22 青きワイバーン
ワイバーン討伐当日の朝。一行の中で一番朝早く起きたのはリヴァルだった。霧が足り込めた朝、一人剣の素振りをしていた。そこへリヴァルの次に早起きしたバロンが近づく。
「どういう気だいリヴァル?」
「どういう気って何だよ?」
明らかにバロンはリヴァルを信じていないようだ。無理もない。昨日行われた準備は明らかにワイバーンを舐めきった準備だったからだ。
「あんな縄でワイバーンに勝てるとでも追っているのか? 敵はあのワイバーンだ」
「ああ、知ってるぜ。安心しろ。バロン達は俺の後ろで待機していればいい。俺一人に任せろ」
そのリヴァルの言葉にバロンは眉をひそめた。
「僕達がそんなに頼りないかい? マリサは回復魔術に長けていて確かに後衛だが、僕は違うぞ。攻撃魔術はその辺の冒険者魔術師に引けを取らないつもりだ」
「へぇ、そうかい。だが、援護はいらねぇ。俺一人で勝てる。いや・・・・・・勝たなきゃならねぇ」
「――勝たなきゃならねぇとはどういう意味だい?」
「それは今日の戦いのお楽しみって事で」
「お楽しみって・・・・・・ワイバーンをバカにしているのか?」
「そんなつもりはねぇよ。まあ、見てろって」
リヴァルはそう言うと、素振りの速度を速めた。それを見たバロンはこれ以上話しても無駄だと思ったのかその場から離れていくのであった。
リヴァル達は朝食を終え、四人全員の準備を整え終えて、村の出入り口に集まっていた。
「ヘレネは村で待っていてもいいのですよ?」
マリサが言った。当然である。子供であり、天使であり、旅の目的の重要人物であるヘレネをわざわざ危地に連れて行くなどありえないが。
「いいの! 私も魔力を使えるし。皆の役に立ちたいの!」
昨夜からこの調子で村に残ってくれる可能性は皆無だった。マリサ達は最初反対していたが、根負けして同行を許したのであった。
「いいかいヘレネ? 僕が危険だと思ったらすぐに逃げてね」
「うん」
ヘレネはバロンに快い返事する。一方、マリサとバロンの二人はは真剣な面持ちである。
「おい、そんな顔すんなって。俺がいれば安心だぞ」
「何様ですかリヴァル?」
少し怒気を含めた声色でマリサが言った。
「まあ、気持ちは分かるけどよ。だからって皆顔怖すぎじゃね?」
「当たり前でしょう。 敵はあのワイバーン。人生で一度出会う事はないかもしれない希少で強大な魔物。それを今から相手するのですよ」
「なるほど・・・・・・じゃあ、俺はよほど運がいいと言えるな」
「どういう意味です?」
「準備はよろしいか? 聖女様の一行方」
その声と共に現れたのは現村長ことロトだ。村長直々にワイバーンの場所まで案内してくれる。
「案内頼むぜ村長のおっさん!」
余裕綽々。リヴァルの態度は余裕そのものだ。
ロトを先頭にリヴァル。マリサ。ヘレネ。バロンと続く。森の奥へと五人は進んだ。そして着いた場所は山の麓にあるとある大きな洞窟だ。
「ここです。これ以上近づくと感づかれるでしょう」
ロトはそう言って洞窟から少し離れた林で四人を止めた。
「よし! 俺一人で行ってくる」
リヴァルはそう言って前に出た。当然、唖然とするマリサ達。
「リヴァル! ここは作戦を立てて挑むべきです。一人で行くなんて自殺行為です」
「そうだリヴァル。ここはどうやってワイバーンをあの洞窟から出すか考えるべきだ」
マリサとバロンが続けざまに言うが、リヴァルはそのまま歩き出す。
「まあ見てな。今度こそ奴を地面に叩き落としてやるよ!」
そしてリヴァルは一人洞窟に向かって走り出した。そして洞窟に入ると、叫んだ。
「おい! あん時のワイバーン! 出てこいやぁ! 俺が来てやったぜ! アマル草原でてめぇと戦ったリヴァルだ! 最強剣士が今日お前を叩き斬りに来てやったぜ!!」
その叫びにマリサ達は驚いた。なんとリヴァルはしゃべるワイバーンと面識があるのだ。誰も聞いていない。というかリヴァルは誰にも言っていなかった。
「リヴァル!? あなた今なんて言いました!?」
マリサが驚きつつ叫ぶように聞いた。
「えっ? だから倒しに来たって?」
「そんな事じゃありません! なっなんでしゃべるワイバーンと知り合い的な事を言ってるいるのですか!?」
「そっか! どうだ! ずげぇだろ! 俺ってばワイバーンと知り合いなんだぜ!」
そう言ってドヤ顔を見せた。
「最初に言いなさい!!」
マリサは呆れつつ怒気を含めて叫ぶのであった。
