20 冒険エルフ

 約二十年前、マルクは当時7歳であった。場所は東の大陸のとある森林地帯。マルクの両親は行商屋であり、両親に連れられてあちこちの村や町を回っていた。

 その日は快晴。荷馬車の中でマルクは遊んでいた。そして同じ荷台には傭兵の若い男女がいた。


「可愛らしいお子さんですね」


 傭兵の女がマルクを見て言った。マルクは当時は人見知りで、すぐに母親の背後に隠れた。


「おいおい怖がってるぞ」


 傭兵の男が笑いながら言った。


「お前の物騒な格好が怖いんじゃないか?」


「あんたに言われてく無いわ。バカでかい剣背負ってるくせに」


「おいおい、これでお前を何度も助けて来たんだぜ」


「はいはい。感謝してるわよ」


「あなた方はもしかして恋仲なのですか?」


 マルクの母親の質問に傭兵の女は赤面するが、男は笑い言った。


「ははっ! 分かります!? こいつ口は悪いけど、いい奴なんですよ。それに惚れちまって!」


 すると傭兵の女は男を叩いた。


「いてぇ! 何、しやがる!?」


「誰が恋仲だ! わっ私はまだ承諾した覚えはないけど!?」


「いいじゃねぇか。もう恋仲だろこれ!」


「勝手に決めるな!」


「アハハッ! 喧嘩するほど仲が良いとはこの事かな」


 マルクの父親が笑いながら傭兵の二人に言った。


「おおっ! 分かってますね旦那!」


「嫌いならとっくにパーティーは解散しているはず、そうだろお嬢さん」


 マルクの父親の言葉に、傭兵の女は赤面しつつ黙ってしまった。


「黙る事は、そういう事だよな!」


「うっうるさい! ちゃんとこの仕事が終わったら返事は返してやるわよ」


 そんな会話をしつつ、荷馬車は次の街へ向けて走り続ける。

 マルクの両親は強盗対策で傭兵を護衛として雇い、道中の安全を万全としつつ仕事をしていた。今回も普段通り、ギルドで紹介された二人を雇って旅をしている。


「旦那さん達はどういう馴れそめで」


「ちょっとあんたねぇ」


 傭兵の男はマルクの両親に聞いた。どうやら傭兵の男はおしゃべりの様だ。


「妻は両親の友人の子でね。小さい頃からの付き合いだったんだ」


「ほほう。それってすなわち幼馴染みって奴ですな!」


「簡単に言うとそうだが、小さい頃は年に数回会うだけだったよ。私の家系は代々行商屋で、彼女の家は座商だったんだ」


「行商の息子と座商の娘がどういうきっかけで恋仲になり夫婦になったと?」


「確か十六ぐらいの時かな。妻が旅先で落とし物をしてしまったんだ。それは妻にとってとても大事な物だったらしく、悲しんでいた。そして偶然にも私はその旅先の街に出かける仕事があり、私は妻に探してくると言ったんだ」


「なるほど! それで運命的に落とし物は見つかり、それをきっかけに二人は恋仲、そして夫婦になったわけだ!」


 雇い主の会話をあっと言う間に説明してしまった傭兵の男に女は呆れた顔をした。


「はぁ~雇い主の話を最後まで聞かないなんて失礼じゃない。ちょっとマイナスだわ」


「おいおい! まさか返事がこれで変わるって事ないよな!?」


「どうしようかな~」


 その時だった。荷馬車の周囲に霧が発生し、あっと言う間に視界は遮られた。マルクの父親は不審に思ったのか、荷馬車を止めた。


「これは・・・・・・」


 傭兵の男は荷馬車を降りた。そして剣を鞘から取り出し、構えた。


「何だよこれは。魔法か」


 男にとって霧を発生させる魔術など聞いた事がない。傭兵の女も荷馬車から降りて、警戒する。


「霧を発生させる魔法なんて知ってるか?」


「知るわけないじゃん。ただ、盗賊じゃないみたいね」


「その通りです! パモーレ!」


 その声は、荷馬車の周囲から聞こえてきた。傭兵の二人は警戒を強めるが、一瞬にして二人の命は絶たれた。

 その場に二人は倒れ、血が噴き出した。


「なっ!? 何が起こった!?」


 マルクの父は何が起こったのか分からず、混乱し動揺する。そして気づいた時、目の前に見知らぬ男が立っていた。

 その男はマントで身を隠し、フードでも顔を隠した長身の男であった。


「なっ何者だ!?」


 マルクの父親の問いに答える事なく。その男はマルクの父を殺す。首を切られたマルクの父は切り口から血を噴き出しながらその場に倒れ込む。


「あなた!!」


 目の前で夫を殺されたマルクの母親は動揺し身を震わせながらも、幼きマルクを抱きかかえ、荷馬車から逃げようとする。が、それも遅く、長身の男に背中を斬られ、その場にうつ伏せに倒れこんだ。


