21 秘境
バロンはリヴァル達三人の前に立ち、詠唱を始めた。それは他者認識から自分を消す魔術である。
「我が力よ。我の令に従い、我に力を貸せ」
東西大陸共通の基本詠唱文である。この言葉の後でさらなる言葉を付け加える事でその魔術の発動が始まる。
「
その言葉が発せられるとあっと言う間にバロンが三人の前から消えた。驚く三人。
「何!? 本当に消えたぞ!」
「凄い本当に消えましたよ」
「どこにいるのバロン!?」
辺りを見渡す三人。だが、いくら探してもバロンの姿は見えない。
「最初からここから移動していないよ」
そのバロンの言葉でようやく三人はバロンを認識出来た。そしてその言葉通り、バロンは消えた場所から一歩も動いていなかった。
「うお! 急に現れたな!」
「本当に動いてないのですか?」
目を丸くしているリヴァルトマリサの二人にバロンは苦笑いをした。
「全く。僕のこれを見てまだ信じないのかい?」
「いや! 信じるぜ。信じたくなって来たぜ!」
「リヴァルは調子がいいですね! わッ私は最初から信じてましたよ」
明らかに信じてないと思わせる二人にバロンは溜息をつくが、仕方ないと思ったのか笑顔を見せ説明を続ける。
「この認識を無くす魔術なんだが、僕が一年前に開発した魔術でね。僕オリジナルの魔術さ」
その言葉にリヴァルとマリサはただ驚くばかりだ。
「さすが天才児と呼ばれた事はあるな。そんな魔法こっちで聞いた事ないぜ」
「私もです。ですが、その魔法。ある意味悪用されると大変な事になるのでは?」
そのマリサの指摘にバロンは黙って頷いた。
「マリサの言うとおり。これは悪用されるととんでもない魔術だ。なにせ自己を見えなくする魔術。窃盗などで使われるとその場で捕まえるという事が出来なくなる可能性があるんだ」
バロンの説明を聞き、リヴァルは真剣な表情を見せる。
「なるほどな。確かにその通りだ。俺だったら完全に覗きとかで使うぜ」
「だから、この魔術はこのまま教え広める事はしない。僕だけの魔術にするよ」
「そ、そうした方がいいな。さてと、話が逸れちまったが、つまりはバロンよ。その魔術は冒険エルフも使えるって事だよな?」
「ああ。そうだと思う。ただ、僕のより遙かに強力で効果範囲も広いからきっとエルフ魔術だろうね」
「エルフ魔術?」
ヘレネが言った。
「エルフは古代から天使と共に神に愛された種族だとされている。その理由としてはエルフは人間より数倍・・・・・・いや、数十倍の魔力を体に宿しているからだと言われているんだ」
バロンは説明する。バロンは幼少から様々な書物を読みあさり知識は豊富だ。
「俺も何か授業で聞いた様な気がするぜその話」
「万年居眠りだと聞いているリヴァルが覚えているなんて奇跡ですね」
マリサが言った。
「エルフは天使と同じく光の魔術。つまり光属性の魔術を使うとされていて、光の魔力は五大属性に容易に変換しやすいという性質を持っているとされているんだ。つまり・・・・・・世界中のあらゆる魔術を使える可能性がある」
そのバロンの説明にリヴァルは理解がちゃんと出来ていない様であったが、マリサとヘレネは理解出来た様だ。
「要はその光の魔力を持っている奴はどんな属性の魔法でも使えるって事か?」
「その通り。まあ、これは僕が出した結論さ。書物に書かれた事から考え出した僕の答えってだけで事実ではないから。光の魔術に関してはやっぱエルフに会って確かめないと」
「そんでその光の魔法が認識阻害の魔術とどう関係あるんだ?」
リヴァルが問う。
「僕が使ったこの認識阻害の魔術。属性としては無属性なんだ。つまり誰でも使えるって事なんだけど、一方でかなりの魔力を喪失するんだ。さっき三人だけ認識阻害を見せたけど三人の視界消える為だけでも結構魔力は使ったよ」
「なるほど。バロンは冒険エルフがバロンの認識阻害の魔法より遙かに優れた効率の良い認識阻害魔法を使っているといいたいのですね?」
マリサのその言葉にバロンは笑顔で頷いた。
「ああ、マリサの言うとおり。僕考案の認識阻害では性能は低性能。冒険エルフは光の魔術を用いての認識阻害魔術は高性能だろう。しかも、その原理は異なるだろうね」
「原理が異なるとは?」
マリサが問う。