「いやぁー びっくりさせたくてよ!」
ニヤけ顔で語るリヴァル。マリサ達の方に顔を向け前を見ていない。その時だった。洞窟の奥から明るい光が洞窟内を照らし始めた。光の正体、大きな炎だった。洞窟の奥から炎が放射されたのだ。
「リヴァル! 危ない!」
バロンが叫んだ。だが、リヴァルは冷静だった。
「相変わらずの火炎放射か!」
リヴァルは剣を抜き取ると、そのまま振り上げそして降ろした。降ろした瞬間、凄まじい暴風がリヴァルを中心に吹き荒れ、火炎放射を吹き飛ばす。
「なっなんて剣圧だ!」
初めて見たリヴァルの剣技にバロンは驚嘆した。
「ほほう。この剣圧・・・・・・あの時の小僧か」
洞窟の奥から威厳に満ちた男の声が洞窟内を響いて聞こえてきた。そう、しゃべるワイバーンである。青い巨体を揺らしながらその魔物は洞窟の奥から姿を現した。
「久しぶりだな青いワイバーン!」
剣先を向けてリヴァルが言った。
「あの時の草原の勝負。ここでつけてやろう!」
ワイバーンが人語を話す。聞いた通りの姿にマリサとバロンは驚いている。そんな二人を知ってか知らぬかリヴァルは剣を構えた。
「行くぞ!」
剣を振るう。剣圧によって生み出された暴風がワイバーンに迫るが、ワイバーンは翼を広げ、空を飛びそれを避けた。
「リヴァル! 援護します」
マリサが手の平に光の魔力を集め、光魔術による攻撃を仕掛けようとする。
「いらねぇぞ! マリサは引っ込んでろ!」
「なっ!?」
リヴァルが拒否する。どうやらワイバーンとは一対一で勝負をつけたい様だ。
「バロン! リヴァルはああ言ってますが、援護をしま――」
マリサの言葉がそこで詰まる。
「ヘレナがいない!」
バロンが叫ぶように言った。
「さっきまでそこにいたのに!?」
バロンの言う通り、ヘレネは三人の背後にいた。だが、気づけばそこにはいなかった。
「ロトさん! ヘレネはどこに行きましたか?」
林に隠れるロトにマリサが聞いた。
「すまない! 私も気づいたらもういなかった」
ロトもヘレネがどこに行ったのか分からない様だ。
「マリサ! 僕が探しに行く! 君はリヴァルの援護を!」
「えっ!? はい!」
バロンは一人その場から離れていった。援護とは言っても、リヴァルがそれを望んでいないので、マリサはただ見ているだけしかない。
「うぉおおおおおお!!!!」
「でぁああああああ!!!!」
ワイバーン対リヴァルの対決。それはまるでおとぎ話の場面の様で、剣技と火炎が入り交じり、一進一退の戦闘が続くのであった。
ヘレネは一人逃げていた。無理もない。彼女にとってワイバーンはトラウマの存在だった。あの魔物がワイバーンという名だと知らず、付いてきてしまった彼女は恐怖のあまり、逃げ出す結果となった。しかもあの時と同じ青いワイバーン。余計、嫌な記憶を思い出す。
大きな木の下でヘレネは蹲って涙を流す。 体を震わせる。ヘレネは子供だ。そう簡単に克服できるはずはない。
しばらく蹲っていると、ヘレネの耳に誰かが歩いてくる足音が聞こえて来た。それはどうやら一人で、段々と近づいてくるのが分かった。
ヘレネはリヴァル達の誰かと思い顔を上げ、音をする方を見た。だが、違った。
「小さな女の子?」
薄茶色のローブに身を包んだ大人だった。どうやら声色から女性で、顔はローブのフードで顔はよく分からないが、垣間見るその顔は美しいと分かった。
「えっと・・・・・・」
気づかれたヘレネは涙を拭い、立ち上がる。
「人間の子? にしてもこの魔力・・・・・・・」
「ヘレネ! どこだ!?」
その声はバロンだった。大声でヘレネを探していた。
「バロン!」
ヘレネは立ち上がり、こちらに向かっていたバロンに走り寄った。それに気づいたバロンは安堵する。
「どこに行っていたんだ? 心配したよ」
「ごめんさない。でも、あのワイバーンって魔物が・・・・・・」
その時だった。ヘレネのローブが剥ぎ取られて美しい白い翼が露わになった。
「何をする!?」
バロンが言った。
ローブを剥ぎ取ったのは同じくローブに身を包んだ女性。バロンより先にヘレネを見つけた女性だった。
「どういう事かしら人間・・・・・・天使がここにいるなんて」
女性はそう言いながらフードを取った。そして露わになった顔を見てバロンは驚嘆する。
「ーーエルフ!?」
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