「おっお母さん!」


 マルクは叫ぶ。が、もう母の意識は遠のき始めていた。


「にっ逃げなさい・・・・・・マルク」


 幼いマルクは逃げろと言われても、何も出来なかった。一瞬にして両親を奪われ、死の恐怖を前に幼い男の子には何もできない。


「お母さん! お父さん!」


 長身の男はゆっくりとマルクに近づく。そしてその手をマルクに伸ばす。

 だが、その瞬間。突風が荷馬車を襲い。霧を吹き飛ばして、辺りを明るくした。


「・・・・・・!?」


 長身の男は驚き、辺りを見渡す。すると荷馬車の後方から人が一人こちらにむかっていた。尖った耳に金髪の髪、右手に短剣を携え、マントを身につけた緑色の帽子の男は長身の男目掛けて走ってきた。


「!?」


 尖った耳、そして金髪の人。それはこの世界でエルフと呼ばれる種族だ。エルフの男は荷馬車に飛び乗ると長身の男に斬りかかった。


「大丈夫か! そこの君!?」


 マルクに問いかけながらエルフの男は長身の男を攻撃し、その激しい剣さばきで男を怯ませて男を蹴り飛ばし荷馬車から蹴り降ろした。長身の男は驚いた様子で、そのまま交戦しようとしたが、何者かの声に反応したの如く、そのまま逃げていった。

 エルフの男は追うことはせず、マルクに近づいた。


「大丈夫か?」


「エッエルフ?」


 その言葉に男は自分の耳を触った。


「そうか・・・・・・変装魔法を掛け忘れたか」


 エルフの男はそう言うと、マルクに笑顔を見せた。

 そして倒れたマルクの両親に近づき、二人の生死を確認した。そして命が絶たれた事を確認した。


「残念だが・・・・・・君の両親は」


 マルクは恐る恐る両親に近づき、そしてもう動かない事を知った。あまりに唐突、そして大きな悲劇にマルクは幼いながらも理解したのか、泣き出したのであった。











 時間は夜を迎えた。荷馬車の荷台に傭兵の男女、そして両親の遺体を乗せてエルフの男とマルクは森林地帯を抜け、野原で野営をしていた。たき火を灯し、夕食を用意している。


「お父さん・・・・・・お母さん・・・・・・」


 マルクは未だに泣いていた。無理も無い。目の前で親を殺されれば、そう簡単に受け入れる事など出来ない。それを知ってか、エルフは優しい声で言った。


「私は・・・・・・そう、冒険エルフと読んでくれ。巷でもそう呼ばれているしな」


 エルフの男。冒険エルフは自己紹介した。それに対し、マルクは何も答えない。


「とりあえず、ご飯を食べなさい」

 

 冒険エルフはそう言って、たき火で作ったスープをマルクに差し出す。だが、マルクは手を出さない。


「まあ・・・・・・食欲はないか」


 冒険エルフはそう言ってマルクの目の前にお椀を置いた。そしてしばらくの間冒険エルフは黙ったまま食事をしそれを片付け、マルクに渡したスープが冷め切った頃にまた口を開いた。


