埋蔵金の噂 2

 新入生の僕たちにとって、3年生のクラスに立ち入るのはかなり勇気がいる。

 そんな中で、ユーコ姉さんのいる教室が廊下の端にある1組だったのは、不幸中の幸いだったと言えるかもしれない。


 恐る恐る教室をのぞいてみると、果たして教室の窓側の方に、ユーコ姉さん……いや、学校では「会長」って呼ぶんだった。ユーコ会長とササナ先輩が、机を並べて待っていてくれた。


「来たようねアキ………って、なんでリンネまで一緒なの? あなたまで呼んだ覚えはないんだけど」

「ふっ、甘いわね会長っ! あたしに隠れて昼休みの間にアキホを独り占めしようったってそうはいかないわよ!」

「私もいるんですけどね。ようこそ秋穂さん、それに鈴音さんも。席はそちらを使ってください」

「あ、あのっ……おじゃまします、ユーコ会長、ササナ先輩」

「まったく、私が誘ったのはアキだけなのに…………とはいえ、来てしまったものはしょうがないわ。ほら、そこの席の持ち主はいつも休み時間ギリギリにならないと帰ってこないから、遠慮なく使いなさい」


 僕は周りにいる3年生の先輩たちの存在に圧倒されて、緊張でカチンコチンになってしまっている。逆にリンネは相変わらず上級生のコミュニティーでも、全くひるんだ様子はない。その胆力は本当に羨ましいよ。

 先輩たちが用意してくれた席も、机の脇に掛っているカバンから察するに男子の席なんだろう。上級生の席に下級生が座るなんて、席の持ち主が戻ってきたら何か言われるんじゃないかと思うと、ちょっと……いや、かなり怖い。

 でも今はユーコ会長に睨まれる方がもっと怖い。僕は「失礼しますと言いながら」縮こまるように席に座ると、机の上に持ってきたお弁当箱を広げる。


「あら、秋穂さんはお母様のお弁当ですか。以前優古さんといっしょに頂いたお夕飯もとても美味しかったですし、お昼にも期待できそうですね」


 僕が机の上に広げたのは、母さんが作ってくれた大きめのお弁当。黒い長方形のケースが二段になって、一方におかずが、もう一方にご飯が詰まっている。

 やっぱり僕も食べ盛りの男子だからか、結構な量を食べないとお腹が空いちゃうんだ。

だから、毎朝これだけの量のおかずを作ってくれるのは、本当にありがたい。


「そういうササナ先輩は、会長とお揃いですか? …………いえ、さては会長、ササナ先輩にお昼を用意してもらってる?」

「そうよ。私の分まで作ってくれるって言うから、1年からずっと食材費渡して作ってもらっているの」


 ユーコ会長とササナ先輩のお弁当は、僕のとは違って平べったい円形をしたピンク色のお弁当箱で、一段の中でご飯とおかずが仕切られている。

 これだけで足りるなんて、女子って本当に燃費がいいんだろうな――――と思いながら僕の隣に座るリンネを見ると、持ってきたコンビニ袋からパンを4つと小型パックの飲むヨーグルトを取り出していた。

 何気にリンネも、結構食べる方なんだね。


「何見てるのよアキホ…………悪かったわね、手作りのお弁当じゃなくて」

「そ、そんなっ! 悪いだなんて!?」


 しまった! 思わずまじまじ見ちゃったけど、本当のこと言ったらデリカシーが………。ここは、うまくごまかさなきゃっ!


「り、リンネは父さんもお母さんも海外にいて一人暮らしなんでしょ! だから……その、手作りのお弁当じゃないのは、しょうがないんじゃないかなっ! それにほらっ! 僕もユーコ会長も結局は自分で作ってるわけじゃないんだから、えらくもなんともないよっ! むしろほかの人に作らせてる分、リンネよりも悪いかもしれないしっ!」

「…………そこまで言わなくてもいいわよもう」

「私まで巻き込む必要あったかしら……?」


 そして相変わらず一言多い僕は、リンネだけじゃなくてユーコ会長にまで流れ弾を打ち込んで、機嫌を損ねてしまったのだった。

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