18 クラウン
「やだ! 私も行きたい!」
宿に泊まる事が出来た四人であったが、幼い天使ヘレネが駄々をこねていた。
理由は自分もイーセの街を見てみたいが為に情報収集に出るリヴァルとバロンについて行きたいのだ。
「ダメですヘレネ。もう、夜なのです。幼い子が出ていい時間帯ではありません」
「リヴァルとバロンだって、まだ子供じゃん! 私だって行きたい」
「お昼の約束をもう忘れたのですか? いい子にしないと針千本ですよ」
「リヴァルは鼻糞千個って言った! 鼻糞なら食う!」
そのヘレネの天使が言ってはならぬ言葉にマリサは絶句し、そしてリヴァルを睨み付けた。そんなマリサの視線に、苦笑いしながらリヴァルは目を逸らした。
「全く・・・・・・ヘレネはリヴァルとマリサが一緒に旅をしているからって浮かれているんだね。約束したのに」
バロンが腰を下ろし、ヘレネと同じ目線で話す。
「いいかいヘレネ。鼻糞は基本的に空気が汚い所で生活している人が多く持ってる場合が多い。残念ながらここは空気が汚い所でもないから効率よく鼻糞を集めるのは無理だね」
「えっ? そんな!」
わざとらしくヘレネは言ったが、ついリヴァルは吹いた。
「そんなじゃねぇよ! バロン、面白いなお前! 鼻糞詳しいなんておもしれぇわ」
「何がおもしれぇわですか! 天使様が鼻糞食べていいわけないでいしょ!」
「えっ!? そうなの!?」
ヘレネが続けざまに言うと、リヴァルは盛大に笑った。
やっとの事ヘレネを説得し、部屋に待機させる事が出来た。リヴァルとバロンは当初の予定通り夜の街へと繰り出し、冒険エルフの情報集めに繰り出した。
夜のイーセは昼間と同じく賑わっており、酒屋が繁盛していた。
「前回来た時は夜の街に出るの師匠に禁止されたんだよな。まあ、俺も十五だし。王国剣士になったんだから大人の階段登っちまおうかな!」
この世界では人間は十五歳で成人とみなされており、飲酒や喫煙も可能であるが、由緒正しき王国剣士は基本的に好ましくないとされる。
「王国剣士がそんな事言っていいのかい?」
「冗談だ冗談。せっかくなれたのに一日で剥奪とか洒落にならねぇよ」
「そうか--まあ、情報収集なら酒場とかで旅人か冒険者に聞くのがいいんだけど、十五になったばかりの僕達がそう簡単に酒場に入れるわけでもない」
飲酒できるとはいえ、ならず者が集まりやすい場所でもある酒場等は危険な場所でもある。
「そうだよな。何かいい方法ねぇかな?」
「何かお困りの様で?」
その声にリヴァルとバロンは振り向いた。すると、そこには一人の男が立っていた。
オールバックの髪型で笑みを浮かべながら二人を見ているその男はどこか不審を思わせる。
「なんだおっさん? 俺達に何の用だよ?」
リヴァルが怪しげな男に少々語気が強い聞き方をした。
「怪しい者ではありませんよ。この街に住まう情報屋でして・・・・・・」
男の対しバロンは警戒している。リヴァルより旅の経験はあるバロンは道中の怪しい人間との関わり方は心得ている。
「情報屋? そんな人が僕達にどんな要件で?」
「商売ですよ。あなた方に情報を売りましょう」
「どうして僕達が今、情報が欲しいと分かるのですか? そして僕達の何か欲しいか分かっているのですか?」
「ええ。冒険エルフの情報でしょう?」
その情報屋の男のリヴァルとバロンは驚いた。リヴァルはとても驚いているが、バロンは何かを含んだ驚き方をしている。
「すげぇなおっさん! どうして分かった!?」
「伊達に情報屋はやっておりませんよ。国内外の情報も仕入れています」
「本当かよ! いくらでその情報を教えてくれんだ?」
「いえ。あなた方からお金はとりません。ただ・・・・・・地に落ちた天使についてご存じないかと?」
その時の男の笑みはバロンをぞっとさせた。リヴァルはあからさまに挙動不審となった。
「ち、地に落ちた天使? そ、そんな天使いる」
リヴァルの言葉を遮る様にバロンは言った。
「残念ですが、僕達は知りません。天使様の情報など僕達は持っていませんよ」
「--そうですか。それは残念」
「行こうリヴァル」
「お、おう」
二人は男から離れていった。振り返る事もなく、人混みに紛れてた二人は、しばらく歩くと路地に入った。
「何なんだあの男は?」
バロンが不安そうな表情で言った。
「天使の情報が欲しいみてぇだったな。まさか・・・・・・ヘレネの事を?」
「ありえないはず・・・・・・いや、昨日の盗賊が情報を流したのか? それあの男は明らかに僕達を狙って近づいてきた様な感じもあった様な・・・・・・」
「それは考えすぎじゃねぇか?」
「なら、いんだけど--」
その後、リヴァルとバロンは情報集めにギルドなどにも立ち寄ったが、情報は掴めなかった。
「今夜はこんなとこか」
ギルドを出たリヴァルが言った。
「そうだね。今日はこれぐらいにしよう。明日もこの街で情報収集をするかい?」
バロンが尋ねた。
「それは明日の朝、マリサ達と話し合おうぜ」
「わかった」
旅が始まった初日、特に進展がないまま、二人は宿へと戻った。
パモーレは夜のイーセの街を一人歩いていた。場所は路地裏。そしてパモーレの背中には大きな袋が担がれていた。
「パモーレ--指示にあった奴らはどんな奴らだった?」
路地裏の壁に寄りかかっていたセルティナが尋ねる。
「ああ。子供ですよ子供。私が大好物な子供達でしたね」
「子供? ハハッ! まさか、あれが子供なんかを恐れるなんてね」
セルティナは笑った。それに対し、パモーレは真顔だった。
「子供を舐めてはいけませんよセルティナ」
「はぁ? 下の毛も生え揃ってないガキに私達が負けると思ってんの?」
「確かに今なら負けないでしょう。だが、子供は・・・・・・伸びしろがある。それははかりきれない事もあるのですよ」
「なーに? なんかテンション低いけど?」
「子供と言っても十五程の子達でしてね」
「ああ、そう。まあ、あんたの範囲外だっけそろそろ」
「まあ、例の天使の子は確認出来ませんでした。それを拝む事が出来たならテンションは爆発していましたよ」
その言葉に笑顔だったセルティナは真顔となった。
「あんたがテンション爆発してたらこの街は吹っ飛ぶでしょ。そんな面倒な事しないでよね」
「できる限り努力します」
「それで--子供なら全部あんたに任せるわ。私はこのまま他の街に行くけど問題ないでしょ?」
パモーレは笑顔を見せた。
「ええ、お任せください。当面は手下に監視させますよ」
「そう・・・・・・じゃあね。クラウン・パモーレ」
セルティナはその言葉を最後に路地の暗闇の中へと消えて行った。
そして誘拐した男の子を詰めた袋をパレーモは背負うと、赤面して身を震わせるのであった。
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