「そういえば君の名前は? 聞いていなかったね」


「・・・・・・マルク」


 マルクは小さな声で答えた。


「マルク。君は今日、不幸に見舞われた。その歳で親を亡くすとは災難だが、ある意味幸運かもしれない」


 その冒険エルフの言葉にマルクは少しの苛立ちを感じたのか、拳を強く握った。


「ど、どういう意味!? 親を亡くして良いってどういう事!?」 


 少し大きな声が出た。それに対し冒険エルフは笑った。


「親はね。時として人生の邪魔者として立ち塞がる時があるんだよ。私がその経験者だ」


 マルクには分からなかった。大好きで大切な親が邪魔者とはピンとこないのだ。


「君の歳ではまだ分からないだろうが、親の中には子供を自分達の言いなりにしたい親もいるんだよ。だから今の君は幸運かもしれないな」


「こっ幸運・・・・・・」


 幼いマルクには理解出来ない事だった。それを知ってか知らぬか冒険エルフは笑っていた。結局、マルクはまた泣くのであった。


「おっと、また泣いてしまうか。やはり、人間の価値観とエルフの価値観は違うよな」


 冒険エルフはそう言うとマルクに近づき、マルクの頭を片手で抱いた。


「私が悪かった。今日は思う存分泣きなさい」


 その言葉でマルクは緊張が解けたのか、号泣するのであった。











 一夜明け、冒険エルフとマルクは既に出発していた。荷馬車を走らせ、村へと向かう。天気は晴れ、野原の道をただ進む

 荷台には両親と傭兵二人の遺体が乗せてあった。


「両親はちゃんとした墓に埋めてやりたいだろう。今日中には次の村に着くはずだから

、そこで埋葬してあげなさい」


「・・・・・・うん」


 マルクは未だに悲しみに暮れている。当然だろう。


「・・・・・・やはり悲しいか?」


「・・・・・・うん」


「そうだよな。君にとっては唯一の親だった・・・・・・そうだな、まだ村まで時間があるし、私の両親の話でもしようか?」


「冒険エルフの?」


「そう。私の両親は健在しているはずだ。エルフの里でな」


「健在しているはずって?」


「実は言うと里を出て百年以上は帰ってないんだ」


「ひゃ百年!?」


 マルクは驚いた。父親からエルフは数百年生きると聞いていたが、それは本当だったと分かり驚いた。


「そう、百年だ。とはいえ、エルフにとって百歳など青二才なんだがな」


「へぇ・・・・・・すごいね」


 マルクには想像もつかない人生である。


「親としてはいい親では無かった。何故なら私にああしろ、こうしろ、あげくには許嫁まで決めて私の将来まで口だししていた」


 その時を思い出したのか、冒険エルフは明らかに嫌そうな顔を見せる。


「でも、いいお父さんとお母さんだったんでしょ?」


「端から見たらそうかもしれんが、当事者である私にとっては目の上のたんこぶさ。そもそもエルフっていう種族自体私は好きではなかった」


「エルフが住んでる所ってどんな所なの?」


「あまり詳しくは言えないが、森の奥さ。人間には決して見つからない森にあってね。それが閉鎖的なんだよ」


「へ、閉鎖的?」


 まだマルクには難しい言葉だ。


「えーと。まあ、分かりやすく言うと引きこもりみたいものだ。自分たち以外受け入れないという感じだ」


「そ、そうなんだ」


 できる限りかみ砕いた説明のつもりだった様だが、まだマルクには分かりにくかった。


「そんな里は私にとって窮屈でしかなかった。だから、私は飛び出た。この世界に!」


 その世界にと言った時の冒険エルフの顔はマルクでも分かるほど活気に満ちていた。


「この世界に飛び出て正解だったよ。だって、色んな種族の可愛い子が・・・・・・」


 冒険エルフは何故かそこで口を止めた。


「・・・・・・失礼。この話は君には早かったね」


 マルクは意味が分からず首を傾げる。


「とにかくだ。私は世界がこんなに広いと知りとてもワクワクした。そう、ワクワクしたんだ」


「そうか・・・・・・だから、冒険を始めたんだね?」


「その通りだ! 里を出た私はあちこちを旅し冒険した。珍しい魔物を求めて高地へ行ったり、伝説の花を求めて神秘の島を探したりした」


「すごい! もしかして神秘の島ってあの神秘の島? アロン王伝説に出てくる?」 


 アロン王伝説とは東の大陸において有名な神話で子供に聞かせるおとぎ話では定番である。


「そうだ。だが、結局見つけられなかった。やはり、神話というのは大体が作り話なのかも知れないな」


「そうか・・・・・・残念だな」


「だが、いい冒険だった。なんせドラゴンと対峙したからな」


「ドッドラゴン!?」


 この世界においてドラゴンは超が付く程の希少種の魔物である。人間の様々な歴史書に数回記されている程度であり、見た者もごく僅かと言われ、見られてもしても信じて貰えない事が多い。


