秘密基地 4

 背中からの衝突で前のめりに倒れた僕は、衝撃で懐中電灯と、もう一つ何か落としてしまう。何が落ちたのか見えなかったけど、感覚で大体察しがついた。


僕は慌てて顔に手を這わせる。


(あ、あれ…………? メガネが……)


掛けていたメガネがないっっ! 探そうにも、懐中電灯の明かりも消えたせいで、どこに転がっていったか分からない!

 落ちた眼鏡と灯りが消えた懐中電灯……目の代わりになってくれた二つの重要なものを失って焦っていると、すぐ後ろからリンネの声が聞こえた。


「ちょっとアキホ! 急に止まらないでよっ! 危ないでしょっ!」


 なるほど、リンネの足音が聞こえなくなったような気がしたのは、単純にすぐ後ろにいたせいで僕の足音と重なったからか……………って、あれ?


「まったまった。なんでリンネが僕のすぐ後ろにいたの!? そもそも急に止まると危ないから、アーモン先輩が3メートル以上間隔を開けろって言ったよね!?」

「う……そ、それはっ! アキホが遅すぎるが悪いのよっ!」


 歩くのが遅いのは確かなんだけど、だからってこんな狭い洞窟内で、僕が気づかない煽り歩行をした挙句にぶつかってきて、文句を言われる筋合いはない、と思う。というか、すぐ後ろについてきてるなら、言ってくれればいいのに。


「おーい、アイチにツキガセ! なに暗闇の中でイチャついてやがんだ。いいもん見つけたから早くこっちにこい」

「あたしたちイチャついてなんていませんって! ほらアキホ、アーモン先輩が待ってるみたいだから、さっさと進むのよっ」


 後ろから衝突したことをうやむやにするかのように、リンネの手が僕の腰やお尻をぐいぐいと押してくる。


「ちょちょちょっ! ま、まったまった! 落とした眼鏡と懐中電灯が……」

「え? メガネ?」


 リンネもようやく僕が眼鏡と懐中電灯を落としたことに気が付いたみたいで、一瞬手を止めた。

 けど、遅すぎた。

 靴で硬い何かを踏んだ感覚とともに、パキンと何かが折れる音聞こえた。




「やっと来たか。3メートル間隔を維持しろって言っただろうに、なにチンタラしてんだ」

「ごめんなさい……僕の体はアーモン先輩ほどコンパクトじゃないから、あっちこっち引っ掛かっちゃっいまして」

「うるせぇ、さらっと俺のことをちっせえって言うなよ…………ん? アイチ、お前眼鏡かけてないのか?」

「あはは、途中でリンネにオカマ掘られて、衝撃でメガネ落として踏んじゃいました……」

「お、おう…………それは確かに災難だな」

「ち……ちがっ!? 誤解すること言わないでよアキホっ! あたしはただアキホに近づきすぎて後ろから押し倒しちゃっただけで、まだそういうことをする間柄じゃ……!」

「ツキガセ、お前…………まあいいや」


 ふんだ。暗闇で後ろから追突した挙句、僕の体を強引に押して、メガネを破損させた仕返しだ。顔を真っ赤にして(いるように見えるけどメガネがなくてよくわからない)ごまかそうとしても、アーモン先輩もあきれるだけだもんね。


「それはそうと先輩、何かいいもの見つけたと言ってましたけど」

「ああ、そうだ、見ろよこれ」


 アーモン先輩は、後ろを振り返って空間の奥を懐中電灯で照らした。

 するとそこには……さっき入り口で見た筒状のブリキの缶(だろうけどメガネがなくてよくわからない)が大量に投棄されているのが見えた。


「なにこれ? ゴミの山? ひょっとして不法投棄!?」

「こんなにたくさんあると、有難みが一気に薄れるね……。アーモン先輩、中身は入ってるんですか?」

「少し見てみたが、どれもこれもほとんどカラだ。けど、ひょっとしたらこの中に何かあるかもしれん。片っ端から探すぞ」


 こうして僕たちは、部屋の片隅にまとまって大量に積まれていた缶の山をガラガラと崩して、中に何か入っていないか探し始めた。


 ただ、僕はこの空間が何のために作られたのかがすごく気になって、なかなか探し物に集中できなかった。

 明らかに人が掘ったと思われるすごい長い隠し通路の先にあるこの広間は、洞窟の入り口……僕たちが秘密基地にしていた空間よりもずいぶんと広い。

 かといって、大量に転がっている缶以外には人工物は何もないし、一目見た限りでは僕たちが入ってきた通路以外に出入口はない(ようだけどメガネがなくて……)。

 正直、正体不明の缶の不法投棄目的だけだったら、こんなに深く掘らなくても、入り口の空間さえあれば十分なはずだ。後でこの缶は、いくつか持って帰って父さんに鑑定してもらうとしようか。


(けど、なんでこの缶はどれもこれも蓋がないんだろう…………ん?)


 落としても無事だった懐中電灯を左手に持って照らしながら、右手で缶詰をかき分けていると、一つだけ片方が薄い金属で溶接された缶を発見した。

 僕はすぐさま手を伸ばす――――が


「あっ」

「あ……」


 缶をつかんだ僕の手に、小さく柔らかい手が重なった。


 見えなくてもわかる。

 アーモン先輩の手だ。


「くそ、先を越されたか。俺の方が先に見つけたと思ったのに、これだから手が長い奴は…………」

「えと……なんかすみません」


 負けず嫌いなアーモン先輩は、一瞬といえども僕に先を越されたせいで拗ねてしまった。

 なんだか申し訳なく思いつつも、僕はとりあえず手に取った缶を振ってみた。


 アタリだ。

 中で何かがカラカラ鳴ってる。


「おお、やったぜ! 中に入っているのが鍵なら、地図の通りだな! これはいよいよ、一攫千金チャンスの到来だな!」

「まさかあたしたちの秘密基地にこんなのが隠されていたなんて! もっと早く気が付けばよかったわ。ね、アキホっ…………、……? どうしたのアキホ、うれしくないの?」


(え? もしかして、本当に埋蔵金の手がかりを見つけた?)


 アタリを見つけて喜べたのはほんの一瞬だった。

 ほとんど冗談のつもりで始めたはずの宝探しだったのに、まさか本当にあの地図の通りに埋まったものを見つけてしまうなんて。


 なんだか急に、シャレにならない事態に突き進んでいくのを感じて、僕はとてつもない不安に襲われた。

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