秘密基地 5

 僕たち三人がもと来た道を戻って外に出ると、ユーコ姉さんとササナ先輩は、ビニールシートを敷いてのんびりと水筒のお茶を飲んで待っていた。


「ようやく戻ってきたわね、ずいぶん遅かったじゃない」

「お帰りなさい皆さん。何か見つかりましたか?」

「よぅ会長、お目当てのものが見つかったかもしれんぞ。ほれっ」


 最初に通路を出たアーモン先輩が、ユーコ姉さんにブリキの缶を投げ渡す。

 ユーコ姉さんがそれをキャッチすると、確かに間の中で何か金属でできたものがカラカラと鳴っていた。

 それと同時に、僕とリンネも狭い通路から出ることができた。

 相変わらず眼鏡が壊れているせいで、周囲がぼやっとしか見えないけれど…………ユーコ姉さんの表情が、みるみるいい笑顔になっていくのが何となくわかった。


「ふふ……ふふふ! まさか、本当にあるなんてね…………!」

「ねえねえユーコ姉さん、あたしが開けてもいい? っていうか開けさせて!」

「ええ、私は別に誰が開けても構わないけど、一番に見つけた人に許可を取りなさい。もちろんリンネが見つけたならあなたが開ける権利があるわ」

「いいよリンネ、開けても。どっちにしても僕は何も見えないし」

「うぅ、その……ごめんねアキホ。後でメガネ弁償するから……」

「あら? アキ、いつもかけてるメガネはどうしたのかしら」

「もしかして、洞窟の中でなくしてしまったのですか?」


 と、ここでようやく、ユーコ姉さんとササナ先輩が、僕が眼鏡をかけていないことに気が付いたようだ。


「いやー、僕が通路の途中で転んじゃってメガネを落としたんだけど、暗くてわからなかったからリンネが間違えて踏んじゃって、この通り」

「ふふふ、まあそんなこったろうと思ったわ。やっぱりアキはドジっ子ね」

「いやはや面目ない」


 本当はリンネに衝突されたからなんだけど、その衝突原因も結局僕が立ち止まったせいだし…………よく見えないけど、缶を手にしているリンネの背中がなんとなく落ち込んでいるように思えたから、これ以上リンネの責任は追及しないでおこう。


「まあいいわ。この鍵を発掘できたのもアキのおかげだし、帰りに私が新しい眼鏡買ってあげる。今かけてるダサいのよりも、もっとカッコいいの買ってあげるわ」

「ダサいって……」

「おーおー会長、どうかしちまったのか? そんなにニヤニヤしてるのは初めてだぜ」

「私だって、笑っちゃいたいくらい気分がいい時くらいあるのよ」


 それよりも、いつもダウナー気味のユーコ姉さんが、珍しくとてもテンションが高くなって声までウキウキしているのが…………ちょっと、いや、かなり可愛い。

 というか、アーモン先輩がユーコ姉さんの笑うところを見るのが初めてってことは、姉さんはこの三年間ずっと鉄仮面ぶっちょうづらで過ごしてきたんだろうか?

 

 ともあれ、ユーコ姉さんがテンション高いおかげで、リンネとアーモン先輩もノリノリで缶を開けようとしている。…………まだ鍵が入ってると決まったわけじゃないのに。

 もし中身がただの石ころだったら、三人とも落ち込むだろうか……


「秋穂さん、あまり嬉しくなさそうですね。何か気になることでも?」

「ああいえ、ちょっとまだ現実味がないなって思いまして……」

「もしよろしければお昼ご飯を食べながら開封しませんか? もうお昼の時間は過ぎていますし、秋穂さんもきっとお腹が空いているから、気分が乗らないのかもしれませんよ」

「そっか! もうこんな時間なんだ! 道理でお腹すいたと思った!」


 洞窟の中に入ってすっかり時間間隔がなくなっていたけど、時計代わりのスマホを見たら、もうそろそろ12時30分になりそうだった。なんと丸々1時間、洞窟の中にいたことになる。

 そりゃユーコ姉さんも待ちくたびれるわけだよ


 リンネが、持ってきた缶切りでふたを開けるのを、ユーコ姉さんとアーモン先輩がワクテカしながら見ている横で、僕とササナ先輩でお昼ご飯の用意を始める。


 ササナ先輩が持ってきたカバンには、バスケットや三段のお重が入っていて、それをビニールシートの上に広げる。

バスケットの中には色とりどりの手作りサンドイッチがぎっしり詰まっていて、お重の方には卵焼きや煮物、ポテトサラダにチャーシューなどなど、こっちもものすごい豊富なバリエーションだ。

 お腹がすいていた僕は、一足先にサンドイッチを食べながら開封の様子をじっと見ていると、リンネが持ってきた缶切りで溶接したふたを開け、中から何かを取り出して見せた。


「見て見てアキ! ユーコ姉さん! こんなのが入ってたわ! 大当たりだよっ!」

「鍵だわね。どこからどう見ても、鍵そのものね。これでどこかにある埋蔵金の宝箱が開くのかしら」

「ずいぶんと古いですね。しかし、あまり錆びていないところを見ると、保存状態はそれなりによかったのでしょう」

「しかも先っぽが丸っこいタイプだぜ。こんなの今どき見ないな」

「製造番号とかは書かれてないのかな?」


 僕も鍵のような物体を受け取って、ぎりぎりまで近づけてじっくり見てみる。

 鍵は小さな円筒形の棒に凹凸が付いている昔ながらの形で、持ち手の先端には、トランプのクローバーを思わせる三つの輪っかの装飾が付いていた。

 情報になりそうな文字は何か書かれていないかも見てみたけど、残念ながら文字は何も刻まれていなかった。


「でもユーコ姉さん……ついさっきまでは埋蔵金自体には興味なさそうだったのに、ずいぶん嬉しそうだね。やっぱりユーコ姉さんも埋蔵金が欲しくなったの?」

「せっかく手に入るのだもの、欲しくないといえばウソになるわ。でもねアキ、私は中身をそのまま自分たちのものにして山分けする気はないわ。もっと別のことに使おうと思うの」

「別のこと?」

「そう、別のこと」


 そう言ってユーコ姉さんは、今までにない不敵な笑みを浮かべた。

 その顔が結構怖くて…………ササナ先輩以外は、背筋が凍るほどの恐ろしさを感じてしまった。


 間違いない。

 この顔をしている時のユーコ姉さんは、またろくでもないことを考えているんだろう。


 偽物だと思っていた宝の地図が信ぴょう性を帯び始めてきただけでも厄介なのに、これ以上面倒なことにならなければいいんだけど…………ユーコ姉さんについていくと決めたからには、生徒会の一員として腹をくくらないとね。

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