「本当!? あのドラゴンだよ!?」


「エルフの神に誓おう。私は見たぞドラゴンよ」


「どんなだった!?」


「この荷馬車の数倍の図体で、目は金色にして獰猛な目付き、巨体を隠せる程の大きな羽を持ったまさに正真正銘のドラゴンだったぞ」


 その冒険エルフの言葉にマルクは目を輝かせた。


「――良かった。少しは元気になったかな?」


 冒険エルフの気遣いに気づいたマルクは我に返り悲しい顔をしたが、その後おだやかな顔を見せて言った。


「ありがとう。うん・・・・・・少し元気になったかな」


「そうか・・・・・・それは良かった


「もっと冒険の話を聞かせてほしい。他にはどんな場所に言ったの?」


「そうだな・・・・・・あれは」


 村に近づくまでの間、冒険エルフの話は続いた。長生き故、冒険の数は数知れずであり、話題には困らない。気づけば、村にはあと一キロの辺りまで来ていた。


「おっと! そろそろお話はここまでだ」


「ええ!? もっと話してよ」


「それは出来ない。もう、村に近いから私は変装させて貰うよ」


 冒険エルフはそう言うと、小さな声で詠唱した。詠唱した言葉はどうやらエルフ語らしくマルクには聞き取れなかった。詠唱後、彼の姿は変わった。耳は人間サイズになり、顔つきも若干変わった。


「すごい・・・・・・人間になった」


「ははっ、これは実に簡単な魔法だよ。まあ、エルフのままでいるとなにかと騒ぎになってしまうからね」


 この時のマルクには分からなかったが、後に人間社会にエルフがいる事は有り得ない事という事を知る。


「マルク・・・・・・君とはあの村でお別れだ」


 草原の先にはもう村が見えていた。


「ヤダだよ! 僕も冒険に連れてって!」


「私の話した冒険はとてもおもしろそうだったかも知れない。だが、本当は危なかった事や人間とのトラブルを省いて話したんだ。現実はそう甘くない。せっかく生き残れたその命、むやみに危機に晒す事は無い。それに・・・・・・」


「それに?」


「私は子供が嫌いだ」


 その言葉にマルクは嘘だと思わせる様に笑った。


「う、嘘だね」


「どうしてそう思う?」


「本当に嫌いだったら、ぼくなんて見捨ててるよ」


「まあ・・・・・・そうかもしれないな」


 荷馬車は村の出入り口に差し掛かった。もう村人が何人かこちらを見ていた。


「いいかい? 僕がエルフだという事は秘密だ」


「冒険に連れていってくれないから言っちゃおうかな?」


「やれやれ、ここで待っていなさい」


 冒険エルフは村に荷馬車を入れると近くの村人の男に何を尋ねて、そのまま村の中へと行ってしまった。一人残されたマルクは不安になるが、冒険エルフが尋ねた村人がマルクに近づいて来た。


「坊や!? 親を殺されたって言うのは本当か!?」


「・・・・・・はっはい」


 マルクは小さな声で答え、そして荷台に視線を向けた。村人は四体の死体を確認すると何十人か他の村人を呼んで来た。


「坊主。親は盗賊に殺されたのか?」

「傭兵も殺される程って大勢で来たのか?」「それにしてもよく一人で荷馬車を操ってここまで来たな! 坊主何歳だ?」


 その質問にマルクは驚いた。


「はっ? 何を言っているのおじさん?」


 マルクは理解出来なかった一人でここまで来た? 何を言っているのか?


「何、言ってるって? 坊主。お前さん一人でここまで来たんじゃねぇか?」


「何を言っているの!? 僕は一人でここまで来れてないよ! もう一人・・・・・・冒険エルフが座っていたよね!?」


 その言葉に村人達は顔を見合わせた。そして怪訝な顔をマルクに見せた。


「坊主・・・・・・親が殺されて混乱してるのかも知れないが、俺達はお前さん一人が荷馬車でこの村に入ってきた所しかみてねぇぞ。もう一人いた? 見たか?」


「いいや。見てねぇ」

「俺もだ」

「私も一人で来た所しか見てないわ」


 マルクは信じられず、荷馬車から降りて、冒険エルフが最初に話しかけた男の所に詰め寄った。


「おじさん! おじさんは話したよね!? 若い男の人と!?」


「へっ?」


 最初の村人は困惑している。


「ええっとな坊主。俺は誰にも話しかけられ・・・・・・あれ? 何か違和感があんな」


 最初の村人は何かを思い出そうという感じで頭を掻いた。だが、結局思い出す事が出来なかった様で。


「すまん。確かにお前さんの言うとおり、誰かと話し気があんだが、よく思い出せん」


「そんな!」


 マルクを見る村人達の視線が残念な視線になっていた。どの村人も親を殺されたショックで幻覚を見たと思っているのだろう。

 マルクはそんな視線を尻目に村の奥へと走った。走る理由、それはもちろん村の中へと歩いて消えた冒険エルフを探すためだ。


(どこにいるの!?)


