷宮である。
「オカリナを貰ったとはいえ、まだ冒険エルフに会える確率はそう高くねぇよな」
晴天の下、街道を歩く一行。リヴァルが呟く様に言った。
「確かにそうだけど、何もないよりマシだよリヴァル」
バロンが言った。
「そうですよリヴァル。これもあのエルフ様に出会えた幸運を感謝しなければなりません」
マリサとバロンの言う通りで、エルフと出会える事自体人生に一度あれば良い方と言われている。そもそもエルフ自体が人間を遠ざけているとされており、ああして話してくれた事自体幸運なのである。
「確かにそうなんだろうけどよ。俺の喋るワイバーンと出会った事の方が奇跡的じゃねぇか?」
そのリヴァルの言葉にマリサとバロンは確かにと思ってしまったのか、返す言葉はない。
「ま、まあ、よく考えたらそうかもしれませんね。けれど、探すのはこれで少し楽になったのは事実です」
「まあな。仕方ねぇけど地道に秘境巡りだな」
四人はしばらく歩いた後、ついにダイラート地下迷宮がある草原地帯にたどり着いた。
「あっ! あったよ!」
空を飛んだヘレネが大声で言った。そして地下迷宮の出入り口の石の建造物を指さした。
話に聞いた通りの石造建築物の出入り口で古びた外観から古代の遺跡だと思わせる。
「ここがダイラート地下迷宮か」
リヴァルが呟く。ヘレネは降りて来て一人出入り口に近づいた。
「冷たい空気が流れて来てるよ」
「そうだろうね。地下は地表より寒いから、空気は冷やされるんだ」
バロンが説明する。
「へぇーー。じゃあ、もしかして厚着しないと凍え死ぬの?」
「いや、そこまでは寒くないよ。ただ、長い時間留まると体を冷やすかもね。念のため、僕が全員に防寒魔術を掛けておこう」
バロンはそう言って全員に簡易的な防寒魔術を掛けた。
「おい、マリサ! 例のオカリナは鳴ってるのか?」
「いえ、鳴っていませんね」
オカリナは鳴らなかった。そもそもどれぐらいの距離にいれば鳴るのか教えて貰っていなかった。
「あの女、これがどれぐらいの距離で鳴るのか教えてくれなかったな。気がきかねぇぜ」
「こらリヴァル。エルフ様の悪口はそこまでにしなさい」
「はいはい、分かったよ。まあ、地下迷宮は興味あるから潜る事には変わりねぇし、さっさと行こうぜ」
「うん!」
リヴァルとヘレネが先行して迷宮に入った。マリサとバロンもそれに続いた。ヘレネは光の魔力を用いて、手の平に光を灯す。
「私が光りで照らすから、皆はついて来て!」
どうやらヘレネは地下迷宮を楽しんでいる様だ。
「大丈夫でしょうか。地下迷宮には魔物もいるはずですが」
「安心してマリサ。僕の感知魔術では付近に協力は魔物はいないよ」
四人は地下迷宮を進む。一層なので複雑な作りはしておらず、容易く二層目に続く階段に辿りついた。
「二層目も大した魔物がいないな。このまま解明されてる十層まで行こうか」
バロンの感知魔術にて下の階層をスキャンしながら進む。途中、ヘビの一般的な魔物ポイズン・スネークや土竜の魔物グランド・モールと出会い戦闘になるも主にリヴァルが倒し、そう苦労もせずに五層まで一行は進んだ。
「この地下迷宮。出てくる魔物は大した強さじゃねぇな」
「この地下迷宮は割と初心者冒険者が経験を積みに来る場所として有名だ。粗方、強力な魔物は狩り尽くされているだろう」
「そうだったのか。まあ、十層より下に行けば狩られていない魔物いんだろ?」
「十層より下は無理だよリヴァル」
「どうしてだ?」
「昨日、立ち寄った町で聞いた。十層の奥には開かない扉が何個もあるらしい。どんな魔術を用いても解析出来ない上、どんな攻撃にもビクともしないと聞いた」
「へぇ。おもしろそうじゃねぇか! 俺がその扉ぶった斬ってやるよ」
「リヴァル。私達はここを解明しにきたのではありませんよ」
「分かってる分かってる。ついでだついで」
リヴァルはその後、意気揚々と出会った魔物を倒して行き、ついに十層まで辿りついた。
「よーし! ついに現最下層だ! 例の扉を探そうぜ!」
階層についた途端、リヴァルはワクワクした様子であちこちを調べ回る。
「どこにあるんだその扉? 全然見当たらねぇぞ!」
魔物を倒しながら回るリヴァル。一人先行するので付いていくヘレネも大変であった。
あまりに先行するので、バロンが杖に火を魔術にて灯した。
「十層は広いんだ。あまり、あちこち動くなリヴァル」
「大丈夫だって! ここの魔物も大した強さはねぇ」
「リヴァル! 好き勝手動かないでください」
バロンとマリサの忠告を無視しつつ、ついにリヴァルとマリサは開かずの扉を一つ見つけた。
「あった! おい! あったぞ!」
リヴァルは叫んだ。そこは大きな広間で、一つの光では全て照らせない程広かった。そこには魔物の亡骸も無く。ここまでの迷宮の通路や小部屋と比べると綺麗な場所であった。
「ここが開かぬ扉の一つか・・・・・・」
バロンが辺りを見渡しながら言った。
「よし! この扉を斬って開けてやるぜ!」
リヴァルが一人大きな扉の前に立つ。
「リヴァル。開いても開かなくてももうこの地下迷宮からは出ますからね。冒険エルフはいないと分かった以上、長居はしませんよ」
「はいはい、分かってるよ。さっさと斬ってずらかるよ」
リヴァルはそう言って剣を上げて瞬く間に扉を切り裂いた。が、扉には傷一つ付かない。
「へぇ。さすが開かずの扉だな。俺の剣技が通用しねぇ。だが、次は・・・・・・」
「リヴァル。さっさと戻りましょうね」
笑顔でマリサは言った。だが、その笑顔はどこか恐ろしさを感じさせる。ただリヴァルは「はい」と言うだけだった。
ダイラート地下迷宮には冒険エルフはいなかった。四人にとって結果的に無駄なダンジョン探索になってしまったが、どうやらリヴァルは魔物を斬り伏せて満足だった様だ。地上に出るまでリヴァルは満足そうであった。
「さてと! 次の秘境へ行きますか」
地上に一番に舞い戻ったリヴァルが高らかに言った。そして言った直後に背後に気配を感じ振り返る。それと同時にあのオカリナが鳴った。
一同、タイラート地下迷宮の出入り口にある石造建築物の上に立つ金髪の男を見た。そしてマリサは見た瞬間に悲鳴を上げた。
「きゃあああああ!!!!」
そう。金髪の男は全裸。スッポンポンだったのである。
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