僕の家は第二生徒会室 3

「アキホ、そんな噂聞いたことある?」

「僕も初耳だけど……アーモン先輩は?」

「んあぁ、チラッとだけ聞いたことがある。流行ってる……ってほどでもねぇが、運動部の中で先輩が話してたって言う奴が何人かいたな」


 僕やリンネをはじめとする1年生は、まだ入学してそんなに経っていないせいで、当然そういった話はほとんど入ってきていない。

 アーモン先輩と同じ2年生の間でもそこまで広がってはいないようだけど、なんとなくそんな噂があることは知っているらしい。


「けど珍しいね。ユーコ姉さんなら、そんないかにも眉唾っぽい噂は「くだらない」って無視しそうなのに」

「まあね……正直私もこれを見るまでは、ほとんど頭の片隅にしかなかったわ」


 そう言ってユーコ姉さんは、古ぼけて所々が変色している紙を取り出して見せた。

 中を開けば、そこには墨で書かれた出来の悪い地図のような何かが描かれていた。――――――というか、僕はこれに見覚えがある!


「これ、ひょっとして…………僕の部屋のどっかから発掘した?」

「はい♪ 優古さんに教えていただいたセオリーに従って秋穂さんのベッドの下を捜索しましたところ、古い箱の中に様々な紙に交じってこれが出てきました」

「副産物…………ってわけですか。うわあぁ……」


 心優しいササナ先輩が、ウキウキで僕のベッドの下を探っているところを想像すると、こう……ちりちりと、いたたまれない気持ちになってくる。

 とはいえ、あちらこちら漁られたうえでこれしか見つからなかったのは助かった。妹がいるせいで下手なものを置いておけないとはいえ……全くないってわけじゃないから。

 僕が内心でほっとしている間、アーモン先輩は興味深そうに地図を手に取って、しげしげと眺めていた。


「で、このくそ汚い手書きの地図は? アイチの黒歴史の一つか?」

「違いますってアーモン先輩。これは僕が小さいとき…………ある場所でユーコ姉さんとリンネと一緒に見つけて、ずっととっておいたものなんですよ。いくら僕が寂しい中学時代を送ったからと言っても、わざわざ書道で骨董品を偽造するほど中二病してませんからね」

「それは中二病とはなんか違うと思う…………でも確かにこれは、あたしとアキホ、それにユーコ姉さんと遊んでいた時に、たまたま見つけたものに間違いないよっ。いやー、本当に懐かしいものが出てきたじゃない」

「まさかあの時からずっと保管してあるなんてね。私も、てっきり捨てたとばかり思っていたわ」

「ササナ先輩とアーモン先輩にもちょっと話したかもしれませんけど、僕とユーコ姉さん、それにリンネは小学校の頃に学校は違ったけど仲が良くて、時々家族も交えて少し遠くに遊びに行ってたりしてたんですよ。この古い地図も、そのころ偶然見つけたもので……」

「なるほど、少なくともこれは俺たちもお前たちも知らない、どっかの誰かさんが作ったモノってわけだな」


 机の上に広げられた地図は、のたくった墨の線がいくつかと、鍵と鍵穴のようなものと、ちょっと離れて箱のようなもの、その間に目印か何だかよくわからない何かの絵が所狭しと描かれている。

これを「地図」とするのは僕たちが許そうとも、百科事典と国土地理院が許さないだろう。


 この地図みたいなのを見つけた子供の頃も…………よく覚えてはいないけど、なんか変なものがあるってだけで持って帰ってきちゃったんだと思う。けど、高校生になった今、こうやって改めて見ると胡散臭いと思うと同時に、本物であってほしいなっていうロマンもちょっと感じるかもしれない。


「つまりユーコ姉さんは、この宝の地図が3年生の先輩たちの間で流行ってる噂と関係があるっていうの?」

「私の記憶が正しければ、この地図を見つけたのは…………葦古野古墳公園あしこのこふんこうえん。つまり、うちの学園と丘を隔てた反対側なのよね。とはいっても、見つけたのがもう5年以上も前だから、ほとんど関係はないと思うけど」

「関係ない……って言いきれないのがまた微妙よね」


 なぜだろう。どう考えても本物とは思えないのに、タイミングのせいか何か引っかかるものがあるような気がする。

そして、そう思っているのは僕だけじゃないみたいで、ユーコ姉さんを含めて、5人で「う~ん」と考え込んでしまった。


「でもユーコ姉さん、まさかこれで宝探しでもしようって言うんじゃないでしょうね」

「あら、冴えているじゃないリンネ。せっかく見つけたんだから、生徒会全員で埋蔵金探しをしようと思っているの。どう、楽しそうでしょう?」

「えーっ!? マジで言ってるの!? こんなあからさまに怪しい地図で埋蔵金発掘なんて、宝くじよりも当たらないと思うんだけどっ!」

「そんなのは私だって百も承知よ。でも、埋蔵金のうわさが広まってる今、なんとなくこの地図の真偽が気になるのよ。それに無いなら無いで、そのまま生徒会親睦ピクニックして終わりでいいじゃない」

「親睦のピクニックですか、楽しそうですね。私は優古さんの意見に賛成です」

「さすがはササナ、話が早いわね。そしてアキ、当然あなたも賛成よね」

「えーっと、まあ、僕は暇だからいいよ」

「じゃあ私を含め5人中3人が賛成したから、可決ね」

「イエスマンたちを取り込んで多数決とか、リーダーの風上にもおけねぇな。けど、反対する理由がねぇしなぁ…………。相変わらず無理やりなのが気に食わねーけど、別にどうしても外せん用事もないし」

「むぅ……あたしもなんか釈然としないんですけど、親睦ピクニックって形なら」

「じゃあ決まりね」


リンネもアーモン先輩も、それに僕だって、ユーコ姉さんの強引さに少し辟易したけれど、強く反対する理由もないわけで

 反対意見が出ないことに、ユーコ姉さんは満足げに頷いた。


「実地調査に行くのは今週の日曜日にしようと思うのだけど、それでいいかしら」

『異議なーし』


 こうして、あれよあれよという間に、日曜日に生徒会役員全員で「実地調査」という名のピクニックに行くことになった。

 埋蔵金の噂について何か対処するということは特に決めなかったけど、僕の家のエロ本話がいつの間にかうやむやになったのは、却ってよかったかもしれない。

 そんな話をしていると、玄関の扉が開いて、妹のモエが部活を終えて帰ってきた。


「たーだーいまーっ、生徒会さんたち今日もいるのね! 何話してるの? 混ぜて混ぜて~」

「あらお帰り、モエちゃん。今はあなたのお兄さんのエロ本について話してたところよ」

「え、なにそれ! くわしくっ!」

「話を蒸し返さないでよユーコ姉さん!?」


 僕の叫びも虚しく……夕飯の直前までエロ本の話題は続き、僕はその間ずっと針の筵だった。

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