 冒険エルフを探す。だが、見当たらない。


「そっそんな!? どこにもいないなんて」


 しばらく探した後、村の若い娘達がマルクに声をかけた。


「君・・・・・・もう大丈夫だからね」

「ここはもう安全だから安心して」


 マルクに優しい言葉をかける娘達だったが、当のマルクは混乱していた。


(皆、見ていないってどういう事? まさか冒険エルフっていうのは幽霊なの?)


 そう考えると少し怯えるマルク。しかし、冒険エルフが見せた笑顔を思い出し、あれは現実だったと改めて自分に言い聞かせた。


「さあ坊や、教会に行きましょう。神父様が待っておられるわ」


 マルクは言われるがまま、村の教会へと連れていかれた。その後は数週間その村の教会で過ごし、その間に両親の葬儀と墓地への埋葬を見届けた。

 マルクはその後、両親が所属していた商会に引き取られる事となり、大きなとある街の孤児院で保護され、巣立つまでそこで過ごしたのであった。孤児院に入った当初、他の子供達や大人に冒険エルフと過ごした一晩と聞いた冒険話を聞かせた。冒険話は受けが良かったが、遭遇したとう話は誰一人信じなかった。

 その後、孤児院を出て大人になったマルクは商会を通じて商売を始め、そして商人になったのである。










「これが私が出会った冒険エルフの話の全てです。どうでしょうか? 信じますか?」


 イーセ商会の応接室にてマルクの幼少期の話を聞いたリヴァル達の反応はそれぞれ違った。リヴァルはどうやら信じていない様であり、同じくバロンも懐疑的な表情をしていた。その一方、ヘレネはワクワクしている顔を見せ、マリサは目を瞑っていた。


「ははっ・・・・・・やはり、信じてられませんよね」


「いえ! 私は信じます」


 その言葉はマリサだった。目を開けて、その開けた目はどこか輝いていた。


「おいおい。信じるのかよ?」


 リヴァルが呆れた声で言った。


「私も信じる! 冒険エルフ!」


 ヘレネが言った。


「お嬢さん方に信じて貰えるとはそれでも話したかいはありました」


 マルクはそう言って笑顔を見せる。


「マルクさん。あなたに聞きたい事があります」


 そう言ったのはバロンだった。


「なんでしょう?」


「冒険エルフは今どこで何をしていると思いますか?」


 その質問にマルクは俯いた後、答えた。


「そうですね。彼ならまだ冒険していると思います。きっと人が立ち入らない未開の地を一人で探索しているでしょう」


「分かりました。ありがとうございます」


「いえ。こんな話が役に立つとは思えませんが、こんな話を聞いてくださってありがとう」


 こうしてリヴァル達は応接室を出てイーセ商会を後にした。そしてイーセの町中にあるとある公園に着くと、聞いた話について改めて話し合う。


「どうだったあの話? 俺は嘘だと思うぜ」


 リヴァルは信じていない様だ。


「リヴァルは失礼ですね。あの方は嘘などついていませんよ」


 マリサが言った。


「ほほう。どうしてそう思うんだよ? まさか神教の信者だからだとは言わないよな?」


 図星だった。マリサは口籠もる。


「まさか神教信者が嘘をつかない正直者しかいないと思ってんのか? 世間知らずもこの旅で卒業しろよマリサ」


「そういうリヴァルはどうなんですか? あなただって世間知らずでは? それになによりあの人を最初から疑うなんて失礼ですよ!」


「てめぇみてぇのが、騙されて泣くんだよ。世間では悪い奴はどこにでもいる。だよなバロン?」


 そのリヴァルの問いにバロンは答えなかった。


「おいバロン?」


「ああ、悪いリヴァル。あの人が最後辺りに語っていた自分以外冒険エルフを認識していなかった話気になるんだ・・・・・・」


 バロンはどうやら思案している様だ。


「おい、まさかお前信じるのか?」


「自分を他者から認識出来なくする魔術。有り得ない魔術ではないんだ」


「はぁ!? そんな事出来るのかよ!?」


「ああ」


 バロンの返答にバロン以外の一同は驚く。


「どうやるのバロン!?」


 ヘレネが聞いた。


「だって僕はそれを使える。作ったからね」






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