7 勇者の師匠

 リヴァルの師匠ガテナ・マークスは王国剣士だ。王国剣士はアルドア王国における剣、そして尊重である。アルドア王のみ命名権を持ち、剣術を王に認められ、任命されなければなれない職だ。現在およそ百名の王国剣士が属しており、全員、王に忠誠を誓っている。名誉ある職である。


「マークス。その子が貴様が見出した子か?」

 その声にマークスは振り向いた。

 ここはアルドア国王都アヴァニアにある王国剣士軍運営の育成所のとある運動場である。そこで田舎から出てきたばかりのリヴァルをマークスが指導していた。そこに来たのは王国剣士最強の男。『ガオット・オデルク』であった。


「オデルク卿。育成所に来るとは珍しい」


 オデットは壮年の歳でありながらも筋肉隆々で白銀の鎧を纏い、スキンヘッドでスカーフェイスの男である。まさに強者といわれる出で立ちである。


「マークスがわざわざ一年もかけて口説いた子がどんな子か気になってな――それでその子が……?」


「へぇ~おっさん強そうだな!」


 リヴァルが馴れ馴れしく言った。


「おいリヴァル! このお方は王国剣士最強のお方だ! それと目上の人には敬語を使えと何度も言っているだろ!」


「はいはい」


「はいは一回で十分だ!」


「ハハッ! これは小生意気な子だなマークス。王国剣士にするには品位を教えてやらねばならぬぞ」


「こいつには骨を折りそうですが、剣術の才は確かですよ」


「興味がある。見せてくれ」


「よし。では、来るがいいリヴァル」


 マークスはそう言って木剣を手に取った


「おい師匠。本気でいいのか?」


「本気でよろしいでしょうかだリヴァル。全く……本気で来い」


 その言葉を聞いた瞬間、リヴァルは一気にマークスの間合いに攻め入り、木剣を振り下ろす。躊躇ないその一撃をマークスは受け止めた。その早い動きにガオットは少し驚いた顔を見せたが、すぐに笑ってみせた。

 リヴァルは次々に剣を振り出す。その動きは一年前よりも洗練されたものに見えた。

 突然である。この一年の間にもマークスから手解きを何回か受けていたのだ。リヴァルの剣術の才はさらに磨きがかかっている。

 二人の木剣の衝突は何度も続いたが、ついにマークスに隙を突かれ、リヴァルの木剣は中を舞った。


「くっ!」


 そしてマークスに体を手で押されたリヴァルは軽く吹き飛び、尻餅をついた。


「ほほう。マークス。とんでもない子を見つけて来たな」


 ガオットは笑みを浮かべながら言った。思っていた以上にリヴァルの実力が高い事が嬉しい様だ。


「幼少期のあなたに匹敵しますかね?」


「さあな。それにしても、このままでは貴様を上回るかもなマークス」


「本当かよおっさん!? 俺は師匠より強くなれそうなのか?」


 食いかかる様にリヴァルが言った。


「調子に乗るな。それとおっさんじゃない、オデルク卿と呼べリヴァル!」


「かまわん! 私を好きに呼ぶがいいぞリヴァル。それと今日からも私もお前を指導してやる」


「オデルク卿。あなたが先生など贅沢すぎます。いくらこいつの才能が凄いからといってあなたが直々に教えるなど……」


「そうか? なら週一回程度にしようか」


「いえ、あなたのお世話になるなどこいつにはまだ身分不相」


「この国最強のおっさんが俺に剣を教えてくれんのか!? いいぜ! おっさんも超えて俺がこの国最強になってやるよ!」


 リヴァルはオデルクから教わることにまんざらでもない様だ。むしろやる気がある様だ。


「だから師匠。今日までお世話になりました。このご恩一生忘れねぇと思う多分。明日から最強のおっさんの世話になるから、もういいよ師匠」


「ちょっ!? お前、何言ってんの!? 週一ってさっき言っただろうがバカ!」


「ガハハハッ! 面白い子だ。ガハハハッ!!」


 最強のおっさん事、ガオット・オデルクの笑い声は運動場を越え、育成所全体に響き渡るのであった――






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