古びた鍵 4
「ほっほーぅ…………まさか本当に鍵を見つけてくるとはな。となると、あの辺りは公園管理者も見落としてるってわけか。ふーむ…………」
リビングのソファーで寛いでいた父さんに、公園で手に入れた古い鍵を見せると、父さんは眼鏡をくいっと直して、興味深そうにしげしげと眺め始めた。
「僕は鍵の専門家じゃないから、そこまで詳細なことは分からないけど……これは昔の金庫のカギじゃないかな」
『金庫の鍵?』
「鍵の凹凸が三つあるだろう? これを鍵穴に差し込んで少し回して、ダイヤルを三回回すと開くタイプのものだ。形状と素材からして昭和初期、もしかしたら大正時代のものだと推測できるね。ちょっと確認してみようか」
父さんはおもむろにソファーから立ち上がると、仕事で使ってる大きなバックからノートパソコンを取り出して、アンティーク物の金庫について調べ始めた。
すると、5分くらいで父さんはそれらしい画像を見つけて、詳細が書いてあるサイトを開いた。
「よし、ビンゴ…………! ほら、たぶんこれだよ。大正三年製、家庭用金庫…………さほど大きいものではないようだね」
「スゲェ……そんなことまでわかるのかよ!」
「これでも時々アンティークも扱うから、こういった年代物はよく見るんだ。役に立ててよかったよ」
全員で父さんの肩越しに、金庫の画像を見てみる。
黒光りする固そうなボディに金色に輝く真鍮製の取手、そして所々錆が浮いた、典型的な昔の金庫だ。しかも金庫の画像の横には鍵の画像もあって、それは今日見つけてきた鍵と見事に形状が一致していた。
すごいな父さん……鍵の形だけで早くも金庫の種類を割り出すなんて!
「お手柄です、お父様。その功績を讃えて、姫木学園生徒会名誉顧問に任命するわ」
「ははは、名門私立の生徒会名誉顧問か! 形式だけとはいえ嬉しいねぇ!」
そしてユーコ姉さんは、ちゃっかり父さんを「生徒会名誉顧問」に任命してしまった。
あくまでノリで、別に実権とかはないとおもう。
「金庫の鍵ですか……うふふ、なんだか埋蔵金の存在が一際現実味を帯びてきましたね、優古さん」
「えぇ……完全に信じていなかったわけじゃないけど、何かが入っていそうな金庫の鍵と分かると……ふふっ、私も興奮を抑えられないわ」
「ねぇアキホっ! もしこの金庫が出てきたら、何が入ってると思う? やっぱり金の延べ棒とかかなっ!」
「ど、どうだろう……意外と昔のお札だったりして」
「少なくとも爆弾じゃなさそうだなっ!」
「お金だったら私も分け前ほしいなー」
僕たち5人だけでなく、傍で話を聞いていたモエまで加わって、金庫に何が入っているのだろうかとあれこれ想像を巡らせてみる。
金庫は当然一人で持ち運べるものじゃないから、おそらく埋蔵金の複数人が関わっているとみて間違いない。それか、姫木学園の校舎内のどこかに隠し部屋があって、そこに置かれているとか?
そもそも、金庫と鍵を別々に埋めた理由は何なのだろうか?
考えれば考えるほど、むしろわからないことが増えていくなぁ。
これは早く埋蔵金を見つけないと、夜に眠れなくなりそうだ。
「盛り上がるのは構わないけど…………何か見つけたとしても、掘ったり探ったりする前に、きちんと土地の人の許可はとるんだよ。この鍵も、本当なら公園の管理者に渡さなきゃいけないものだからね」
「分かってるわ、お父様。私たちも、強引に他人の土地を荒らすような真似はしないと約束しますわ」
ユーコ姉さんってば、僕の部屋を勝手に漁っておいてよく言うよ。
ないとは思うけど、もしユーコ姉さんが僕の部屋と同じノリで人の敷地を荒らすなら、その時はきちんと反対しよう……今度こそ。
「分かってるならそれでいい、君たちももういい年だから、常識的な判断はそれなりにできるだろう。けど、君たちには一つ……肝に銘じておいてほしいことがある」
あくまで僕たちのやりたいように任せると言ってくれた父さんだったけど――――今までよりちょっと真剣な表情で、人差し指だけをぴんと立てながらそう言った。
「くれぐれも、大人と言う存在を甘く見ないように。君たちはしっかりしているようでも、まだまだ無力な存在だ。そのことをしっかり肝に銘じて、決して危ないことをしてはいけないよ。…………けど、もし本当に危ない目にあってしまったら、迷わず僕や母さんとか、大人に頼ること。いいね?」
「…………わかったわ」
父さんの言葉は、ユーコ姉さんにとって少し不服なようだ。
要は危ないことをしないように気を付ければいいと思うんだけど…………でも、僕もやっぱり何か引っかかるものを感じる。
(大人の存在を甘く見ないように…………か)
言わなかったけれど、もしかしたら父さんはユーコ姉さんが埋蔵金の発掘と引き換えに、生徒会の権限を取り返す交渉をしようとしてることを見抜いてるんだろうか?
個人貿易商として、癖のあるお客さんを何人も相手した父さんだからこそ、分かることもあるのかもしれない。
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