「実は言うと僕の認識阻害は催眠魔術に近い物なんだ。対象に魔術を掛ける系でね。人数が多いと明らかに効率は悪い。だが、冒険エルフの使った認識阻害は別の方法の可能性が高い。なにせ村全体を阻害するのはいくらエルフでも骨を折るだろうからね。僕の方法では大変だ。だから、光の魔力を使い、別の方法を用いたかもしれない」
「おい! さっきから難しい会話するなよ。俺にも分かる説明してくれ!」
そういうリヴァルにマリサは一瞥する。それは分からないなら黙ってくださいと言わんばかりの目だった。
「それでバロン。その冒険エルフの使った可能性がある魔法とは?」
「無視かよ」
リヴァルがそう言うと、バロンは少し笑う。
「そ、そのつまり冒険エルフは光の魔術を用いて自身に関わる光を操作したのかもしれないんだ。光とは目で物を見る為に必要な力とされており、今でもそこら中飛び回っているとされている。基本的に太陽から発せられ、物に反射してそれを目で見る事で僕達は物を認識している。だから、冒険エルフは村人全員に魔術を掛けたのではなく。自身に光を屈折する魔術を掛けて姿を消した可能性はある。そのほうが効率がいいだろうからね」
「それではマルクさんだけが見えた説明はどうするのですか?」
「それは簡単だよ。マルクさんの方向だけ光をそのまま流したんだろう」
「なるほど・・・・・・では、最初に話しかけた村人だけに記憶を操作する魔法で自分の記憶を消し、後はそのまま村人達から見えなくなって村を出たという事ですね」
「おそらく、そうだろうね。記憶操作の魔術もエルフならできそうだ」
魔術の会話をするマリサとバロンにリヴァルとヘレネは離れてその様子を見ていた。
「つまないねリヴァル」
ヘレネが言う。
「えっ? ああ、つまんねぇな」
「ちょっと、そこの二人。何をしているのですか?」
それに気づいたマリサが言う。
「暇つぶし」
「少しは会話に入ろうとは思わないのですか?」
「だって分からないんだもん」
ヘレネが言う。
「すまないリヴァル。つい会話が弾んで逸れてしまった」
「いいんだよバロン。俺、バカだから」
「私もバカだよ!」
ドヤ顔でヘレネが言った。
「いえ、それは自慢する事ではないですよヘレネ」
「えっ!? そうなの?」
「つまりだバロン? お前が出来る魔法ならあの話もあながち嘘でもないと言いたいんだな?」
「ああ、そういう事だよ。話が逸れてしまったけど、認識阻害が可能って事は冒険エルフ実在の可能性はある」
その言葉を聞いてリヴァルは笑顔を見せ言った。
「よし! それなら少しはやる気が出て来たぜ! 冒険エルフは絶対見つけてやる」
「とはいいますけどリヴァル。どこを探すんですか?」
そのマリサの問いにリヴァルのテンションはやや下がった様だ。
「そうなんだよな。いっその事、探し人で街の掲示板に張り紙貼らせてもらうか?」
「それは笑いものにされて終わりそうですけど・・・・・・」
都市伝説の冒険エルフ。それを探し人として顔絵も無しに掲示板に貼れば、笑われふざけているとしか扱われないだろう。
「私が絵を描くよ!」
ヘレネが言った。
「ヘレネはまさか顔を知っているのですか?」
マリサが問う。それに対しヘレネはドヤ顔で言った。
「知らない!」
「ここはもう手当たり次第に秘境とかダンジョンに行くしかないじゃないかな?」
それを言ったのはバロンだ。
「確かに冒険エルフは冒険をする為に秘境やダンジョン巡りをしている可能性はありますが、この東の大陸だけでもその手の場所は百以上あると言われています。それを一つ一つ巡るというのは時間と労力が掛かるのでは?」
「マリサ! そういう事はどうでもいいんだよ!」
大きな声でリヴァルが言った。
「どうでもいいとはどういう事ですリヴァル?」
そのマリサの問いにリヴァルはただバロンの肩に片手を置いて真顔で言った。
「男のロマンだよなバロン」
「えっ?」
「分かるぜ! 帝国でも一緒なんだなダンジョンを攻略してぇのは!」
その言葉でバロンは何か言いたいのか分かったのか苦笑いをした。
「いや、僕は別に」
「言うな! 俺もお前と同じ気持ちだぜ! 世界中のダンジョンを攻略する。幾多の冒険者が目指し、誰一人成し遂げてない夢だ。男なら興味持つよな!」
「リヴァル・・・・・・まさかダンジョン攻略がしたいだけとか言わないでしょうね?」
呆れた顔でマリサが問う。
「えっ!? そっそんな事は言ってねぇだろ!?」
明らかにそうしか見えなかった。
