古びた鍵 1
僕たち生徒会は、秘密基地の中でササナ先輩が作ってくれたお弁当を食べながら、さっき手に入れた鍵と、持ってきた古地図を広げて、今後どうするかを話し合うことになった。
「それで? 埋蔵金を山分けしないたぁどういうつもりだ? 俺は埋蔵金が手に入るんだったら、出来れば一部もらいてぇところだ。なにせ俺は授業料をバイトで賄ってる貧乏人なんだぜ?」
「学費が県内で一番高いこの学園に入学した貧乏人なんて、聞いたことないわね。でもよく考えて見なさいアーモン、この小さな島国日本には『誰のものでもない』土地なんてないのよ。そうなると、例え埋蔵金を掘り当てたとしても、それはその土地の所有者のもので、私たちのものにはならないわけ」
「う……それもそうかっ。よくよく考えれば、この鍵も、そしてこの地図も、本当なら公園の管理者に届け出るのが筋だもんなぁ……」
ユーコ姉さんの言う通り、ふつうに埋蔵金を探して見つけたとしても、丸々僕たちのものにはならないし、きっと警察とかに届け出ないと怒られると思う。
とはいえ、法律には詳しくないから、本当のところはどうなのかは知らないけど。
「じゃ……じゃあ、あたしたちの宝探しはこれで終わりなの!?」
「もちろん、終わらせるつもりはないわ。私は……この埋蔵金の在処を、私たち生徒会の地位向上のための交渉材料にしようと思うの」
「交渉材料!? つ、つまり……僕たちが埋蔵金を見つけるから、見返りとして生徒会の権限を拡張してくれって学園側に言うの!?」
「あら、正解よアキ、今日は珍しく冴えてるじゃない。もちろん、埋蔵金のめどがある程度付けば……の話だけどね。もし学園の埋蔵金伝説に関係があるなら、学校の敷地のどこかに埋まっているはずだし、あのケチな学園長も食いついてくるに違いないわ」
「まあ、さすがは優古さん! 素晴らしい考えですわ!」
驚いたことに、ユーコ姉さんは埋蔵金の発見と引き換えに、生徒会の地位の向上を学園に要求する算段らしい。
「それはさすがに無茶じゃね……? 前提条件にいろいろ問題があるのを差っ引いても、いい大人どもが、あるかどうかわからん埋蔵金につられるか? ましてや相手はあのケチ大学でケチを専攻してケチを子供に教えに来てるような学園長だぜ?」
「あなたにしては珍しく弱気じゃないアーモン。大の男が試す前から無理と言ってどうするのよ。男なら度胸をもって何でも試してみるものでしょう」
「なるほど! それもそうだなっ!」
「えー……」
いつも小さい小さい言われていたせいだろうか……「大の男」と言われたのがよっぽどうれしかったのか、懐疑的だったアーモン先輩があっさり賛成に回った。
「いいんですか……アーモン先輩?」
「どうせ貰えねぇなら有効利用した方がいいしな! それに何より、数年ぶりに生徒会に予算がつくかもしれねぇんだぜ! ようやく生徒会役員としての俺の存在意義が出てくるってわけだ!」
そうか…………そういえば今の生徒会には予算が下りないって、この前ササナ先輩が言ってたっけ。生徒会の会計係になってるアーモン先輩にとっては、予算の有無はとても重要な問題なんだろうな。
「ふふ……これをきっかけに、少しでも権限を取り戻すことができれば、それを足掛かりに多少は実績を積み重ねていけるわ。そしていずれ…………そう、アキが生徒会長になる頃には、生徒会の実権を普通の学校並みに取り戻すのよ…………!」
「え!? 僕が生徒会長!?」
確かに僕も生徒会の一員だから、このまま学年が上がれば可能性はなくはないだろうけど………とても、僕が生徒会長になるイメージがわかないなぁ。
仮に生徒会長になったら、僕の影の薄さと平凡さのせいで、せっかく権威復活した生徒会がまた無名の存在になってしまいそう…………
「生徒会長だったらむしろリンネの方が適任だと思うよ! 僕と違って人気もあるし、顔も綺麗だしっ! おまけにリーダーシップも――――むぐっ!?」
「や、やめてよアキホっ! あたしの方がそーゆーの向いてないんだからっ!」
な、なぜかリンネに手で口をふさがれてしまった!
僕また何かまずいこと言ったか!?
「…………まあいいわ、それは今後二人で話し合うなり決闘するなりで決めて頂戴。目下の課題は、この地図……鍵とは別の方向に書かれてる、この箱みたいな物体よ。これを見つけないことには話にならないわ」
「この鍵が大きな鍵穴の中、つまりこの葦古野山の中にあったのですから、もう片方のものは、どこかの三本の木に囲まれた何かに隠されている、ということでしょうか?」
「三本の木ねぇ……お前ら何か思い当たるものはねぇか? 残念ながら俺にはさっぱりだ」
「これも公園の中にあるのかな? アキホはどう思う?」
「うーん、そんなに近いスケールじゃない気がする。ほかの絵にも何か意味があるのかもしれないし…………この凸の形の絵は学校かな? 学校の中で木が三本生えてるなんてところあったっけ姉さん?」
「少なくとも敷地内には、そんな場所の覚えはないわね。目印がとっくの昔に切られたっているなら話は別でしょうけど」
ササナ先輩の言う通り、鍵穴――――つまり前方後円墳の形をした葦古野山の内部にあるということを、この地図は見事に言い当てていたということになる。
だとしても…………相変わらずこの地図はいろいろと抽象的過ぎて、もう一つの物体のありかがさっぱり見当つかない。
まあそもそも古い鍵を見つけたのも、この地図のおかげじゃない単なる偶然だし、いまだに役に立つ情報は何もない。
「役に立たねぇ地図だなぁ……」
『ホントにね!』
こうして僕たち生徒会は、古地図に対して満場一致で非難声明を採択し、しばらくはお昼を食べることに専念したのだった…………。
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