埋蔵金の噂 3

 僕のせいで微妙な感じになってしまった空気をもとに戻すため、僕は「本題に移る」という名の話題逸らしをすることにした。


「えっと、それで…………わざわざ呼び出したってことは、生徒会がらみで何か?」

「いいえ、違うわ。いつもアキと私は生徒会のことでしか話さないけど、たまにはこうして普通の先輩と後輩として交流しようと思っただけよ」

「お二人とも、高校生活には慣れましたか? 先輩として頼ってくれてもいいんですよ」


 僕が呼ばれたのは、昨日の埋蔵金の話題について話し合うためかと考えていたんだけど、どうも単純に一緒にお昼ご飯が食べたいだけだったみたい。

 学校の中で場所がわからないところはないかとか、授業は難しくないかとか………ユーコ会長は確かに昔から傍若無人なところがあるけど、反面こうして僕たち後輩の面倒はしっかりと見てくれる、頼れる先輩でもある。

 とはいえ、僕もリンネも、学校生活への悩み以前に、入学半月にして生徒会役員になってしまったことへの戸惑いの方がまだ大きい。


「あたしは……入学したばかりなのに、もう生徒会の役員になったっていうのが…………しかも、あんまり活動らしい活動してないし」

「それは僕も結構不安なんだ。伝統ある姫木学園の生徒会なんて、それこそ毎日生徒の為に一生懸命働かなきゃいけないんじゃないかって」

「まあ…………ふつうそう思うわよね。でも実際は見ての通り、こうして生徒会役員が4人もいるのに、誰一人として声を掛けてこないでしょう」


 僕とリンネが入学してすぐに生徒会役員になったのも、ユーコ会長に半ば強引に任命されたから――――というか、この学校はなぜか生徒会役員の人事権は、生徒会長に一任されているみたいで、特に選挙もなしに勝手に役員を決めていいことになっているみたいだ。

 今この場に居ないアーモン先輩も、前代の生徒会長に目をつけられて、僕たちと同じように1年から役員をやっているらしい。


「かつては生徒会もここまで空気じゃなくて、しっかりとした選挙で選出されたメンバーによって、かなりの権限を持って運営されていたみたい。けれど、私たちが入学する数年前に生徒会が何かやらかしたみたいで、それ以来生徒会は、何の権限もない名ばかりの組織になってしまったらしいわ」

「そもそも生徒会に予算が降りませんからね。生徒からの要望や部活動の経費、校内行事といったものは、すべて先生方が決めています」


 ユーコ会長はそう話しながら、やや重いため息をついていた。ササナ先輩の微笑みも、どこか悲しげに思えた。

 

 けど、生徒会の現状を不満に思ってるなら、なおさら毎日僕の家でだべってる場合じゃないんじゃないか…………って言おうかどうか迷っていると


「アキ、リンネ、ちょっと静かにして耳を澄ましてみなさい」

「?」


 突然ユーコ会長が僕とリンネに向かって、人差し指を口に当てて静かにするように言ってきた。僕もリンネも何事かと思って昼食を食べる手を止めると、ユーコ会長が何をしたかったのかがすぐにわかった。


「――――の埋蔵金の正体は、戦時中にこの学校に秘密の貯蔵庫が…………」

「なんでも、埋蔵金の上に新しい校舎を作ったせいで、誰も掘り出せないらしい」

「私的にはー、学校裏の山が怪しいと思うんだけどー、あんたどう思う?」


「ねぇ……アキホ、これって……」

「姉さん……じゃなかった、会長が言ってた『埋蔵金伝説の噂』……」


 お昼を食べている先輩たちのあちらこちらから聞こえてくる「埋蔵金」の単語と、荒唐無稽な噂の数々…………3年生の間で流行っているとは聞いてたけど、実際に耳にすると、思っていた以上に深刻に感じてくる。

 いつも強気なリンネも少し不安を抱えているみたいで、思わず顔を見合わせたときに見た瞳には、困惑の色が浮かんでいた。

 僕はどうやら、ユーコ会長のことを少し誤解していたみたいだ。

 気まぐれで呼び出されたのかと思ったけど、きちんと理由があったんだね……なるほど、伊達に生徒会長やってるわけじゃないんだ。


「ユーコ会長、僕たちをわざわざ3年生の教室に呼んだのは、ひょっとして」

「それはないわ。単純にアキとお昼食べながら話したいだけってさっき言ったじゃない」

「あ、相変わらずぶれないわね、会長……」


 いや、やっぱり誤解はしてなかったらしい。

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