イーセを後にしたリヴァル達一行は冒険エルフを探す為、ここから最短の秘境オリエナ高原に向かっていた。最短とはいえ徒歩で三日掛かる距離であり、リヴァル達は野営の準備を万端にして目指している。
「ねぇ? まだ着かないの?」
歩き疲れ始めたヘレネがマリサに問う。
「最初に言いましたけど高原には三日掛かりますよ」
「飛んででっていい?」
ヘレネは天使。飛行していけば一日で辿りつける距離ではあった。
「そんな事をしたら人々が驚きます。それに目立ってまた悪人に目を付けられてしまいますよ」
「はーい」
最初に比べヘレネは素直に言うことは聞くようになった様だ。
「とりあえず近くの秘境って事でオリエナ高原に行くことにしたけどよ。どんなとこなんだマリサ?」
「よくも知らずに言いましたねリヴァル。オリエナ高原は我がアルドア王国の領地にある天と雲に近き大地です」
オリエナ高原とはアルドア王国北部に位置する高原地帯である。古き時代から聖域と扱われ、ワイバーンを住まう場所と言われる。主に広がっているのは森林地帯であり、冬になると雪に包まれる。
「勉強した気がするが忘れたわ」
「全くリヴァルは」
マリサが呆れた声を出した。
「リヴァルは剣士見習いの時、座学で学習したんだよね?」
バロンが問う。
「おお! 実技は最強だったけど、座学は寝てて最低クラスだったわ」
その回答にバロンは苦笑いをした。
「そう・・・・・・マリサの反応から、まあ予想出来ていたけど」
四人の足取りは爽快では無かったが、途中の村で食材を調達したり、野営に慣れていくうちに足取りは少し速くなった。
そして三日目、ついに四人はオリエナ高原に出入り口にたどり着いた。
「ついに着いたぜ。ここがオリエナ高原」
先頭に立つリヴァルはオリエナ高原の先にそびえ立つ山々。山脈を見た。山脈の名は公式につけられていないが、冒険者内ではオリエナ連峰と呼ばれている
「さてと、この辺に村があると聞いていますが、どこなのでしょうか?」
ここまで来る途中の村でマリサは高原について色々聞いていた。そこで仕入れた情報によるとオリエナ高原に一つ村があると聞いていた。
「あれじゃないか?」
バロンが指さす方向。そこには村があった。
「情報通りですね。向かいましょう」
マリサを筆頭にリヴァル達は村に向かった。村に入ると村人の何人かが気づきリヴァル達を見た。
「こんにちわ」
マリサが挨拶すると、村人達は会釈した。
「何か元気がない村だな」
リヴァルの言う通りで村には入った瞬間から分かるどんよりとした空気が流れていた。どこか活気が無く、村人はどこか元気がない様に見えた。
「これは旅人どの。どのようなご用でここに?」
一人の老人がリヴァル達に声を掛けて来た。マリサが神教紋章を見せると老人は驚きつつも手を合わせてマリサに頭を下げた。
「神教紋章・・・・・・私の人生でそれをまた見れる事となるとは神に感謝します」
「頭をお上げくださいおじいさん。私はただの信徒です。よろしければこの村の事を教えて頂きたいのですが、よろしいですか?」
「はい、お安いご用です。ここでは何なので私の家に案内します。私はここの元村長をやっていたソボンと申します」
白髪の髪と髭が特徴的な元村長ソボンにリヴァル達は案内されて、村でも比較的大きな木造建築の家屋に入った。そこには壮年の夫婦がいた。
「紹介します。我が息子にして現村長のロトとその嫁です。ロトよ。神教の方々がお見えになった。おもてなしをするんだ」
「分かったよ親父。エナ。お茶を出してくれ」
リヴァル達はリビングに通され、そこのあった椅子に座った。そしてお茶を出され、座ったソボンの横に息子ロトが座るとソボンは口を開いた。
「どうかこの村をお救いください」
突然の願いにリヴァル達は驚いた。
「お救いくださいとはどういう事ですか?」
マリサが問う。
「失礼しました。おい、親父唐突過ぎるだろ? いくら村がこんな状況だからって」
「これは神様のお導きじゃ。村の危機に神様は答えて彼らを使わしてくださったのだ」
「本当にすいません。旅人の方々。親父は熱心な神教徒でして、白装束を着ているあなたを見て何か勘違いをし」
それを遮ってにリヴァルは言った。
「マリサは神教徒だ。しかも聖女候補だしな」
その言葉にソボン達は驚いた。
「おお! これは本当に神の救いだ。我々は見捨てられていなかった」
感銘を受けたのかソボンは涙目を見せた。
「こらリヴァル! それは口外しないという約束だったはずですよ」
