埋蔵金の噂 1
週末にハイキングに行くことを決定した次の日――――
この日は木曜日で、僕のクラスでは休み時間のたびに「土日何して遊ぼうか」という話題が所々で聞こえてくる。
12時30分…………4校時終了のチャイムが鳴ると、空腹になったクラスメイト達が、まるで圧政から解放されたかのような面持ちで三々五々に散らばっていく。
「あ~ぁ、おなかすいたぁ~っ! 今日は誰の席で食べる~?」
「購買行くぞ! 急げ! 俺の大好きな焼きそばパン、早くいかないとなくなっちまう!」
「そーいや今日は木曜日だから、7校時まであるんだっけー。テンション下がるわー」
仲良しグループで机を寄せ合って食べる人、購買のパン買い競争に参加する人、だべりながら校庭に行こうとする人…………僕は今日こそどれかに交じって友達を作ろうとするけど、迷っているうちにみんなどんどん自分たちのエリアを作っていく……。
このままじゃ今日も中庭で、一人で寂しくお弁当――――僕が心の中で焦り始めた時、声を掛けてきた人がいた。
「あーきほっ、今日も一人~?」
「うっ……『今日も』は余計だってばリンネ。一人には変わりないけど。君はいいよね、いつも女の子にモテモテで」
「女のあたしが女子にモテても嬉しくないし…………っていうか、いい加減昼休みくらいあたしの好きに過ごしたいわ」
コンビニ袋を片手に声を掛けてきたリンネは、僕と違って入学した日から男女問わず大勢のクラスメイトから大人気だ。
さてはボッチになりつつある僕を嘲笑いに来たか…………と、思いきや、どうもそんな雰囲気ではなさそうだ。
「というわけで、学校の探検がてら、どこかで一緒にお昼食べない?」
「え………えぇっ!?」
リンネの方からお昼のお誘い!? 完全に予想外で、僕は思わず変な声を漏らしてしまった。
「何よ、あたしとじゃ不服? それともこっそりユーコ姉さんと食べる約束とかしてないでしょうね?」
まずい、リンネの表情がみるみる不機嫌になっていく! これ以上かっこ悪い姿は見せられないな!
「まさか! ここのところずっと一人ご飯だったから、誘ってくれて嬉しいくらいだよ!むしろ、僕となんかでいいの?」
「…………だって、アキホならあたしがどこで食べるって決めても文句言わないでしょ」
「ああ、うん、まあねぇ」
理由はあれだけど、人気者も時には辛いってわけか。
リンネはスウェーデン人の母親と日本人の父親の間に生まれたハーフで、小学校5年の頃に僕と離れ離れになった後はスウェーデンの学校に行っていた帰国子女でもある。
そんな新入学生の間でもとびきり異色の経歴と、その抜群の容姿は同学年の目を嫌でも惹きつけるらしく、休み時間や放課後になると、リンネはあっちこっちに引っ張りだこになる。
かなり羨ましいけど、それはそれで気が詰まるってこともあるんだろうな。
その点、僕と一緒にいるとなぜか周りの視線が一気に減るらしくて、こうしてたまに人除けのように使われるわけで…………
(なんだかまるで僕自身の影が薄いみたいだなぁ)
そう思いながらも、かわいい幼馴染と一緒にお昼を食べられるのは、ある意味チャンスでもある。こんな機会はそうそうないだろうから、どこでも好きなところに付き合ってあげよう。
「さて、じゃあどこにしようか? 僕は晴れの日はいつも中庭で食べてるけど」
「そうなんだ! じゃああたしも中庭に――――あっアキホ、スマホ震えてる」
「メールかな? こんな時に誰が…………」
スマートフォンのロックを解除して開いてみると、そこにはユーコ姉さんのショートメッセージが入っていた。
『お昼を持って3-1に来なさい』
僕は思わず眩暈がしそうになった。
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