僕の家は第二生徒会室 4
夕方を過ぎて18時過ぎ頃になると、ササナ先輩とアーモン先輩は、それぞれ習い事とアルバイトの為に家に戻っていく。
「お邪魔いたしました。明日もまたよろしくお願いしますね、秋穂さん」
「いえ、こちらこそおいしいお茶をありがとうございました」
「なんだかんだ言って、今日も楽しかったぜ。会長とツキガセも、ぶぶ漬け出される前に帰れよ?」
「そうね、ぶぶ漬け出されたら、お替りまで平らげて帰るわ」
「あたしが言うのもなんだけど……ユーコ姉さんは、もう少し遠慮してもいいと思うの」
玄関で先輩二人を見送る僕の隣に、ユーコ姉さんとリンネがしれっと見送る側に立っている。
こっちの二人は、第二生徒会があった後は、夕飯も僕の家で食べていくからだ。
「秋ちゃーん、ご飯用意できたから運んでちょうだい」
「わかった、今行くよ母さん」
「あたしも手伝います!」
「私も行くわ」
普通に家に帰れば夕飯が用意されているササナ先輩とアーモン先輩と違って、一人暮らしのリンネと、特殊な事情があって家で夕飯が用意されていないユーコ姉さんは、家に帰っても自分で夕飯を用意しなければならない。
だったら夕飯もついでに僕の家で食べて帰ればいい――――と言って、僕の母さんが二人の分も用意してくれているんだ。
ユーコ姉さんとリンネも、最近では僕と一緒に料理をテーブルまで運んでくれるようになって、なんだかなし崩し的に家族の一員のようになってきてる気がする。こんなところまで、幼い頃のままだ。
「今夜もお母様のお料理、とても美味いわ。こんなに食べやすい手羽元の煮込みは初めて」
「えへへ、あたしもついこの前までずっと外国生活でしたから、やっぱり生まれ故郷のご飯が一番ですねっ!」
「ふふっ、私の作るものでよければ、いつでも食べにいらっしゃい。なんだったら今夜は泊まっていってもいいわよ~」
「も、もう……母さんったら、冗談きついんだから…………」
僕の母さん――――
というかむしろ、母さんの方から「今日も夕飯食べてって」と言ってるように、昔から人をもてなすのが大好きな性分で、まだ小学校の頃にユーコ姉さんやリンネが毎日のように家に来ていた時も、こんな風にウキウキで面倒を見てくれてた。
ネグレクトの横行で、他人の家に夕飯をたかりに行ってトラブルになる事例も多い中で、逆に母さんのような、いつでもだれでもウェルカムな人は珍しいかもしれない。
「でもよかった。秋ちゃんは中学の頃色々あったから、お母さん心配だったけど……すぐにお友達ができたみたいで嬉しいわ。ユーコちゃんもリンネちゃんも戻ってきてくれたし、ササナちゃんもアーモンちゃんもいい子じゃない。秋ちゃんのお友達だったら、お母さんいつでも大歓迎よ! 萌ちゃんもそうでしょ?」
「まあねっ! 今日も兄さんの面白い話いっぱい聞けたしっ!」
「…………今日のことは早く忘れてくれると嬉しいな」
人のプライバシーについて、根掘り葉掘り聞かれる気持ちを分かってもらえないのだろうか?
というか、6人いる中で男が僕一人っていうのは、やっぱりなかなか慣れないものだなぁ。父さんは出張で明日までいないし…………。
「というか、ユーコ姉さんもリンネ姉さんも、よくぞ大勢の新入生の中から、奇跡的に影の薄い兄さんを見つけたよね。兄さんからも何かアプローチしたの?」
「奇跡って…………。僕のことを先に見つけてくれたのはリンネの方だったし、姉さんは入学式のあいさつで目の前にいたからね…………あれは本当にびっくりしたよ」
「ふふん、確かにアキホは昔に比べてだいぶ大きくなって、おまけに眼鏡をかけてたけど、一発で分かったわ。アキホのことは昔からあたしが一番よく知ってるんだから、当然よねっ!」
びっくりしたといえば、クラス分けの看板の前でリンネに声をかけられたときのことも、鮮明に覚えてる。
知ってる人は誰もいないと思っていたのに、いきなり背後から、それも女の子の声がするものだから、心臓が口から飛び出るかと思ったよ。
それに、体つきもすごい変わっていたし、顔もとってもかわいくなって…………いやいや、僕は何を考えてるんだ。心なしかユーコ姉さんの視線も痛いよ……。
「…………まあいわ。それより、私的には昔からアキに宿題を写させてもらってばかりだったリンネが、うちの学園に入学したことの方がよっぽど奇跡だわ」
「女子は三日会わなければ別人のように成長してるのよっ! もう昔のあたしじゃないんだから、ユーコ姉さんに隙があれば、すぐにでも下剋上してやるんだからっ! ね、アキホ?」
「え!? ぼ、僕も!?」
リンネは、体だけじゃなくて精神面でも急激な成長を見せているな…………って考えてたら、なんかいつの間にか僕も巻き込まれてるし!?
「さすがに……僕がユーコ姉さん相手に下剋上するのはちょっと…………」
「その通りよアキ。あなたは私が姉として会長として、責任をもって育ててあげるから、大人しく従うのよ」
「ちょっとーユーコ姉さーん。アキホは姉さんのペットじゃないんだからねっ!」
「似たようなものじゃない? 下僕って書いてペットって読む、みたいな?」
「モエはさっきからいちいちひどくないかなっ!?」
反骨精神旺盛な幼馴染に、独裁者と化した先輩、そして毒舌な妹のせいで、僕の肩身は狭くなる一方だった。
そして母さんは、この状況を噓偽りのないほほえましい笑顔で見守るだけだった……………
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