「そうだっけ? まあ、いいんじゃねぇこのじいちゃんすげぇ感動してるし」
確かにソボンはマリサを見る目はまるで天使を見る目であった。と言うか本当の天使はすぐその横にいるのだが。
「本当ですか? 聖女候補と言うのは?」
ソボンに比べ息子ロトは怪しい目を向ける。無理もない。子供ばかりの一行であり、どこか頼りないと言われてもしょうがない一団だ。
「はは・・・・・・それはその」
困惑するマリサ。
「こらロト! 彼女らを疑おうのか!? わしはこの聖女様の神教紋章を見た! それが何を意味するかお前も知っているだろ?」
神教紋章。金製の神教のシンボルエンブレムを象ったペンダントである。門外不出の特殊な魔術工作により作成されており、複製が不可能とされる代物である。これを持たされる神教徒は神教において特別な地位を与えられたと意味している。
「知っているけど、本当なのか?」
ロトの問いにマリサは答え、神教紋章を見せた。すると、ロトは驚きつつも頭を下げた。妻も同じである。
「こっこれは失礼しました」
「頭をお上げください。私はこれを授けられたからと言って高い身分になったわけではありません」
そう言われロト夫婦は頭を上げた。
「では、この村の事をお教えください。僕の魔力感知が嫌な感じを感じ取っていますが、どうやらこれは・・・・・・」
バロンが言った。
「さすが聖女様一行の方です」
ロトは説明を始めた。
「ワイバーンが出たのです」
その言葉にリヴァルが一番に食いついた。
「本当かよ!? ワイバーンだって」
それを制止する様にマリサがリヴァルの前に手を翳した。
「ええ。この高原において言い伝えられる魔物ワイバーン。数ヶ月前にこの村の上空に現れたのです。その時は村の皆は驚き、畏れながらも敬意を示しました。なにせこの村では守り神として信じられた存在だったからです。そこまでは良かったのですが・・・・・・」
「何があったのですか?」
マリサの問いにロトは息を吞んで口を開く。
「そのワイバーンは喋ったのです」
そのロトの言葉にリヴァル一同は驚いた。ワイバーンはドラゴンの亜種と言われ、冒険者の中ではドラゴンもどきとも表される魔物である。ドラゴンならば高い知性を持ち合わせ人の言葉を喋ると聞いているが、知性が劣るワイバーンが喋るなど聞いた事がない。前代未聞である。
「本当に喋ったのですか!?」
バロンが驚き問う。
「はい。喋った事に驚きましたが、その内容が我らにとって問題でした」
「その内容とは?」
バロン続けて問う。
「〝生贄を捧げよ〟と」
そのロトの言葉にリヴァル達は驚く。
「――物騒なワイバーンだな、おい」
「そうみたいですね」
リヴァルとマリサが言った。そしてバロンは顎に手をあて、少し考え言った。
「・・・・・・他には何か言いましたか?」
「いえ・・・・・・これだけです。私達はそれを素直に聞き入れました。何せ守り神からの要望です。断る事など出来ません」
「でしょうね」
バロンが言った。
「最初は羊などの家畜を捧げました。その時はそれで良かったのですが、次第に度を増していく様になりました」
ロトは悲しげに語る。
「羊の次は大量の魚、魚の次は牛と、一週間ごとに要求は増していきました。我々はワイバーンの要求に答え続け、村の多くない家畜達を捧げました。ですが、もちろん限界があります。もう捧げられる供物が無くなり、それをワイバーンに告げました。すると・・・・・・」
「〝ならば村を燃やすだけだ〟。今までご苦労だったな〟と口から炎を吐き出そうとしました。その時、私の息子がワイバーンに目掛けてホークを投げつけました。だがそれは外れ、ワイバーンの怒りを買った息子は連れ去られたのです。それがちょうど一週間前です」
ロトの話に妻は泣いて、エプロンで顔を覆う。
「息子は食い殺されたです――」
悲しみの声でロトの妻は言った。
「まだ、その息子が死んだと決まったわじゃねぇだろ!」
その声はリヴァルだ。一人椅子から立ち上がり、ロト夫婦に近づく。
「あんたらの息子は勇気ある男だ! 村の為にワイバーンに立ち向かったんだからな」
「あなたは?」
ロトが問う。
「俺の名はリヴァル! 王都において次世代最強剣士候補と名高い剣士よ! 知らねぇか?」
そのリヴァルの問いにロトは答える。
「申し訳ない。その・・・・・・王都の噂はここまでこない様であなたの事は存じ上げません・・・・・・」
そのロトの素直な返答にリヴァルは苛立った感じではあるが、笑顔で言った。
「そっそっか! それはしょうがねぇな! こんなド田舎じゃ知らなくてもしょうがなぇな! ならこれから思い知るしかねぇな俺の力を! 俺がワイバーンを討ち取り息子を連れ帰るぜ!」
「リヴァル。勝手に話を進めないでください!」
そう言ってマリサが立ち上がる。
「なんだマリサ!? もしかして見捨てるつもりか!?」
「そんなつもりはありませんが、我々の目的を忘れてませんか?」
「忘れてねぇよ。それも大事だが、この村の危機だぞこれは!」
そのリヴァルの言葉にマリサは呆れた顔をする。
「全く・・・・・・あなたは本当、英雄願望が強いですね」
「男に生まれたなら英雄に憧れるなんて当然よ! だよなバロン?」
急に問われ、バロンは戸惑いながらも「え、ああ」と答えた。
「助けてやろうぜ。そもそも俺は王国剣士だ。困った民衆を助ける義務がある。分かってるよな?」
「ええ、分かっています。ですが、倒せる算段はあるのですが?」
「そんなもん特に考えてねぇよ。分かってんだろ?」
そのリヴァルの返答にマリサは呆れて『でしょうね』と言う顔を見せた。
「マリサ。この村の人達を助けてあげて」
今まで話を聞いているだけだったヘレネがマリサの服の袖を引っ張りながら言った。
「ヘレネ・・・・・・」
「お母さんが言っていたの。困ってる人は助けあげなさいって」
「へえー。いいお母ちゃんだな」
リヴァルが言った。
「――分かりました。ソボンさん、私達がそのワイバーンを退治してみます」
「ありがとうございます」
「ちょっと待ってください。あなた達だけでワイバーンと対決するのですが?」
ソボンの息子ロトはどうやらリヴァル達ででは心配らしい。心配されてもしょうがない。リヴァル達は若い。いや、若すぎる一行である。
「心配するなっておっさん! 俺達を信じろ!」
根拠のない自信を見せるリヴァル。それに対しロトは不安である様だ。
「どうやら君達は自信がある様だが、すでに冒険者の一行が一組、つい昨日ワイバーン退治に行っているのだ」
そのロトの言葉にリヴァル以外の三人は心配げの顔をした。
「その冒険者一行は何人でしたか?」
バロンが問う。
「五人だ。偶然、高原に来ていた冒険者達で事情を話したらワイバーン退治を引き受けてくれた。そして昨日ここを立ったが、それ以降帰ってきていない。ここからワイバーンの根城はそう遠くないのだ。帰ってこないという事は・・・・・・」
そのロトの言葉にマリサとバロンは甘くないと感じたのか終始心配げな顔だった。
「冒険者が帰ってこないとなると、僕達だけで本当に大丈夫か?」
「本来の目的を忘れ、ここで倒れるのは・・・・・・」
「ふん! それがどうした!」
そのリヴァルの言葉にマリサとバロンは驚嘆すると同時に少しの憤りを感じたのか、険しい顔を見せた。
「あのリヴァル! さっきからどういう根拠があってそこまで言い切っているのですか?」
マリサが強く詰め寄る。
「マリサの言う通りだリヴァル。敵はワイバーンだ。そう簡単に討伐出来る存在じゃない」
ワイバーンの相手をする場合、巷では軍の中隊クラスから大隊クラスが必要とされている。それを班クラスで挑もうとするなど本来ならば自殺行為と思われてもしょうがない。
「何をびびってんだ。俺が先頭をきってやればいいだけの話だ」
「それであなたが怪我をしたらどうするのでですか? それでもし殺されたら」
「マリサの回復魔法があんだろ? それにバロンも回復魔法使えんだっけ? なら大丈夫だ」
「あなたはもう昔から・・・・・・」
マリサは呆れつつ、そして言った。
「分かりました! 明日の朝、ワイバーン討伐に行きます」
「いいのかいマリサ?」
バロンが問う。
「私もここを見捨てる気ははありません。本来ならば王都に連絡を入れ、軍隊を派遣して貰うのが筋でしょう、ですが息子さんと冒険者さん達が心配です。今日は準備を整え、明日ワイバーン討伐に向かいましょう」
「さすがマリサ! よし! なら準備するぞバロン」
「えっ? ああ」
バロンは納得出来ない様子でリヴァルに急かされるままに椅子を立ち、ソボンの家から出て行くのであった。
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